久遠


わたしはきっと、ずっとあなたの事を思い続けます。
でも、あなたにわたしの気持ちを伝えれば、優しいあなたはきっと困ってしまうと思うから…。
だから、この気持ちはずっとわたしの胸の中に秘めたままにしておきます。
せめて、あなたに知られないよう、あなたのことを思い続けることだけは許してください。
この気持ちまで取り上げられたら、きっとわたしはあなたの傍にはいられなくなってしまうから…。

初めてあなたに出逢ったのは、わたしが血に狂った羅刹を見てしまいその処遇をどうするかの合議に連れて行かれたとき。
厳しい目でわたしを見るあなたの視線に体が強張ったことを覚えてる。
その後、実はわたしは女であることがわかったときのあなたの表情はものすごく驚いていて、
そして、女とわかってからは態度が軟化した。
それからわたしの新選組屯所での生活が始まった。
女性に優しいあなたは、わたしの心配をしてくれて、よくわたしに金平糖やお饅頭、お団子を土産だ!!一緒に喰おう!!っと言って持ってきてくれた。
そしてわたしが、"わたしがもらっても良いものか、いつももらっているのに…"っと恐縮してしまうのを見越して、
礼に美味しいお茶入れてくれ!!っと言ってくれた。
巡察に同行したときはもちろん、非番の日に父様探しを手伝ってくれたことも何度もある。
その度に情報が何もつかめず落胆するわたしを励ましてくれた。
不逞浪士との斬り合いになったとき、いつもわたしを背に庇い、そして、わたしには人を斬り殺すところなんて見ないで欲しいと…。
そんなものからは無縁でいて欲しいと言ってくれた。
いつか普通の女としての幸せを見つけて暮らして欲しいからと…。
最初はわたしも兄がいたらこんな感じだろうか?っと思っていた。
あなたがわたしの頭をぽんぽんと撫でてくれるのが子供扱いされているようだったけれど、好きだった。
剣を握る手だからごつごつしているけれど、わたしを撫でてくれるあなたの手が好きだった。
いつの間にかそんな風に感じるようになって、気付けばあなたに触れられるとそこから熱を帯びるようになった。
太陽のように明るくてわたしを温かさで満たしてくれるあなたをいつしか兄ではなく男として意識し、
気付けばあなたに想いを寄せる自分がいた。
それは、わたしが自分の気持ちをちょうど自覚した時だった。

