ありのままの君が知りたい おまけ

その行動は君の本心?


千鶴の憂い顔もすっかり影を潜め、永倉、原田、藤堂も満面の笑みを浮かべていた。
「それにしてもよ〜、本当見違えたよな〜。」
更にお酒が入ったことで千鶴の姿をまじまじと見る余裕のできた永倉が言った。
「だから俺は前から言ってたじゃねえか。千鶴は然るべき格好であれば俺等なんて相手にされないような良い女だって。」
原田がさも当然とばかりに言えば、
「そりゃ、普段から千鶴が可愛いってのはわかってるけどさ、こんな格好してると何だか千鶴じゃないみたいで緊張するって!!」
藤堂が原田に口を尖らせて言った。
「平助君もそう思う?わたしも何だか自分じゃないみたいで変な感じがするんだよね。」
先程の原田の発言により頬を赤らめながらも、平助に同意するように千鶴が言った。
「あっ、似合わないとかそんな意味じゃねえからな!!すっげー似合ってんだけど、違う人みたいで緊張するってだけだからな。」
慌てたようにそう言ってくれる藤堂の様子に千鶴は少しだけ笑ってしまった。
「ふふっ、ありがとう平助君。」
千鶴が微笑んで藤堂にお礼を言えば、平助は顔を赤らめながら、
「べっ、別に俺は本当の事言っただけだし…。」
っと、口の中でもごもごと言った。
「千鶴っ、そんな馬鹿平助なんて放っといて、こっち来て酌してくれねえか?」
先程の二人の行動から、永倉と原田は危険!!っと、二人から引き離すように藤堂が千鶴の横に座っていたのだが、それが不満とばかりに原田が言った。
それに便乗するように、永倉も千鶴に言った。
「そうそう、馬鹿平助は放っといて、一緒に飲もうぜ。」
「馬鹿平助って何だよ!!新八っつぁんと左之さんはすぐ千鶴に触って危ねえから千鶴に近付くの禁止!!」
藤堂が必死に二人に抗議すれば、原田が意地悪そうに微笑みながら応戦した。
「んなこと言っときながら、お前さっきからず〜っと千鶴に酌してもらったりしてんだろうが?それに、平助お前さりげなく、千鶴にじりじりと近寄って行ってるだろ。」
「平助君は、俺は何もしてねえ、煩悩なんかねえって言えんのか〜?」

