口は災いの元 前編


今日は珍しく、永倉、原田、藤堂の非番が重なりいつものように集まった三人は島原に行くでもなく中庭に面した縁側で雑談していた。
「それにしてもよ〜、あん時の新八の顔ったらなかったぜ」
原田が笑いながら、その時の様子を思い出して言った。
「ホント、ホント!!新八っつぁんってば、顔真っ赤にして固まってたもんな〜!!あ〜思い出しただけでも笑いが止まらない…。」
藤堂も笑いが止まらないっといった様子でひーひー言いながら腹を抱え涙目になり言った。
「うるせえっ!!ありゃ、赤くなるな、固まるなってのが無理だろうが!!」
二人が笑い転げている様子に永倉は猛然と抗議した。しかし、その時のことを思い出したのか、心なしか顔が赤い。
赤い顔をしてのその抗議は怖さもなく、全く意味を成していなかった。

ひとしきり笑って笑い疲れたのか、ようやく原田が笑い以外で口を開いた。
「それにしてもよ、納得いかねえのは、何で新八だったんだってことだな。」
原田が少し苛立った面持ちでそう言えば、今の今までひーひーっ言いながら笑い転げていた藤堂の笑いがぴたりと止まった。
目尻に浮かんでいた涙を指で拭いながら言う。
「そうだよ!!何でよりにもよって新八っつぁんなのさ!!左之さんならまだわかるけどさ…。」
不満気な表情で藤堂が言うと、原田はにやりと笑った。
原田は、新選組組長らしい筋肉のついたしなやかな体躯、端整な顔立ち、女性の扱いのうまさから、女性に惚れられることが多い。
原田自身もその自覚はある。
だからこそ、あの事に関しては納得できていなかった。
「だよな〜?俺ならまだしも、何で新八なんかに…」
最後の方は、そう言いながら鋭い眼差しを永倉へ向ける。
「何でえ、何でえ!?平助も左之も!!」
三人がぎゃあぎゃあとそんなやり取りをしていると、いきなり背後から声がかかった。
「こんなところに、三人で集まって何してるのさ?」
「騒がしいと思ったら、やはりお前等か…。」
巡察を終えて戻って来たばかりなのだろう、隊服を着たままの沖田と斎藤がそこに立っていた。
沖田はあ〜うるさいっと不機嫌さを表情に出しながら、斎藤はこいつ等は何でいつも三人集まるとこうなのだろうか…副長の心労が窺われれる…っとため息をついて三人を見下ろした。
「巡察お疲れさん。土方さんとこに報告行く途中か?」
先程話していた内容へ喰いついて欲しくないため、原田は話をそらすように二人に問いかけた。
特に沖田。沖田に話がばれたら間違いなく喰いついてくる。めんどうくさいのはごめんだ。
それに総司にあの事を知られるのは嫌だと原田は思っていた。
新八や平助はその場にいたから仕方ない。が、千鶴と自分との秘密としておきたかった。
「ああ、そうだ…。」
「僕としては、鬼のとこになんか行きたくないんだけどね〜。行かなきゃ行かないでまた後からうるさいからさ。」
原田の問いかけに斎藤は淡々と、沖田は飄々としながら答えた。
そして、沖田は目と口を三日月型にして笑顔を形作って続けた。
「で、何話してたの?」
たしかに、笑顔は笑顔なのだが目が笑っていない。
目が獲物を見据えるようなものになっている。
「何でもないって!!この前島原に行ったときの話だよ話!!」
藤堂も原田と同じ気持ちであったのか、沖田の様子を見て本能的に何か危険を感じ取りそう答えた。
「この間、千鶴ちゃん連れて島原に行ったときの話をしてただけだ!!」
永倉も沖田に知られるのはまずいと思ったのか、慌てたように言ったが、完全に墓穴を掘り、沖田へ喰いつく餌を与えてしまった。
「ふ〜ん、この前千鶴ちゃんを連れ出して朝帰りして土方さんに大目玉喰らったときのこと?」
沖田の言葉を受けて永倉はようやく、墓穴を掘ってしまったことに気がつき、顔面蒼白した。
