ありのままの君を知りたい

 

 


今日の昼の巡察を行うのは永倉を組長とする二番組と、原田を組長とする十番組。
父、綱道の行方の手がかりを探すべく千鶴は永倉の二番組と行動を共にしていた。
「はぁっ。今日も収穫はなしか…。」
永倉が立寄り箇所で話を聞いている間、千鶴はその周辺で綱道の行方を知る者がいないか、声をかけては尋ねお礼を言うことを繰り返していたのだが、
一向に情報は集まらない。
こんなことで父様を見つけることはできるのだろうか…っと千鶴は落胆していた。
もう新撰組にお世話になるようになってから1年は経つと言うのに、父様の行方は以前わからず、気持ちばかりが急いていた。
情けなさと、不安と、いろんな感情がごちゃ混ぜになってこぼれだしそうになる涙をぐっと耐えた。
「どうした?溜息なんかついて。」
声が降ってくると共に、くしゃくしゃっと撫でるように千鶴の頭に手が置かれた。永倉が戻ってきたのだ。
「いえ、何でもないですよ!さっ、次行きましょう?」
永倉に心配かけまいと千鶴は笑顔を永倉に向けて、行きましょうと促した。
「そうだな、おい、次行くぞ!!」
自分の組の隊士達に声をかけながら永倉は内心、千鶴ちゃんは本当に嘘つくのが下手だな〜と思っていた。
あきらかに千鶴が泣きそうになりながらもそれを堪えている様子に永倉は気付いていた。
自分が辛いと思っていても、俺らの前じゃ決して弱音を吐かない。
千鶴の性格から言ってそれは、心配をかけまいとしての行動なのだろうけれど、それは逆に永倉達には全てをさらけだせないと言うことだ。
永倉はそれを寂しく感じていた。
千鶴が新選組与かりとなった最初こそ、警戒はしていたがこの一年の千鶴の様子から、その警戒は幹部の連中の中でほとんどなくなっていた。
年頃の娘さんが一人、壬生狼と恐れられている浪士集団の中で生活を強いられている、
元来女性には甘い永倉は、そんな千鶴のことを日頃から気にかけていた。
どうしたら、俺らに本音を打ち明けてくれるのかねえっ…
そんな風に永倉が考えていると、前方から別ルートで巡察を行っていた原田の十番組が来た。
「ようっ、新八。そっちは何かあったか?」
「いや、何もねえよっ。左之の方はどうだ?」
「こっちも何もねえなっ。」
そんなやり取りをしながら、永倉と原田の足は自然と屯所へ向かう。
原田がちらりと永倉の横を歩く千鶴に視線をやって、千鶴に話しかけた。
「新八に苛められたりしなかったか、千鶴?」
「そんなことないですよっ?」
「おい、左之〜。人聞きの悪いこと言ってんじゃねえよ。俺が千鶴ちゃんにそんなことするわけねえだろ?なあ、千鶴ちゃん!!」
「はいっ。」
新八の問いに笑顔で答えてはいるが、どうも何か元気ねえみたいだなっと、原田は気にかかった。
どうしたのかって聞いても素直に話しちゃくれねえだろうしな〜…。
原田もまた永倉同様、新選組の監視の元での生活を強いられ、それでも自分にできる仕事を精一杯頑張る千鶴のことを気にかけていた。
屯所に戻ったら、何があったのか新八に聞いてみるか。

