口は災いの元 後編


その日の夕刻、土方、沖田、永倉、斎藤、藤堂、原田、山崎の主立った新選組幹部の面々と千鶴は、島原へと来ていた。
沖田の提案に土方だけは確実に反対するだろうと永倉、原田、藤堂、千鶴の四人は思っていた、いやむしろ願っていたのだが、
「久しぶりに島原へ行くのも悪かねぇな。」
っと乗り気な様子で、副長がそうおっしゃるのであればと斎藤、山崎も異を唱えることもなかった。
無論、沖田が島原行きを提案した原因を作った当人である四人を見逃すはずもなくこうして、この面々で島原へ来ることになったのだ。
そして、新選組御用達の角屋へとやって来て、角屋の一室へ案内されているところに一人の花魁が声をかけてきた。
「あら〜、永倉はんやないどすか〜。今日は大勢連れて来てくれはったんやね〜。さすが永倉はんっ。」
「いや、その……、まっ、まあなっ!!」
実際、そういうわけではないのだが、とりあえず己の面目を保つために花魁の言葉に同意した永倉。
そして、花魁の視線が他の面々の方へ移った時、
「あら、千鶴ちゃんやあらしまへんの〜!!また来てくれはったんやね!!」
花魁が千鶴へ気がついて声をかけた。
千鶴は男装しているため、いくら可愛いと言っても、男と思われているはずであるのだから、呼ばれても雪村さん、千鶴君のはずだ。
永倉、原田、藤堂を除く他の幹部が千鶴を"ちゃん"付けで呼ぶ花魁に疑問を抱き花魁を見ていたが、
花魁はそれには気付かず、千鶴へと歩み寄って行く。
「あっ、この間はありがとうございました。」
千鶴はぺこりと頭を下げながら花魁へと礼を言った。
「お礼なんてええんよ。あんなん、かましまへん、うちも楽しませてもろたし。それに、今日もやないん??」
「えっ、いや、今日は……。」
花魁に気圧され、さらにこの場で言っても良いものかと悩み、千鶴がしどろもどろになっていると、全てわかっているというように、花魁が言った。
「そんな遠慮なんてええんよ?さあさ、一緒においなんせ。永倉はん、また後で。」
「えっ!!ええっ!?」
驚き困惑の声を上げる千鶴を花魁は引っ張って連れて行ってしまった。
後に残された新選組幹部の面々はあまりに急な展開に何が起こったのかとぽかんとするばかり。
唖然としていた状態からいち早く立ち直ったのは、流石と言うべきか、鬼の副長である土方だった。
「いったい、何だったんだ?それより、千鶴はどこに連れてかれたってんだ?」
土方の言葉に我を取り戻す面々。ただ、花魁が千鶴を連れて行った理由が想像のつく永倉、原田、藤堂に関してはまずい……っという表情を浮かべている。
その表情を見るまでもなく、理由を知っていそうだと、土方が三人に怒鳴った。
「おいっ、新八、原田、平助!!一体どうゆうこった!!説明しやがれっ!!」
土方の怒鳴り声に近くの座敷の客や花魁が何事かと顔を覗かせる。
角屋の廊下で注目の的となってしまった、幹部の面々。
「副長、ここでは目立ちすぎます。座敷へ着いてから話しませんか。」
冷静な声で山崎がそう言えば、斎藤もそれに同意し続ける。
「ここで話していては、新選組の評判が悪くなります。とりあえず、座敷へ行きましょう。」
山崎と斎藤の言葉に、周りの様子に気がつき舌打ちする土方。
「そうだな。お前等、座敷に着いたらきっちりどうゆうことか説明してもらうからなっ。」
鬼の副長が鬼の形相で永倉、原田、藤堂の三人を睨みつけた。
「三人には、この間のことも全て洗いざらいしゃべってもらうからね。覚悟しておきなよ。」
沖田は、いつもながらの悪魔の微笑みを浮かべて言った。
土方の鬼の形相、沖田の悪魔の微笑み。その二つを見て永倉、原田、藤堂の三人が肩を落としたのは言うまでもない。