原田は眉間を指で押さえて嘆息し、藤堂は盛大に嘆息し肩を落とした。
完璧に沖田の興味を引いてしまった。
こうなるともう、どうにもならないことを長い付き合いの永倉、原田、藤堂はわかっている。
全てを話すまで沖田は納得しないし、3人から離れないだろう…。
「そう言えば、土方さんからたっぷり説教と罰則をくらったはずなのに、何か三人ともやけに機嫌良かったよね。特に新八さん。」
嘘をつくのが下手な素直な永倉、藤堂は沖田の発言にびくっと反応してしまう。
獲物をじわじわと追い詰めていくのが楽しいというように、沖田が心底楽しそうに底意地悪い微笑を浮かべている。
沖田のその様子に絶体絶命だと、三人が冷や汗をうかべたとき、天の助けとばかりに黙って様子を見ていた斎藤が口を開いた。
「いい加減にしろ、総司。今優先すべきは、副長のところに報告へ行くことだろう。」
"神様、仏様、斎藤様ってもんだ!!""さすが斎藤だぜ、ありがてぇ!!""ありがとう一君!!"っと三人は各々内心で思った。
そして、目だけ動かして、沖田の様子を伺う。
沖田は斎藤の方をちらりと横目で見て、しばらく何かを考えた後、盛大に嘆息し諦めたように言った。
「……あ〜あ、はいはいっ。一君って本当に真面目を絵に描いたような人間だよね〜。じゃあね、三人共。」
三人に手をひらひらと振りながら沖田は土方の部屋へ足を向けた。その後に、斎藤も無言で続く。
二人の姿が完全に視界から消えた途端、永倉、原田、藤堂はどっと脱力した。
「ったく、新八!!お前何思いっきり墓穴掘ってんだよ!!」
「そーだよ、新八っつぁん!!見た!?あの総司の爛々と輝かせた瞳!!」
沖田に喰いつかせるきっかけを作り出してしまった永倉へ二人が怒りの矛先を向ける。
「悪かったよ!!つい、口から出ちまったんだよ!!」
自分が悪いとわかってはいるが、口から出ちまったもんはしょうがねぇじゃねぇか!!っと、自分を攻め立てる二人に対して永倉はヤケくそに謝った。
「それにしても、一君のおかげで助かった〜…。」
「っんとに、斎藤いなけりゃどうなってたことやらだな!」
「……お前等、総司があれで引き下がると思うか……?どうも、やな予感がすんだよな……。」
「そうか〜?総司だってたまには素直なこともあんじゃねえの?」
「そうだよ、左之さん!!心配しすぎだって!!」
楽観的に考える二人に対して、原田はどうしても総司があれで引き下がるとは思えなかった……。


土方への巡察の報告を終えた沖田と斎藤は廊下を二人並んで歩いていた。
「は〜っ。どうして何もなかったのに、土方さんとこに毎回報告行かなきゃなんないんだろうね。面倒この上ないな〜。」
「お前は、何かあっても報告に行かないだろう。」
「あはは、僕の事よくわかってるね。さすが一君。」
楽しそうに笑いながら沖田が言った。
二人が廊下の角を曲がると、沖田が何かにぶつかった。
「ひゃっ…。」
その何か、洗濯物の山を抱えた千鶴は小さく悲鳴をあげ、そのまま後ろへ倒れそうになり衝撃が来るのを覚悟し目を瞑った。
しかし、いつまで経っても自分の体に衝撃がない。そっと目を開けると、間近に沖田の端整な顔があった。
倒れると思って千鶴は目を瞑ったのだが実際は、沖田が咄嗟に腕を引っ張ってくれたので倒れずにすんだのだ。
ただ、腕を引っ張られたので当然そのまま、沖田の胸に飛び込んでしまい、沖田に抱き締められている状態になっているのだが……。
自分の状況を把握した千鶴の顔がみるみると真っ赤なりんごのようになっていく。
「どうしたの、千鶴ちゃん。顔が真っ赤でりんごみたいだよ?」
沖田は、千鶴のその反応にご機嫌になりその整った顔に満面の笑みを浮かべた。