「じゃあ、俺らは土方さんに報告行ってくるから、千鶴ちゃんは部屋戻って休んでなよ?疲れたろ。」
「ありがとうございます。じゃあ、部屋戻ってますね。」
屯所へ戻り、永倉と原田は土方への報告のため、千鶴と別れた。
千鶴の気配が遠ざかるのを確認して、原田は永倉へ気になっていたことを問いかけた。
「新八、俺と合流するまでに何かあったのか?」
「何もなかったってさっき言わなかったか?俺。」
原田の問いかけに対して要領を得ない永倉にため息を零しつつ、原田は質問を変えた。
「そういうことじゃなくてだな〜。千鶴に何かあったのか?って意味だよ。」
原田がそう言えば、永倉はようやく意味を理解し答えた。
「特に何もなかったと思うんだけどな〜。俺が立寄りを終えて外に出たら元気なかったんだよな。」
いちおう新八でも、元気がないことは気付いていたのかと原田は驚いた。
そのことに気がついていながら、理由についてはわかってないあたり新八は新八か、と思った。
「女心に疎い新八に聞いたのが間違いだった。」
「そりゃ、どうゆう意味だよ!?」
千鶴が元気がないという話から、永倉が女心に疎いという話へいつの間にかすり替わり、
そんなやり取りをしながら二人は土方の部屋まで行き、とりあえず土方へ巡察の報告を済ませた。
土方の部屋を後にしながら、再び話は千鶴のことに戻る。
「千鶴はホント、自分で何でも抱えこんじまうからな〜。」
「俺達をもちっと頼りにして話してくれりゃいいのに、水くせえよな〜っ、千鶴ちゃん。まあ、あの子の性格からして迷惑かけたくないってことなんだろうけどよっ。」
「あっ、新八っつぁんに左之さん!!やっと見つかった〜!!」
藤堂が二人の方へ駆けてきた。
「俺達に用事でもあったのか?」
原田がそう聞き返せば、藤堂が大きく頷いた。
「まあ、用事ってわけでもないんだけどさ〜、何かお酒飲んで騒ぎたい気分なんだよね。腹割って話したいって言うかさ〜…。」
藤堂の発言が終わるか終わらないかのタイミングで妙案をひらめいたように永倉が言った。
「それだっ!!平助たまには良いこと言うじゃねえか!!よしっ!!今日は千鶴ちゃんも連れて島原行くぞ、島原!!」
「何、新八っつぁん、千鶴も誘うの!?」
「おうっ!!そうと決まれば、土方さんに千鶴ちゃんの外出許可もらわねえとな!!」
そう言うと、永倉はどたどたと足音を立てながら土方の部屋へ向かって行ってしまった。
その様子を見て、藤堂は腹を割って話したかったのは、最近元気のない千鶴のことだったのだけどな…と思い、
原田は、"腹を割って"の部分しか耳に入ってなかったな、新八の奴っと嘆息するのであった。

「千鶴ちゃん飲んでるか!?」
けっこうな量のお酒をもうすでに胃袋へ収めた永倉は楽しそうに千鶴に言った。
「それにしても可愛い方どすな〜。お肌もすべすべつやつややし。」
花魁にそう言われて、千鶴は顔か真っ赤にして俯いてしまった。
こんな綺麗な人からそんなこと言われたらどうすればいいのわたしっと千鶴はうろたえた。
「そうだ、姐ちゃん!!頼みてえ事があるんだけどよ、ちょっと耳貸してくれねえか。」
永倉がそう言うと、
「何どすか〜??」
っと花魁が永倉の方へ寄って行き、永倉から何かを耳打ちされた。
「おもしろそうどすな〜、協力させてもらいますわ。」
っと、妖艶なまでに美しく口と目を三日月型にして微笑んだ。
「何だよ、新八、こそこそとしやがって。」
「そうだよ、新八っつぁん!!何、悪巧みしてんだよ〜!!」
原田と藤堂が非難の声を上げたが、そんなものどこ吹く風と言わんばかりの表情で、花魁に永倉は言った。
「じゃあ、頼むぜ姐ちゃん!」
「まかしといておくれやす〜。さあさあ、お嬢さんちょっとこちらにおいなんせ。」
「えっ、えっ!?」
混乱した様子の千鶴の背を押して、千鶴と共に花魁が座敷を出て行った。
後に残されたのは、楽しげにしている永倉、困惑顔の原田、藤堂だった。
「ちょっ、ちょっと新八っつぁん!!千鶴どこに連れてかれちまったんだよ!?」
焦る藤堂に対して永倉は落ち着いた様子で笑顔で言った。
「心配すんな!!ちゃんと戻ってくるからよ、ゆっくり酒でも飲んで待ってりゃいんだよ。」
永倉の様子と、花魁の先程の発言から原田はある考えが浮かんだ。
「は〜ん、何となく読めたぜ、新八の考えてることがよ。俺の予想が当たってりゃ、良い物が見られるぜ、平助。」
片や永倉と花魁の行動が全く読めない藤堂はわめき散らした。
「何だよ、左之さんまで!!わかんねえよっ!!」