藤堂が必死に抵抗したものの、年長者二人相手に敵うはずもなく、千鶴は結局永倉と原田の間に収まった。
「ここによ〜他の幹部達がいたら千鶴ちゃん見てどんな反応すんだろうな?」
「とりあえず、皆さんわたしが女の格好してるってことで驚かれるでしょうね。
あっ、土方さんだったら、"お前は何考えてやがんだっ!!って怒りそうですね。」
土方の剣幕を想像しながら、ふふっと笑って千鶴が言えば、やれやれと嘆息しながら原田が言った。
「な〜んでお前はそう自覚がねえのかね〜。まっ、それが千鶴の良いところでもあるんだがな。」
「?」
きょとんとして原田が何を言っているのか全くわからないという風にすれば、原田は苦笑いした。
「まっ、たしかに土方さんは怒りそうではあるわな。でも、最後にゃ眉間に皺寄せたまんま仏頂面で"似合ってる"っとか言いそうだよなっ。」
「たしかにな〜、あの人素直じゃねえからな〜。違いねえ!!」
その姿を想像したのか永倉が笑った。
「総司は、"ふ〜ん、まあ似合わないことはないんじゃない、まあ僕の好みじゃないけど"っとか言いそうじゃねえ!?」
楽しげに藤堂が言えば、原田が同意する。
「あいつも土方さんとは別の意味で素直じゃねえからな〜。じゃあ、斉藤はどうだ?」
「斉藤は、たまに何考えてんのか読めねえからな〜。あいつの場合、何か言わないで無言で見てそうじゃねえか?」
原田の問いかけに永倉がまたもや想像して笑いながら答えた。
「近藤さんは、最初絶対に千鶴って気がつかねえな、きっと。」
原田が断言した。
「んで、千鶴だって気付いたらうろたえながら、"やっぱり雪村君は美人さんだな〜"って言いそう!!」
藤堂がそう言うと、永倉、原田はうんうんと頷いた。
「ふふふっ、こうやって幹部の皆様の言いそうなこととか予想してみるとおもしろいですねっ。」
そう言って、千鶴が笑えば三人は眩しそうに目を細めて千鶴を見て、顔を緩ませるのだった。
千鶴の笑顔を肴に永倉がお猪口をぐいっと呷った。そして、ふと気がついたように千鶴へ問いかけた。
「そういや、千鶴ちゃん全然酒飲んでねえよな?」
「あっ、はい。わたしお酒って飲んだことないんですよ。」
千鶴の父、綱道は酒を飲む人間ではなかったので、今までお酒を飲む機会そのものが千鶴にはなかった。
こうして人がお酒を飲む現場に出くわしたこともなかった。
「もったいねえな〜、こんなうまいもん飲んだことねえなんて。」
「お酒ってそんなにおいしいものなんですか…?」
お酒に興味がないわけではない。けれど、今まで飲んだことがないものを飲んで、酔って何かしてしまったら迷惑をかけることになってしまう。
そうなったら困ると思って、屯所で暮らすようになってからも飲んだことはなかったのだ。
「この機会に飲んでみろよ、千鶴。」
「そうだな、飲めるくちなのか、飲めねえくちなのか知っておいた方がいいしな。ほら、千鶴っ。」
原田からお猪口にお酒を注いでもらい、生まれて初めてのお酒を口にした。
「おっ、いい飲みっぷりじゃねえか千鶴ちゃん。」
「初めて飲んだ酒はどうだ?」
「………。」
千鶴の反応が全くないのを不審に思い、再度、藤堂が声をかけた。
「おいっ、千鶴?大丈夫か?」
「………永倉しゃん…。」
千鶴は呂律が回っていないように永倉の名前を呼ぶと永倉に抱きついた。
「どわっ!!!!!千鶴ちゃんっ!?」
「「千鶴っ!?」」
三人が千鶴の名前を呼んだ、やはり千鶴の反応はない。永倉に抱きついている千鶴の顔を原田と藤堂が覗き込んでみると、
「寝てやがる。」
千鶴は、永倉に抱きついたまま眠ってしまっていた。
「…寝ちまってるのか?」
頬を赤く染め、慌てながら永倉が二人へ問いかけると、二人は永倉を睨みながら頷いた。
「とりあえず、横にしてやるか。」
原田が嘆息しながら、永倉から千鶴を離して横にしてやろうとしたが、この細腕のどこにこんな力があるのだろうかっと驚くくらいに、
千鶴は永倉にしっかりと抱きついていた。
「新八っつぁん、どうゆうことだよ!?」
「いや、何も知らねえって!!」
千鶴に抱きつかれて悪い気はしないものの、いつもの千鶴とは違って今日の千鶴は、本来あるべき女性の姿だ。
女性に抱きつかれたことくらい永倉もある。だが、千鶴相手にはどうすれば良いのか、どうしたものかと慌ててしまう。
「かなりむかつくが千鶴が離れねえ以上、千鶴が起きるまでそのままだな。」
永倉を鋭い眼光で睨みつけながら原田が言った。
「それに、千鶴もこの格好のままじゃ屯所戻れないしねっ。」
藤堂もまた、永倉を鋭く睨みつけた。
明らかな殺気を放つ二人に永倉はたじろいだが、千鶴が抱きついたままなので、身動きが取れない。
「千鶴が起きるまでゆっくりいろいろ聞かせてもらおうじゃねえか、なあ、新八?」
「どうゆうことなのかじっくり聞かせてもらうよ、新八っつぁん?」
千鶴が目覚めるまでの間、永倉が二人に散々問い詰められたのは言うまでもない。
ようやく千鶴が目覚めて、千鶴は自分が永倉に抱きついてしまっていた事態を知り、羞恥で顔を真っ赤にしながら永倉に謝った。
それから千鶴の着替えを待って、四人は島原を後にして屯所へと戻ったのだが、本物の鬼のような顔をした鬼の副長である土方が玄関で待ち構えていた。
「あっ、土方さんおはようございます。」
土方の表情にちょっと慄きながらも千鶴は律儀に土方に朝の挨拶をした。
一方、永倉、原田、藤堂の三人はやばいっと顔を引きつらせていた。
「ああっ、おはよう。千鶴、斉藤が勝手場で朝餉の準備をしている。お前は斉藤を手伝ってやれ。」
鬼の形相を緩め、土方が千鶴にそう言えば、
「はいっ。」
っと千鶴は返事をして勝手場へと向かった。
千鶴の気配が遠のくと、再び鬼の形相をした土方が怒りに満ちた声で言った。
「千鶴を連れて朝帰りとはいい度胸だ…。てめえら覚悟はできてんだろうな?」
この後、一刻ほど三人は土方の説教をくらうこととなった。
更に、仕事を倍に増やされるという罰則もつき、一睡もしていない三人はその日が終わる頃には、ぼろ雑巾のようになっていた。
それでも、三人は昨夜のおかげで千鶴の笑顔が戻ったこと、千鶴の本音が聞けたことに満足していた。
それに、千鶴の普段の可愛らしさとは違う艶やかな姿を見れたことを考えれば、今日の罰則ならおつりが来ると思った。
そして三人共、千鶴を連れてまた島原行きてえな〜なんて事を考えていた。

でも、気になることが唯一つ。
お酒を飲んでの君の行動は君の本心なの?
当の本人の千鶴はその時の記憶は全くないという…。


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はい、ただ千鶴に抱きつかれて慌てる新八が書きたかっただけです!!
そして、千鶴と新八をひっつけてみたかっただけです!!
本当は、"ありのままの君が知りたい"はここまで書いて終了〜の予定だったんですけど、ついつい新八、左之、平助のやり取りを書くのが楽しくなっちゃって書いてたら長くなってしまったんです。
そのため、こっちはおまけ扱いに。。。
なんか、前編/後編って言うには、前編はちょっと真面目なのに、後編はギャグ強しで…違う!!
って思ったので、結局こちらはおまけという扱いになりました。
いつもながらの駄文、ここまで読んでくれた方はありがとうございます!!

 

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