「……あのっ、えとっ、そのっ……。」
顔を真っ赤にしたまま何かを言おうとしているのだが、まったく言葉になっていない。
「ん?どうしたの?」
千鶴の言いたいことなどお見通しだが、沖田はにこにこ笑顔でわからないフリをした。
「……だから、あの……。」
「……いい加減離してやれ、総司。」
沖田の腕からひったくるように斎藤が千鶴を助けてくれた……のだが、なぜか、今度は斎藤に抱き寄せられる形になってしまった。
ようやくあの沖田の端整な顔が間近にある状態から逃れられたと思ったら、今度は斎藤に抱き寄せられ、斎藤の綺麗な顔が間近にあり、
一旦は引いた熱が再び顔に集まってくる。
千鶴はまたしてもりんごのように顔を真っ赤にしていた。
沖田はその様子が不愉快とばかりに、顔は笑っているが温度を下げた声で斎藤に言った。
「……何?一君は、僕にけんか売ってるのかな?」
「……どうゆう意味だ?」
斎藤は沖田の発言の意図が読み取れず問い返した。
「その手。何ずっと千鶴ちゃん抱き寄せてるのさ。」
「……、すっ、すまない、千鶴。」
沖田に言われてようやく気がついた様子の斎藤は、慌てて千鶴から離れる。
「……いっ、いえ、大丈夫です……。お気になさらないでください……。」
斎藤も千鶴もお互い頬を真っ赤に染めて俯いている。
その様子が沖田は非常に面白くない。
千鶴の意識を自分に向けさせようと沖田は、俯いて真っ赤になっている千鶴を後ろから抱き締めて千鶴に凭れかかる。
「ひゃっ!?」
「総司っ!!」
斎藤が射殺さんばかりの殺気を帯びた視線を向けて来たが、沖田はその視線を無視し、千鶴の顔を覗き込むようにして話しかける。
「ねぇ、千鶴ちゃん。以前さ、新八さんと平助と左之さんと島原行ったとき何かあったの?」
猫撫で声で甘えるように千鶴へ尋ねれば、千鶴は何かを思い出したように顔を真っ赤にした。
「へえっ…、何かあったのは間違いないみたいだね。」
先程の猫撫で声から一変して、殺気を含んだ声色に、千鶴は背中からいやな汗が出るのを感じていた。
そして、先程とは打って変わって今度は顔を真っ青にした。
「で、何があったの千鶴ちゃん?」
顔は満面の笑みを浮かべているはずなのに、目だけは笑っていない。
明らかに機嫌の悪いときの沖田の表情に、千鶴はその場で凍りつく。
「ねえ、何があったの?僕には言えないようなことがあったのかな〜?」
なかなか答えない千鶴に沖田が質問を重ねた。
「いい加減にしろ、総司っ!!」
あまりの千鶴の困惑ぶりに斎藤が助け舟を出したのだが、沖田は斎藤を一瞥し言った。
「一君は何があったのか知りたくないの?」
「ぐっ……。」
永倉、原田、藤堂の様子から斎藤も何があったのか気にならないわけではなかったため、沖田にそう言われ言葉につまってしまった。
「ほら、一君だって気になってるんじゃない。それなら、口出ししないでよね。」
沖田の言葉に斎藤は二の句が継げなくなった。
斎藤の様子に満足した沖田が千鶴へと視線を戻すと、千鶴は目を泳がせて硬直したまま相変わらず口を割ろうとしない。
そんな千鶴を見ながら沖田は良いことを思いついたという様子で口の端をあげ笑顔を作って言った。
「そんなに言いたくないの?じゃあさ、僕とも秘密を作ろうか。今日は僕と出かけてみんなに言えないようなことしよっか。」
にっこりと綺麗な顔で笑顔を作って沖田が千鶴へ言うと、千鶴は沖田に後ろから抱きつかれたまま、手足をじたばたと動かしながら答えた。
「いっ、いえっ、遠慮させてもらいます!!」
「遠慮しなくてもいいよ〜。」
楽しそうに千鶴に後ろから抱き着いている沖田。
顔を真っ赤にしながら沖田に抱きつかれてじたばたしている千鶴。
そしてそれをどうしたものかと眉間に皺を寄せて悩む斎藤。