座敷に通され、案内役の禿が下がり襖が閉じるのを見届け足音が遠ざかったことを確認すると、再び土方の怒声が響き渡る。
「で、どういうことなんだ、おめぇら!!」
「まっ、まあ、土方さん落ち着こうぜ!!」
「そうそう、落ち着いて話せばわかるって!!」
「うんうん、とりあえず土方さん落ち着いてくれよっ!!」
永倉、原田、藤堂は土方のあまりの剣幕にとりあえず、落ち着いてくれとなだめてみることにした。
「おれぁ、十分落ち着いてる。おめぇら、話を逸らしてんじゃねぇぞ」
眉間にいつもより深い皺を刻み、こめかみをぴくぴくと引きつらせながら土方が言った。
その様子に、背筋から嫌な汗が流れるのを三人は感じた。
「あはは。三人共いい加減、白状しちゃいなよ。」
「うるせぇ、総司。おめぇは黙ってろ。……で、どういうことなんだ?」
横槍を入れてくる総司の言葉を一刀両断した後、土方は再び三人に向き直り聞いた。
永倉、原田、藤堂の三人はあきらめたようにお互いの顔を見合わせた。
そして、一番余計なことを言う心配のない原田が口を開く。
「……千鶴が元気なかったんで、以前ここに連れて来たんだが、俺等の都合であいつにゃ不自由な生活を強いちまってるじゃねぇか。
いい年頃の娘を終始男装させてよ。だからよ、ここなら事情知ってる俺等幹部しかいねぇし、千鶴に女の格好させてやりたくてつい……。」
最後の方を言い淀む原田に対して、土方が言う。
「つい何だ?言うんだったら最後までちゃんと言え。」
「つい……。」
原田が土方に促され先を言おうとした矢先のことだった。
「俺が、さっきの花魁の姐ちゃんに千鶴ちゃんに花魁の格好させてやってくれっつったんだよ。左之と平助は何も関係ねぇ。」
永倉が、原田の発言を遮るようにして言った。
「……。」
沈黙する土方。下を向き黙り込む永倉。その状況で口を開いたのは、
「副長。三人の行動はいささか軽率であったとは思いますが、千鶴のことを考えてのことです。
それにたしかにあの日以降、千鶴の表情が明るくなったように思います。ですので、どうか怒りを納めてはいただけないでしょうか?」
斎藤だった。
斎藤も千鶴が元気のない様子に気付いており、気にかけていたのだ。
「……わぁってるよ。……こいつらの考える事だ、どうせ、んなこったろうと思ってたんだ。俺は別に怒っちゃいねぇよ。」
土方の発言に、驚いたように目を剥いて顔を上げた永倉。原田、藤堂も驚いた顔をして土方の方を見た。
「何だよ、おめぇら。俺が怒るとでも思ったのか?」
土方の発言にこくこくと頷く三人。その様子を見て、土方は苦笑いしながら続けた。
「俺だって、千鶴が元気ねぇってことには気ぃ付いてたしな、それにおめぇらが千鶴に少しでも元気になって欲しくてやったんだろうってことだってわかる。だから怒ったりしねぇよ。」
胸をなでおろす三人の様子に、土方はますます苦笑いを強めた。
「な〜んだ、そんなことだったの?何かもっとおもしろいことでもあったのかと思ってたのに、残念だな〜。」
普段は文句たらたらの三人があれだけご機嫌だった理由に興味があった総司はつまんな〜いと、残念そうにしている。
「総司、おめぇは……「失礼いたします。」
土方が口を開きかけたとき、襖の向こうから声がかかった。
そして襖が開いた先には、先程会った花魁がいた、そしてその後ろにはもう一人花魁がいた。
後ろにいる方の花魁の顔を認めると、永倉、原田、藤堂はにんまりと笑顔になり、土方、沖田、斎藤、山崎の四人は固まってしまった。
