Shopping with・・・


「さっみい〜!!」
「おっ、雪降ってんじゃねぇか。」
「どうりで寒いはずじゃん。」
今日は、大晦日。永倉、原田、藤堂が大広間に面する縁側を歩いていると、雪が舞い始めた。
「こりゃ、積もりそうだな。明日は新年早々、雪かきか〜?」
すでに庭先にうっすらと雪が積もり始めている様子を見て、原田がぼやいた。
風もなく、雪はひらひらと静かに庭へと落ちていき、真っ白に塗り替えていく。
三人はその様子を見ながら大広間へと足を進めた。

「おっ、土方さんと、山崎君じゃねぇか。何やってんだ?」
大広間についてみると、土方と山崎が二人で何事か話しあっていた。
「何やってんだ?じゃねぇよ、新八。」
「年の瀬のせいか騒ぎが頻繁に起こっているので、大晦日の今日は、警戒を強めた方が良さそうだということで、対策をどうのようにするか副長と話していたところです。」
永倉の問いに対して、山崎が答えた。
「そうか〜、まっ、たしかにそうだな。ここんところ巡察に出ると必ず揉め事起こってるからな〜。」
「で、どうするか決まったの?」
山崎の答えに対して、納得した原田、藤堂。藤堂は対策について考えがまとまったのか質問した。
「とりあえず、今日は巡察の回数を増やして対応するしかねぇだろうな。悪いが今日は、非番の奴も動いてもらうぜ?」
「本気か、土方さん!!か〜っ、ついてねぇぜ、今日非番だったってのに……。」
今日、非番であった永倉は土方の言葉にがっくりと肩を落とした。
「非番つっても、新八は島原に遊びに行くくれぇしか予定ねぇだろ。」
「そんなことねぇぞ!!今日は、千鶴ちゃんと約束があったんだよ!!」
「「「「……」」」」
千鶴の名前が出たことで、その場にいた皆、真顔になりの視線が厳しいものになった。
「何、新八さん。千鶴ちゃんと約束って?」
にっこりと笑いながらも殺気を出し沖田が大広間へ入って来ながら、永倉へ質問を投げかけた。
「千鶴が新八と何を約束していたというのだ?」
沖田に続いて斎藤も永倉へ質問を投げかけながら大広間へと入ってきた。
千鶴と約束ってどういうことだと雄弁に語る皆の視線が一様に永倉へ注がれる。
その視線の意味がわかる永倉は居心地悪そうに皆から視線をそらした。
そんなとき話の渦中にいる千鶴が何も知らずに大広間へやってきた。
「あれ、皆さんお揃いだったんですね。すみません、先ほどまで土方さんと山崎さんしかいらっしゃらなかったので、
お茶をお二人分しか淹れてきてないんです。すぐ皆様の分も淹れてきますね。」
土方と山崎へ今しがた淹れてきたお茶を出すと、再び勝手場へ千鶴は戻ろうとする。
そんな千鶴を呼び止める者がいた。
「僕等のことは気にしなくていいよ、千鶴ちゃん。」
「いえっ、でも、そういうわけには……。」
沖田の発言に対して千鶴は戸惑う。居候の身でさらには自分が貴重な女鬼ということで西の鬼の風間に狙われ、
それでなくても新選組の皆には迷惑をかけている。
それに、自分は剣が使えるというわけでもなく、ここにいて何も皆の役に立てることがない。
お茶を淹れるというのは、千鶴ができる数少ないことの一つだ、それをやらなくても良いと言われては立つ瀬がない。
「あっ、別に千鶴ちゃんのお茶が飲みたくないからとかじゃないから安心して?」
沖田にしては珍しい悪意のない笑顔でそう言うので、千鶴は少しだけほっとして胸を撫で下ろした。
「ただね、千鶴ちゃんの淹れてくれる美味しいお茶を飲むよりも、ちょっと聞きたいことがあるから申し出を遠慮しただけだよ。」
「わたしに聞きたいことですか……??」
わたしに聞きたいこととは何だろうっと千鶴は訝しげに聞き返した。
気付かないうちに何かしてしまったのだろうかと、沖田が自分に聞きたいことが皆目見当つかず不安になってくる。
沖田の聞きたいこととは何なのかその場にいた千鶴を除く誰もがわかっていたが、皆、それを聞きたかったので沖田を止める者はいなかった。