その現場を目撃したのは、先程千鶴が歩いてきた方向からやってきた永倉、原田、藤堂の3人組と、
沖田、斎藤が歩いてきた方向からやってきた土方、山崎だ。
「おい、総司!!お前なにやってんだよ!!」
「総司、千鶴に抱きつくなんざいい度胸だな。」
「千鶴嫌がってんじゃん!!」
「総司、てめえ何してやがる。」
「雪村君が嫌がってる、離してやってください。」
千鶴の一大事と言わんばかりに5人皆、沖田を非難する声をあげた。
「あ〜あっ、うるさい人達に見つかっちゃった〜。でも、千鶴ちゃん抱き心地いいんだよね、離したくないな〜。」
そんなことを言いながら千鶴に頬ずりする沖田の様子を見た土方の雷が落ちた。
「いい加減にしねぇか、総司!!」
ゴンッ―――――
「いったぁ〜。土方さん、すぐ手を出すのやめましょうよ。」
土方にげんこつをくらい沖田はしぶしぶ千鶴を解放した。
「うるせえっ、今のはどう考えてもてめえが悪いんだろうが。で、こんなとこで何してたんだ?」
沖田は、土方に殴られたことで余程気分を害したのか、答えようとしない。
「おい、斎藤。何があった。」
沖田の様子から何もしゃべらないだろうと判断した土方は、質問する相手を変えた。
「はいっ。巡察を終えて、副長に報告へ行く途中でのことですが、新八、左之、平助が騒いでる現場に遭遇しました。
そのとき以前三人が千鶴と共に島原へ行ったときの話をしており、その話に興味を持った総司が、三人が副長から説教と罰則を受けたはずなのに楽しそうだった三人の様子から、
何かあったのだろうと推測し、何があったのか詰問したのですが、
3人から答えが聞けなかったため、あの日一緒に島原へ行っていた千鶴の方に詰問していた、という次第です。」
斎藤の説明を聞き、土方は嘆息した。
「ったく、くだらねぇことでいちいち騒いでんじゃねえよ。」
「土方さんだって、気になりません?いつもなら文句言いながらのはずの三人が、ご機嫌に罰則をこなしたんですよ?」
「……っまあな。」
沖田の執念に負けたというのか、気になる気持ちが皆無でなかった土方はつい同意してしまった。
「ほら〜。土方さんも気になってることなんだし、今日はみんなで島原に行って、お酒の席でゆ〜っくり3人に何があったのか聞きましょうよ。
お酒が入った方が口も滑らかになるでしょうし。」
沖田は満面の笑みを浮かべて言った。見る人から見れば悪魔の微笑みとしか見えないような笑顔で。
その微笑みに永倉、原田、藤堂、千鶴が凍りついたのは言うまでもない。
斎藤、山崎はその微笑に嘆息し、土方は余計なことを言ってしまったと頭を抱えた。

○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。 ○o.。
本当は、1本で終わらせようと思っていたのですが、思った以上に斎藤と総司のやり取りを書くのが楽しくなってしまいだらだらと書いてたら、
1本に納めるとかなり長くなる。。。?
っと思い、思い切って2本にわけることになりました!!
さすがに2本で終わるはずです。。。
さすがにさすがに3本に。。。なんてことはないと思います。
2本目は島原行きますよ!!
新選組攻略キャラ+新八、山崎さんで!!
本当は今回山崎さん登場しない予定でした。けど、最近山崎さんSSを読み歩くことにハマってまして。。。
ついつい出してみたくなり出すことにしました(苦笑
ここまで読んでくださってありがとうございます。
いつUPできるかわからないですが、2本目も読んでいただけると幸いです。
2009/12/22 加筆・修正

 

SAKURA6.JPG - 838BYTES薄桜鬼TOPSAKURA6.JPG - 838BYTES