「こちらへ来て早々悪いんどすが、うち他の座敷にちょっと行かなならんのんで、うちはこれで失礼します。そいじゃあ、千鶴ちゃん後はよろしゅう頼んます。」
花魁はそれだけ言うと、千鶴と新選組幹部の面々をそのままにし、にこにこ笑顔で去っていった。
土方、沖田、斎藤、山崎は相変わらず固まったまま微動だにせず、その様子にうろたえおろおろとする千鶴に、原田が寄って行く。
「それにしても、千鶴はやっぱり別嬪さんだな……。」
千鶴に聞こえないくらい小声で原田は千鶴に見惚れながら呟いた。
「えっ?何かおっしゃいました?原田さん?」
「いや、何も言ってねぇよ。とりあえず、んな廊下にいつまでもいねぇで中に入れよ。」
原田は、千鶴へ手を差し伸べ千鶴の手を引いてやった。
そして、そのまま千鶴を自分の隣に座らせると、原田も胡坐をかいて座り込んだ。
「あ〜っ!!左之さん、また千鶴の横なんてずりぃ〜!!」
その様子に藤堂が不満の声を上げる。それに続くように、永倉も言う。
「左之!!千鶴ちゃん独り占めしてんじゃねぇよっ!!ずりぃぞ!!」
ぎゃんぎゃんと言い合いを始める三人の騒々しさに、ようやく我を取り戻した土方、沖田、斎藤、山崎。
四人とも惚けた様な表情を浮かべ、千鶴を見ていた。その四人の様子に気がついた千鶴は居心地が悪くてたまらず、四人に声をかけた。
「……、あの…皆さんどうかなさいましたか?」
困惑した顔で問いかけてくる千鶴に、自分達が千鶴を凝視していたことにようやく気付き、斎藤と山崎は頬を仄かに染めそっぽを向き、
沖田はにこにこと笑って千鶴を見て、土方は困ったような、何とも形容しがたい顔をして苦笑いしていた。
その多種多様な表情を浮かべる四人を見て、千鶴は一人勘違いし思い悩んでいた。
ああっ、似合ってないのに何て格好してんだとか思われているんだろうな……。
どうしよう、いつもの格好に着替えたい……。的外れな勘違いにより千鶴は羞恥からそう思い、思い切ってその旨を言葉にしてみることにした。
「……あの、似合ってなくて見苦しいですよね?着替えてきても良いですか……?」
千鶴が、俯きがちに皆に向かってそう言うと、間髪入れずに言葉が返ってきた。
「おいおい、何言ってんだよ千鶴ちゃん!!似合ってねぇなんて事あるはずねぇだろ?」
「そうだよ、千鶴!!めちゃくちゃ似合ってるし!!」
「そんな、残念な事言うなよ。千鶴が似合ってねぇっつーなら、いったい誰が似合うってんだよ?いつにも増して別嬪さんで似合ってんだから、んな事言うなよ。」
先程まで言い争いをしていたはずの永倉達が大急ぎで千鶴を止めにかかった。
「似合ってねぇなんか、誰も言ってねぇだろうが。せっかく綺麗にできてんだ、そのままでいやがれ。」
「新八さん達が、ご機嫌で罰則受けてた気持ちがわかるな〜。それにしても、こんな可愛い妓がいるんなら、毎日だって島原に来たいよね。」
「似合っていないなんてことも、見苦しいなんてことも有り得ない。……、そのとてもよく似合っていて、綺麗だ……。」
「君は全然自分のことをわかっていないな。とてもよく似合っている。ずっと、そのままでいて欲しいくらいに……。」
永倉等に続くように、土方等、千鶴の花魁姿に見惚れていた面々も着替えると言い出した千鶴を止めにかかった。
「えっ、でも……。」
「でももクソもあるか。女の格好なんて普段できやしねぇんだ、できるときにやっとけ。」
皆が自分を傷つけないよう気を遣っているのだと思った千鶴はなお言い募ろうとしたが、土方の一言によりその言葉は発することなく消えていった。
「……。」
「おら、わかったのか?」
「……、はいっ!!ありがとうございます。」
口をつぐんでしまった千鶴に返事は?っと土方が言えば、千鶴は笑顔を浮かべてお礼を言った。