ただ一人、永倉は千鶴に聞かれてなるものかと抵抗を試みようとしたのだが、原田、藤堂の両名によってそれは阻まれていた。
「今日さ、新八さんと何か約束してるんでしょ?何の約束してるの?」
「そのことですか?約束って言うより、わたしが永倉さんにお願いをしたんです。」
自分が何かしてしまったという類のことではなかったことに安堵し千鶴が答えた。
照れたような表情を浮かべ千鶴がそう答えるのを見て、沖田は内心それを不満に思った。
不機嫌になりながらも、千鶴を警戒させないようそれを表に出さず笑顔で千鶴に再び問いかけた。
「それで、新八さんに何をお願いしたの?」
沖田の問いに対する千鶴の答えを皆、固唾を飲んで見守る。
沖田の不機嫌さにも、皆が自分の答えを待っていることにも気付かず、千鶴は少し逡巡した後口を開いた。
「永倉さんが今日は非番でお休みだから、一緒にお正月の準備で必要なものを買いに連れて行ってもらえないかお願いしたんです。
永倉さんがそれを快く引き受けてくださったので今日は二人で買い物に出かける予定だったんですけど……、それがどうかされたんですか?」
今更ながら、どうしてそのようなことを聞かれたのか疑問に思った千鶴が沖田に問いかけた。
千鶴の答えに固唾を飲んで見守っていた皆の冷たい視線が永倉へ向けられる。
千鶴と二人で買い物だなんて、一人でそんなおいしい思いをしようとしていたのかこいつは、
後で稽古だと称して、血祭りにあげよう……と皆殺気を放っていた。
「そういう約束だったのか。千鶴、悪いんだが今日は非番の奴も皆駆り出して巡察に出なきゃなんねぇんだ。」
沖田が答える前に土方が言った言葉が千鶴への答えとなった。
「そうなんですか……。わたしが一人で買い物に出るって言うのはやっぱり駄目…ですよね……?」
隊務があるのであれば、買い物はあきらめるしかないのだが、今回ばかりはお正月用に必要なもので、
自分一人が必要なものではないので、どうしても千鶴は買い物をあきらめきれなかった。
おそらく、いや絶対に無理だろうと思いつつも、土方に一縷の望みを託して尋ねてみた。
「この場合、許可してやりてぇとは思うが、流石にそれは許可できねぇな。」
「やっぱり、駄目ですよね……。」
しょんぼりとしてしまった千鶴を見て、皆一様にどうにかしてやりたいと思ったが、土方の決定には絶対だ、従わざるを得ない。それを歯がゆく思っていた。
千鶴が滅多に願うことのない願い事を何とかしてやりたいと各々思案した。が、名案も浮かばず地団駄を踏んでいると……、
「副長、提案したいことがあるのですが。」
「何だ、山崎。言ってみろ。」
その空気の中声をあげたのは山崎だった。
「巡察を増やすために非番の方も駆り出すと決めましたが、一人くらいであれば千鶴君の買い物のお供として残しても支障はないのではないでしょうか?」
「……たしかに、山崎君の言うように一人抜けたところでさして問題にはならないでしょう。誰か一人は千鶴の買い物に付き合うようにしてはどうですか、副長。」
山崎の意見に斎藤が賛同した。
斎藤のように明確に意思を示す者こそいなかったが、他の皆も同意見の様子であった。
しょんぼりしていた千鶴も、山崎の意見に顔を上げた。
千鶴も含む、皆の視線が決定権を持つ土方に注がれる。
その視線を受けて土方が口を開いた。
「はぁ……仕方ねぇな。一人だけだぞ……。」
「本当ですか!?」
「俺がおめぇに嘘ついてどうするってんだよ。」
千鶴が元から大きな瞳をさらに大きく丸くして確認するように土方に言うと、土方は千鶴のそんな様子に苦笑しながら、
鬼の副長とは思えない程優しい声音で答えた。
「ありがとうございます!!土方さん!!」
花の顔のような笑顔に大広間にいる幹部は皆釘付けとなった。
そして、心底嬉しそうな様子の千鶴を見て、自然と頬を緩めていた。