「ついに新八が腹括ったか〜」
「おうっ!!俺だってな〜、男見せなきゃなんねえ時くらいわかってんだぜ!!」
「島原に行くたび花魁の姐ちゃん相手にしどろもどろになってた新八っつぁんがね〜、本っ当に信じらんね〜!!」
「なんだ〜、平助?ひがみか〜??」
何を言われても全然痛くない。そんな様子だった。
それはそうだろう…、彼は今幸せの絶頂にいるはずなのだから。
わたしが想いを寄せる男性(ひと)、
新選組二番組組長、永倉新八は今日、島原にある亀屋の芸妓・小常さんの身請けをし祝言を挙げた。
わたしも島原へ行ったとき小常さんに会ったことがある。
小常さんは、色白で鼻筋が通っていて、物腰が柔らかくて、"京美人"っていう言葉がよく当てはまる人だ。
わたしなんかとは比べるのもおこがましいくらいに美しくて、永倉さんの隣にいてお似合いの人…。
「まっ、とりあえずおめでと、新八さん。」
「おう!!ありがとな、総司!!」
「これでお前も少しは落ち着いてくれるといいんだがな…。」
「なんでえ、斎藤!!俺は昔から落ち着いてるじゃねえか!!」
「斎藤の言うことも一理あるな。まあ、何はともあれおめでとう。嫁さん、幸せにしてやれよ。」
「おう!!ありがとな、土方さん。」
幹部の皆さんが口々に永倉さんを祝福する言葉を紡いでいる。
その様子を少し離れた場所からわたしは見ていた。
永倉さんにとってわたしは妹みたいなもの…。
だから、笑って"おめでとうございます。"って言わなきゃって思うのに、まるで口を縫い付けられたように口が開かない。
笑おうと思うのに、顔の筋肉が硬直したように動かない。
きっと、永倉さんもわたしが祝福してくれるのを待ってる。
言わなきゃと思って、ようやく口が開いてくれた。けれど、喉はカラカラになって、言葉が出てこない。
言わなきゃ、言わなくちゃっと思えば思うほど、言葉が出てきてくれない。
わたしの様子がおかしいことに永倉さんが気付いたのか、わたしの方へと歩み寄ってくる。
「どうした、千鶴ちゃん?具合でも悪いのか?」
わたしに目線を合わせるよう、少し屈んでわたしの顔を覗き込んで聞いてくる。
いつものように変わらずわたしのことを気遣ってくれる優しさが、今日は息ができなくなるくらい苦しい。
永倉さんのことを見ることができず、ぱっと目を逸らしたらようやく言葉を発することができた。
「いっ、いえっ。そんなことないですよ!!わたしは元気です!!」
永倉さんに心配をかけないように空元気でそう答えた。
ただ、その間決して、永倉さんと目を合わせることはしなかった。
「じゃあ、何で俺の方見て言ってくれねえんだ…?何か俺、嫌われるようなことでもしちまったか…?」
永倉さんが寂しいそうに呟いた。
その永倉さんの声を聞いて、ぱっと永倉さんの顔を見る。
そこには、眉尻が下がって悲しそうな表情を浮かべた永倉さんがいた。
わたしはそんな顔をあなたにさせたいわけじゃないのに…。
あなたは何も悪くない。悪いのはわたしがあなたを好きになってしまって、あなたを他の人に渡したくないと思う自分が悪い…。
もう、わたしのあなたへのこの気持ちが通じることはないと思って、あなたに純粋に"おめでとうございます"と言えないわたしが悪い…。
胸が張り裂けそうだ…。
でも、わたしはあなたの事を愛してしまったから、自分がどうであろうと、あなたには笑顔でいて欲しい。
だからわたしはあなたを祝福しなくてはならない。
それがあなたを愛してしまったわたしの義務。
唇が震える、涙が零れ落ちそうだ…。
でも、ここで言わなきゃ…。震える唇を開いた。
「…おめでとうございます。小常さんとお幸せになってください…。」
涙を堪えてるせいか声が震えてしまった気がする。
自分では笑顔を作ったつもりだけど、引きつってないだろうか?ちゃんと笑ってお祝いを言えてるだろうか…?
「…ありがとうな。千鶴ちゃん。」
微笑んでいつものようにわたしの頭をぽんぽんっと撫でてくれる。
その笑顔といつもの優しさで涙が一気に零れ出しそうになる。
わたしがここで泣いてしまえばさっき、自分の心がばらばらになりそうだと思いながらも歯を食い縛って言った祝福の言葉が無駄になる…。
「あっ、わたし、お茶淹れて来ますね!!」
もう、限界がだった。わたしはお茶を淹れてくるという口実で、その場から逃げるように勝手場へと駆けて行った。
幹部は皆、わたしが先程までいた大広間にいるので、勝手場には誰もいない。
我慢していた涙が一粒、二粒…後はもう、止まることなく頬を伝い落ちていった。
わたしは声を押し殺して泣いた…。
永倉さんがわたしを妹のようにしか思ってないことはわかっていた。
けれど、わたしは永倉さんが好きだった。愛していた。
お茶を淹れて来ると言って出てきたのだから早くお茶を淹れて戻らなくちゃいけないと思うのに、涙は止まらない。
後から後から、泉のように湧きあがってくる。
そのとき、ふいに勝手場の入り口に誰かが立つ音がした。
はっと顔を上げるとそこには、
「千鶴。やっぱり泣いてたのか。」
苦笑いを浮かべた原田さんが立っていた…。
「は、らださん…。」
泣いていたせいもあり頭がぼうっとしてあまり働かない。
呆然として、原田さんのことを見ていると、原田さんが歩み寄ってきた。
「せっかくの別嬪さんが台無しだぜ?」
目の前に座ってわたしの涙を指で拭ってくれた。
腕を引かれて気がつけば原田さんの腕の中にいた。原田さんの顔を見上げれば、どこか泣きそうな笑顔でこう言った。
「まあ、でも…、俺が見張っててやるから、今は泣きたいだけ泣けよ。」
「あり、がとう、ございます…。」
そうお礼を言うと、原田さんの胸をかりて泣いた。
原田さんはわたしをあやすように、わたしの涙が止まるまでずっと、背中をやさしくさすってくれた。

永倉さんは、屯所から近い鎌屋町に小常さんと二人の居を構えた。
しばらくの後、小常さんと永倉さんの間に小磯ちゃんという女の子が産まれた。
しかし、小常さんは小磯ちゃんを産んだ後に体調を崩し、戊辰戦争直前に逝ってしまった。
小常さんが逝ってしまい、永倉さんは辛いはずなのに小磯ちゃんを小常さんのお姉さんへ預け出陣した。

小常さんは逝くときに永倉さんの心を連れて行ってしまった。
わたしは今もなお、永倉さんに心を寄せている。
他の人へ目を向けることができれば幸せだろう。けれど、小常さんを想い一人涙する永倉さんを見て心が引き裂かれそうに痛んでも、
どんなにこの気持ちが辛くても、永倉さん以外を想うことができない。
わたしの気持ちが通じることは永遠にないだろう。
それでも、わたしがあなたのことを思い続けるこの気持ちは止めることができません。
優しいあなたを、小常さんを想い続けるあなたを困らせたりはしません。
だから、どうか、あなたを想い続ける気持ちを許してください…。


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はい、内容薄いです…!!ぺらっぺらです(苦笑)
千鶴の気持ちばかりを書いているので、背景・状況わかりにくいし…。
一応は史実を元にして書きました。
左之さんの方もだいたい新八と同じくらいに商人の娘?と結婚してるのですが、左之さんの方はその事実は無視させていただきました。
左之さん→千鶴→新八イメージです。
これ、左之さん視点も書きたいんですよね〜なのできっと書くと思います!!
ここまで読んでくださってありがとうございますm(__)m

 

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