千鶴の花も綻ぶような笑顔を見て、皆一様に頬を染めあげた。
永倉は、千鶴から目を逸らしながらお酒をがぶがぶ飲み、
原田は、目を細めて嬉しそうに微笑みながら千鶴のことを見て、
藤堂は、千鶴に目が釘付けになり固まってしまい、
土方は、視線をそらし、ついつい緩みそうになる口を手で覆い隠し、
沖田は、にこにこと笑顔で千鶴のことをじっと見て、
斎藤は、俯いて目を所在なさげに動き回らせ、
山崎は、千鶴から視線をそらし平常心を保つのに精一杯であった。
皆の不思議な行動に千鶴は首を傾げた。何だろう、また何か変なことでも言ってしまったのだろうかと、悩みそうになった矢先、声がかかった。
「千鶴。俺に酌してくれねぇか?」
千鶴の隣に座る原田がお猪口片手に言った。
「あっ、はい!!……どうぞ。」
「……、やっぱり美人に酌してもらった酒はうまいな。」
この笑顔でどれだけの女性を虜にしてきたのだろうか……っと思わず見惚れるくらいの美しい笑顔で言われた言葉に、
千鶴は俯いて赤くなってしまった。
千鶴が俯いてしまったことをいいことに、原田は千鶴の細腰に手を回そうとする。
それを目敏く見つけた沖田が阻止すべく言った。
「千鶴ちゃん、僕にもお酌してくれない?」
思わぬ妨害に原田が沖田を見やれば、沖田は千鶴に気付かれないよう一瞬殺気のこもった視線を原田へ送った。
「あっ、はいっ。ちょっと待ってください。原田さん、失礼します。」
沖田の声に返事をした千鶴は、原田に席を離れることを断り、沖田の元へと向かおうとすると、手を掴まれた。
「後でまた俺にも頼むな、千鶴。」
原田を振り返り、了承の返事をしようとしたら、原田の視線に返事を紡ぐはずの口の動きが止まってしまった。
原田があまりにも艶っぽい、千鶴を愛おしげに見る視線とぶつかったからだ。
「……はい……。」
千鶴の返事に満足そうに微笑むと、原田はようやく千鶴の手を離した。
あのように見られては、どうすれば良いかわからない。千鶴は頬を染め俯いて原田の視線から逃れるように沖田の隣へ向かった。
「あの、沖田さんどうぞ……。」
千鶴が沖田のお猪口へお酒を注ぐ間、じぃっと沖田は千鶴を見つめていた。
その視線が痛いほどで千鶴はどうすればいいのか、なぜこんなに自分を見るのかわからず困惑してしまった。
沖田も、原田に負けず劣らずの端整な顔立ちである。その沖田にこんなにも見つめられていては頬を染めずにはいられない。
「おい、千鶴。俺も頼む。」
そのとき天の助けとばかりに、土方から声がかかったので、沖田に断りを入れようとしたその時、
「だ〜め。千鶴ちゃんは僕にお酌してくれてればいいの!!土方さんなんか放っておきなよ。」
っと、沖田が千鶴の肩に手を回して抱き寄せて、にっこり笑って言い放った。
「おい、総司。今の発言、お前は俺にけんかを売っていると捉えていいのか?」
額に青筋を浮かべてはいるが、土方が冷静に言う。
「いやだな〜土方さん。けんかなんか売ってませんよ。ただ僕は、土方さんは下戸だからお酌なんて必要ないって言っただけですよ。」
どこか黒い雰囲気を感じる笑顔で沖田が答えた。
「俺は、別に下戸じゃねぇ。嗜む程度にしか飲まねぇってだけだろうが。」
土方と沖田は一触即発な雰囲気を醸し出していく。沖田に抱き寄せられ、二人の間に挟まれた状態の千鶴。
この二人を自分に止められるはずがない、どうしようどうしよう!?っと必死に考えを巡らせてみるが名案が浮かぶはずもなく、気ばかりが急いて、冷や汗が出てくる。
その時、突然千鶴はふわりと自分の体が軽くなって浮いた気がした。
「総司、千鶴が困っている。いいかげんにしろ。」