「で、問題は誰が千鶴ちゃんのお供をするかだよね?」
沖田がそんなことを言い出すと、千鶴の笑顔に頬を緩めていた面々は視線を鋭いものにし、表情が厳しくなる。
「そりゃ、俺が千鶴ちゃんと約束してたんだからよ、俺に決まりだろうが!!それに俺は元々今日は非番だったんだしな!!」
永倉がさも当然と主張すればそれに食いつかない者はおらず……。
「約束してたかどうかなんか関係ねぇだろ?たまたま、今日は新八が非番だったから、千鶴は新八に頼んだんだろうしな。
本当は違う奴と行きてぇかもしれねぇじゃねぇか。」
「そうそう!!左之さんの言うとおりだって、新八っつぁん!!」
原田は永倉が非番であったから千鶴は永倉へお願いしたのだろうと言うと、藤堂もそれに賛同した。
「ねぇ千鶴ちゃんは誰と一緒に行きたい?もちろん、僕だよね?」
「総司、決め付けるな。千鶴が困るだろう。……その、千鶴が買い物へ行くというのなら俺が供を務めたいのだが、俺では駄目だろうか……?」
沖田がいつものように、自分と行きたいよね?っと千鶴へ強制めいたことを言えば、斎藤がそれを諌めながらも、
沖田同様、千鶴が断りにくいように無意識に言った。
「おいおい、おめぇら勝手に決め付けてんじゃねぇよ。だいたい、お前等組長格が組を率いねぇで誰が率いるってんだ。
その点、俺なら自分の組ってのは持ってねぇからな、千鶴の買い物に付き合うのは俺がいいんじゃねぇのか?」
「いえ、副長の手を煩わせるわけにはいきません。それに何か不測の事態が起きた場合、指揮をとる副長が不在というわけには参りません。
自分の組を持たないのは俺も同じこと。それならば、千鶴君に同行するのは俺が一番の適役でしょう。」
土方は自分の組を持たないことを理由にして、千鶴のお供を勝ち取ろうとしたが、同じく監察方で組を持たない山崎にそれを阻止された。
大広間にいる者は皆、千鶴のお供をしたくてこのように自分こそがお供にふさわしいと主張しているにも関わらず、
千鶴は皆、そんなに隊務を休みたいのかな〜?なんて、皆目見当はずれなことを考えていた。
誰が付き合ってくださってもいいから、早く買い物に行って、いろいろお正月用のお料理作ったり準備したいんだけどな……と千鶴が思っていると、
そんな千鶴の思いを知ってか知らずか、永倉が言った。
「そんなら、千鶴ちゃんの意見を尊重しようじゃねぇか!!なあ、千鶴ちゃん!!千鶴ちゃんはいったい誰と行きたいんだ!?」
「僕だよね?千鶴ちゃん」
「俺がいいよな?千鶴」
「俺だろ!?俺と一緒に行こうぜ、千鶴!!」
「俺では駄目か?千鶴」
「俺と一緒に行かないか?千鶴君。」
「おい、千鶴。お前は俺と行きゃあいいんだよ。おら、俺と行くぞ。」
皆、自分が自分がと千鶴に言い寄った。
そのあまりの迫力に千鶴は少し引き気味になりながら考えていた。
皆さん、そんなに巡察に出るのがいやなのかな……
外寒いし、だからいやなのかな?でも、わたしのお供をしてもらうにしても外に行かなくてはならないし……
っとまたしてもまったく見当はずれなことを考える千鶴が答えを出すのを皆今や遅しと待っていた。
「土方さん、それは職権乱用でしょ。ねえ、千鶴ちゃん!!いったい誰を選ぶの!?」
「え……いや……、う〜んとですね……。」
誰でも良いとは答えられる雰囲気でないため、千鶴はどう答えようかと悩んでいた。
そこに追い討ちをかけるように土方が言った。