千鶴と花魁が出て行って半刻ほど経った頃、先程出て行った花魁が永倉、原田、藤堂のいる座敷へと戻ってきた。
「びっくりしはるくらいの出来どすえ。はよう、こちらにおいなんせ。」
「無理です…、恥ずかしいです…。」
襖の向こう側から千鶴の消え入りそうなほどの小さい声が聞こえてきた。
「恥ずかしがらんと、さあさっ!!」
一度、座敷内に戻ってきた花魁が再び廊下へ戻り、千鶴の腕を引いた。
そして、開いた襖の間から千鶴が花魁に手をひかれた状態で現れた。
鮮やかな紅色の着物に、金糸で見事な刺繍の施された帯、男装している普段は高めの位置で結んでいる漆黒の髪が、わずかに肩へ下ろされ残りは綺麗に結われており銀細工の簪を挿している。
「どないやろか〜?あまりに上品やさかい、ここに戻ってくるまでに他のお座敷の御仁から引く手数多やったんどすえ。うちでこのまま働いて欲しいくらいやわ〜。」
花魁の言葉に返ってくる言葉はなかった。
千鶴の姿を目の当たりにした3人は皆一様に制止していた。
永倉は自分が花魁に頼んでおきながら、お猪口片手に静止し、
原田は予想していた事態であったにも関わらず、永倉同様お猪口片手に静止し、
藤堂は全く一人何もわからない状態であったため、驚愕し持っていた箸を膳の上に落とした。
「やっぱり、わたしには似合わないんですよ〜。着替えてきます!!」
花魁の手を振りほどいてその場より逃げ去ろうとする千鶴の腕がつかまれた。
「誰も、似合ってないなんて言ってねえだろ?中入って座れよ。」
千鶴の腕を捕らえたのは、原田だった。わずかに頬を染め、伏し目がちに千鶴へそう促した。
原田に手を引かれ、千鶴は原田の隣へ座った。
「ほな、うちちょっと他のお座敷のお相手してくるさかい、千鶴ちゃん後よろしゅう頼んます。」
花魁が気を遣って席を外したため、座敷には永倉、原田、藤堂と花魁の姿の千鶴だけになった。
誰も一言も発しない沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは、この空気にいたたまれなくなった千鶴だった。
「…あの〜、永倉さん。何でわたしこんな格好させてもらったんですか?」
千鶴としては男装を終始言い付けられている身。事情を知る新選組幹部三名しかいない空間とは言え、なぜいきなり本来あるべき女性の格好、
しかも花魁の格好をすることになったのか意味がわからなかった。
千鶴に話しかけられて、ようやくはっと我を取り戻した永倉は、頬を赤く染めつつも、千鶴を真剣な表情で見て答えた。
「最近、千鶴ちゃん元気なかっただろ?それによ、本当ならもう嫁にいっててもおかしくない年頃の娘さんが、
ずっと男装をしてなきゃなんねえなんて辛いだろ?だからよ、ちょっとでも、元気になってくんねえかなって思って、
千鶴ちゃんが元の姿をしてもよ事情を知ってる俺ら幹部だけの前でならかまわねえじゃねえか。だから、花魁の姐ちゃんに頼んだんだよ。」
父様が見つからない、情報も集まらない…。新選組の皆も父様の行方を捜しているとはいえ、これはやはりわたしの問題だと思い、
その焦りを不安を皆には見せないようにしていたつもりだった。
永倉の発言に続くように、永倉の声で我を取り戻した藤堂が言った。
「そうなんだよ!何か最近千鶴元気ねえしさ、何か悩み事とか困ったことあんなら俺らに相談しろよ!!水くさいじゃん。」
そう藤堂が言えば、原田も続くように言った。
「千鶴が元気ねえとさ、こっちまで何か元気なくなっちまうんだよ。俺らはお前から元気をいつも、もらってんだ。
だから、お前が元気に笑ってられるようできることがしてえんだ。もっと俺らを頼れよ。」
わたしは居候で、いつも皆さんに迷惑ばかりかけてて…。
そんなわたしの様子を気にかけて、心配してくれて、どうしてこの人たちはこんなにも優しいのだろう…。
永倉が千鶴の目の前に胡坐をかき、千鶴の顔を覗き込んで言った。
「一人で何もかも抱え込んで悩むなよ。俺らは千鶴ちゃんの力になりてえんだ。
どうしたんだ、一体?」
永倉のその言葉で千鶴の中で限界まで張り詰めていたものがはじけた。千鶴は涙と共に堰切ったように溢れたもの全てを吐き出し始めた。