そう声が聞こえたと思ったときには、千鶴は斎藤によって抱きかかえられていた。
「ちょっと、一君、邪魔しないでくれるかな?」
沖田は殺気を湛えた瞳で斎藤を見据える。
斎藤は千鶴を下ろすといつの間にか千鶴の後ろへ来ていた山崎へ千鶴を託した。
山崎が千鶴を土方、沖田、斎藤の席から離すと今にも抜刀して斬りあいが始まるのではないだろうかと言わんばかりの勢いでその場の温度が下がっていった。
千鶴はその様子が気になって仕方なかったのだが、そんなことはどこ吹く風だと言わんばかりに千鶴に声がかかった。
「千鶴!!俺にも酌してくれないっ?」
山崎と藤堂の間に座った千鶴に、藤堂が早速声をかけてきた。
土方等の様子が気になるが、断るわけにも行かず千鶴は、藤堂へお酌する。
「あっ、うっうん。はい、どうぞ平助君。」
「ありがとな!!」
満面の笑みで礼を言い、千鶴に注いでもらった酒をうまそうに飲む藤堂。
藤堂のその様子を見ながらも、土方等の様子が気になりそわそわしている千鶴に山崎が声をかけた。
「千鶴君、俺も頼んで良いだろうか……?」
「はいっ。山崎さんもどうぞ……。」
「ありがとう。……副長や沖田さん、斎藤さんのことだが、君が気にする必要はないと思う。」
「えっ……?」
山崎がいきなり口にした言葉の真意を量りかね千鶴は首を傾げた。
「先程から、副長達を気にしているようだが、あれは沖田さんが悪いのだから、君がそんなに気にする必要はないと思う。」
「そうそう!!あれはどうやって見ても土方さんにけんかを売った総司が悪いって!!だから、千鶴が気にすることなんかないって。」
千鶴の不安気な顔を見たくない二人は、千鶴の不安を取り除くように言った。
自分のことを気にかけて、安心させるようなことを言ってくれる二人の優しさに、千鶴は嬉しくなり、心が温かくなるのを感じた。
その気持ちのまま、微笑んで二人へお礼を言った。
「お二人とも、ありがとうございます。」
千鶴のその笑顔でお礼を言う様は、可愛くて二人は再び頬を赤くした。
「そっ、そんな礼言われるようなことなんかしてねぇし!!」
「君がお礼を言うようなことではない……。」
あまりの千鶴の可愛さに二人は千鶴と視線を合わせることができずに言った。
千鶴は、二人のそんな様子にどうしたのだろうと思いつつ、ふっと前にいる永倉へ視線を滑らせると、
永倉が手酌でお酒を飲んでいる様子が目に入った。
「あっ、あの……、平助君、山崎さん。ちょっとお席失礼しますね。」
千鶴は二人に声をかけて席を立ったのだが、先程の千鶴の笑顔に悩殺された二人にその声は届いていなかった。
席を立った千鶴は、永倉へと歩み寄った。
「お隣宜しいでしょうか?」
「おっ、おうっ……。」
千鶴の花魁姿を見るのは二度目であるにも関わらず、永倉は極度に緊張し千鶴を直視できずにいた。
その原因は、以前来た時に千鶴が極端にお酒に弱く、それを知らずにお酒を勧め、酔わせてしまった結果、
千鶴が目覚めるまで抱きつかれていたことを思い出し、意識してしまったためである。
その緊張をごまかすために、千鶴が座敷へ来てから一人、酒を注いでは飲むことを繰り返して、一升と言わない量をすでに永倉は飲んでいた。
「永倉さん、お注ぎしますよ。」
「あっ、おおっ……。わりぃな……。」
「いえ、どうぞ。」
永倉のお猪口に千鶴が酒を注ぐ。
肩が触れ合うくらい近い距離に千鶴がいることで、永倉の緊張は極限状態になっていた。
気を紛らわせるため、千鶴の注いでくれた酒をまた一気に呷った。
途端に、永倉は視界がぐらりと揺れたかと思えば、千鶴の方へ倒れ、永倉の意識はそこで途切れてしまった。