「誰がいいのか、言ってみろ。誰と一緒に行きてぇんだ、おめぇは?」
皆、千鶴に視線を注ぎ、千鶴の答えを待っている。
どうしよう、どうしよう!?誰を選べばいいの!?
千鶴の頭はフル回転して、誰を選べばいいのか考えていたが、一向に良い考えは浮かんでこず、泣きそうになった。
「千鶴ちゃん!!誰と一緒に行きてぇんだ!?」
とどめの一撃とばかりの永倉の問いかけに、考えすぎた千鶴の頭が爆発しそうになったその時。
「あれ、皆さんお揃いでどうかしたのですか?」
山崎と同じく、監察方の島田が大広間に現れた。
「島田さん!!あの、島田さん!!」
「どうかしましたか、雪村君。」
「今日わたしと一緒に買い物に行ってもらえませんか!!」
誰か一人くらいは休んでもいいだろうと言っていたのだから、何も、ここにいる面々でなくても良いはず。
それに、島田さんは監察方だから特定の組は持っていないことに千鶴は気付き、島田へお願いした。
どうして、この瞬間に来るんだ!!そして、断れ!!断ってくれ、島田(君・さん)!!っと大広間にいる面々は願った。
「かまいませんよ。今日は非番ですから。」
皆の願いむなしく、その願いは島田に届くことはなく、島田は千鶴の申し出を受け入れた。
「ありがとうございます、島田さん!!」
千鶴が笑顔でお礼を言うと、微かに島田は頬を赤らめ答えた。
「いえ、このくらいいつでも言ってくださいよ。喜んでお供しますから。」
「ありがとうございます。早速出かけてもいいですか、土方さん?」
「おっ、おう……。」
今起こったことがまるで信じられず土方にしては珍しく、完璧に思考が停止していた。
「じゃあ、行ってきますね!!島田さん、よろしくお願いします。」
「わかりました。では、行って参ります。」
千鶴と島田が楽しげに話をしながら大広間を後にして出かけて行った後、大広間に残された者は皆、呆然と立ち尽くしていた。
「おや、みんな揃ってこんなところに立ち尽くしてどうしたんだい?」
井上が声をかけたにも関わらず、あまりの衝撃のでかさに皆の耳にその声は届かなかった。


ゴーン……ゴーン……
「あっ、除夜の鐘鳴り始めましたね。今年も皆さんよろしくお願いします!!」
千鶴がいつものように笑顔で言った。
そこには、千鶴のこしらえた年越しそばをおいしそうに頬張りながら、千鶴の言葉に笑顔で頷く新選組幹部の面々がいた。


○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。 ○o.。
本当は大晦日の日にUPしたかったのですが、駄目でした。。。orz
千鶴はお正月とか絶対、おせちをしっかり作りそう…ってことはその食材とかの買出ししなきゃだよね!!っと思って、書いてみました。
これ、一緒に買い物行くのは、山崎さんにしよう!!って思ってたんですけど、
どうやって山崎さんにすれば。。。?って悩んでいたら島田さんが出張って来てしまいました(苦笑
出張ってくるのも、島田さんにするか源さんにするかって悩んだんですよ?でも、源さんも組長だし…っと島田さんに白羽の矢が立ったわけです。
わたしの駄文をここまで読んでくださってありがとうございます。
皆様、良いお年をお過ごしください。

 

SAKURA6.JPG - 838BYTES薄桜鬼TOPSAKURA6.JPG - 838BYTES