「父様を探すために江戸から京へ来たのに、っ…皆さんに迷惑かけるばかりで、…父様の行方は全然わからなくて…ひっく。
どうすればいいのかわからなくて………っく。
なのに、迷惑かけてばかりのわたしに皆さん優しくしてくれて、っ…だから心配はかけないようにしなくちゃいけないと思って…。」
涙と共に自分の気持ちを吐き出す千鶴を見て、永倉は千鶴の頭を子供をあやすようにぽんぽんと軽く叩きながら言った。
「馬鹿だな〜千鶴ちゃん。全然迷惑かけられてるなんて思ってないぜ、俺達は。むしろ俺達の方が千鶴ちゃんに迷惑かけてんじゃねえかって思うぜ。なあ?」
永倉が原田、藤堂に同意を求めた。
「そうだな。俺らの都合のせいで千鶴には無理を強いてるんだしな〜。そのくせに、不平不満言わないで一生懸命で、更にはこんな俺達に笑いかけてくれる。そんな千鶴が迷惑だなんて思うはずねえだろ?」
原田がいつものように、優しい微笑みを浮かべてそう言えば、
「うん、千鶴がもし仮に俺等に迷惑かけたとしても、千鶴からかけられる迷惑なら大歓迎だって!!
一人で抱え込んで元気なくなる千鶴なんか見たくねえし、辛いなら辛い、悲しいなら悲しい、そんなことも言ってもらえねえなんて寂しいじゃん。」
藤堂は冗談めかすように、明るく言った。
「なっ?俺達相手に迷惑かけてるなんて思うことなんか一つもねえんだ。これからは何でも相談してくれよ?」
新八がいつものように明るくニカッと笑って言った。
「まあ、新八の場合、相談にのれんのか?ってのが疑問だけどな。相談するなら俺にしとけよ、千鶴。」
「左之さん抜け駆け禁止!!俺に何でも相談してくれよな!!」
「おいおいおい、俺だってな〜、真面目に相談くらいのってやれるんだぜ!!」
いつもの三人がそろったときの調子で言い合いを始めると、千鶴は皆の優しさが気持ちが嬉しくて、泣きながら笑った。
その様子に気がついた三人は皆、顔が緩むのを感じた。
千鶴の目尻に溜まる涙を原田が指でぬぐってやりながら千鶴の顔を間近で覗き込んで言った。
「あんまり、泣くなよ?せっかくの別嬪さんが台無しだぜ?」
元々端整な顔立ちの原田に至近距離で言われれば千鶴の顔は途端に真っ赤になった。
「だ〜!!左之、気安く千鶴ちゃんに触ってんじゃねえよ!!」
そう言いながら千鶴の腕をひいて原田から離そうとすれば、千鶴の体は簡単に傾き永倉の胸へ倒れこんでしまう。
「うわっ!!すまねえ千鶴ちゃん!!」
焦って千鶴から離れて謝る永倉。
「いっ、いえっ、だっ大丈夫です…。」
千鶴は立て続けに起こった事に恥ずかしさのあまりだんだんと小さな声になっていく。
「も〜!!左之さんも、新八っつぁんも何やってんだよ〜!!やだね〜これだからおじさんは〜。」
「だ・れ・がおじさんだ、誰が。新八はともかく俺を一緒にするな。」
「何〜!!左之、お前裏切るのか?いや、それよりも平助!!誰がおじさんだ!!」
またもや、言い合いを始めた三人を見て、涙の止まった千鶴は三人に向かって言った。
大輪の花でも敵わないほどの笑顔を浮かべて。
「永倉さん、原田さん、平助君。本当にありがとうございます。わたしとっても嬉しいです!!」
千鶴の笑顔を見た三人は言うまでもなく、再び動きを止めてしまった。そして、三人が三人共、頬を朱に染めていった。
「…あの、皆さんどうかされました…?わたし何か変なこと言っちゃいましたか??」
千鶴が不安げに三人の様子を伺うようにして言えば、頬を赤く染めたまま大慌てで三人共同時に否定した。


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本当は千鶴+新八+左之の予定でしたが、やはり新八、左之で島原と来たら平助を外せない。。。っとなり、平助も出しました。
そしたら3人のやり取り書くのが楽しくなっちゃって終わらない!終わらないよ!!orz
ただ単に、新八で何か書きたいってのと、千鶴を女の子姿にして騒がせ隊3幹部と絡ませたい!!
って考えたらこんなことになっちゃいました(苦笑

 

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