突然、何の前触れもなく永倉が倒れて来たことに驚き、千鶴は声をあげた。
「永倉さん!?大丈夫ですかっ!?」
極度の緊張と、その緊張を紛らわすために酒を飲み続けたことで、永倉は酔い潰れて眠ってしまった。
見事に千鶴の膝に頭が乗るようにして倒れたため、千鶴の膝枕で気持ち良さそうに寝ている。
「永倉さん……?」
千鶴が一応声をかけてみると、永倉がむにゃむにゃと寝言を言った。
「……千鶴ちゃん……。ほん…と、き…れいだ……。」スースー……
それは本当に小さな声で洩らされた永倉の本音を表す寝言。永倉のその寝言に千鶴は頬を染めた。
そんなことは露知らず、千鶴の膝枕で穏やかに寝ている永倉を千鶴は見て、永倉の髪の毛を手で梳きながら、
「ありがとうございます、永倉さん。でも……起きてるときに言ってくれたらもっと嬉しかったんですけどね。」
っと誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。

その後、酔い潰れて眠ってしまった永倉を隣の部屋へ移動させたので、千鶴は永倉から解放されたのだが、
永倉の介抱をしていますと言って、永倉へ付き添った。
そんな二人の様子を、襖の隙間から覗き見る選組幹部六人。
「何で千鶴ちゃんが新八さんの介抱なんかするのさ!!平助が新八さんの介抱しなよ!!」
「いや、意味わかんねぇし!!何で俺なんだよ!?こういうのは山崎君が適任なんじゃねぇの?」
「いえ、遠慮させてもらいます。だいたい眠ってしまっているので、介抱など不要かと……。」
「そうだな、眠っている相手に介抱など必要ないだろう……。なのに、なぜ千鶴は……。」
「くぅ〜新八の奴、何で、またあんな美味しい思いしてんだよっ!?俺も千鶴に付き添ってて欲しいぜ。」
「新八の奴がまた美味しい思いってのは、どうゆうことだ。詳細を話せ、原田。」
小声でこのようなやり取りをしながら隣の部屋を覗き見ていた六人は、原田の話を聞くべく、一時襖から離れた。
そして原田の話を聞き終え、再び襖の隙間から隣の部屋を除き見る六人の視線は暢気に眠っている永倉へ向いており、
その視線に殺気がこもっていたことは言うまでもない。

翌日、新選組屯所の道場で土方、山崎、斎藤、沖田、原田、藤堂を相手に鍛錬をしているように見える永倉の姿が見られたとか……。
また道場周辺には、これで人を殺めることができるのではなかろうかと言うほど、尋常でない殺気が立ち込めていたとか……。


○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。 ○o.。
ようやく、後編書き終わりました〜。
ただの自己満足のために書いたので、まったくオチがありません!!
そして、永倉を敵視する幹部が一気に増えました!!
当初考えていた終わりと全く違う終わり方になってしまったんですよね〜。。。
無計画で書いて、思うがままに書き進めるので当初と違う終わり方になることがよくあります(苦笑
そして想定以上の長さになってしまったりすることも。。。
ただ、新八と千鶴を絡ませたくて、そして、絡ませた分皆を嫉妬させたくて書いてます。
果たして、道場で何が起こったんでしょうね?新八は生きて道場から出られたんですかね?
かなりの駄文、読んでくださってありがとうございますm(__)m

あっ、ちなみに座敷ではこんな感じで座ってると思ってください。
↓↓席はこんな感じ↓↓
  斎藤 原田 永倉
土方
  沖田 藤堂 山崎

 

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