First Impression〜卓の場合〜


宇賀谷家の居間で、自分の収集した茶葉で美鶴さんが淹れてくれたお茶を飲む。
おいしいお茶は心身ともに温めてくれ、癒してくれる。そのためだろうか、私はお茶の収集が趣味になっている。
今日、私が宇賀谷の家に来たのは他でもない。守護者として当代の玉依姫に会うためにここにいる。
ふっと、外の景色に目をやれば赤く色付きつつある境内の木々が見える。
「今年ももう、秋が来たのですね……。」
そう、独り言を呟いて再びお茶に口をつける。
もう、何度目になるのだろうか。一人きりで迎える秋は……。

あれは私が何歳のときであっただろうか……。
私の世界から突然、母がいなくなってしまった。
優しく、私にたくさんの愛情を注いでくれた美しく聡明な母。
家に帰ると、必ず"おかえり卓"っと笑顔で出迎えてくれる母がその日はどこにもいなかった。
私が帰る頃には必ず家にいる母がいない、私は家の中を全て探して回ったが母を見つけられなかった。
秋の日の夕日は毒々しいまでに緋く、窓から差し込む夕日の色で部屋は血で塗りつぶされたかのように真っ赤に染まっていた。
やがて、夕闇が訪れ辺りを闇が包んでいった。それでも母は見つからず、そして戻ってくることもなかった。
母の帰りを待つうちに、どうやら私は眠ってしまったらしい。
その夜私は夢をみた。どんな内容であったかはあまり覚えていないけれど、母がいたことは覚えている。
どこか寂しげな表情を浮かべてこちらを見ていた。
翌日、私は一人の来訪者の訪れによって目を覚ました。
目覚めてすぐに昨日のことを思い出し、母の姿を探したが戻ってきた気配はなかった。
朝早くの来訪者は、玉依姫であるババ様で、ババ様は私に伝えなければならないことがあると言った。
"卓。あなたの母は、昨日事故にあって亡くなってしまったのよ。"
"だから、もう二度と此処には戻ってこないの。"
ババ様が何を言っているのかわからなかった。と言うよりは、あまりの衝撃に頭の中は真っ白になり理解ができなくなっていた。
あの母が、事故で亡くなった?昨日の朝までたしかにここにいた。いつものように、"いってらっしゃい、卓。寄り道しないで早く帰るのよ。"
と私に言って、笑顔で見送ってくれた母が。
その母がこの世にもう存在しないなどということは到底理解できなかった。
呆然とする私にババ様は続けて言った。
"母に会いたい?亡骸をあなたへ見せるべきかどうか悩んだのだけれど、あなたには選ぶ権利があると思って。"
"最後に母に逢いたい?どうする、卓?"
己の目で確かめたいという気持ちと、己の目でその事実を目の当たりにして受け入れるのが怖いという気持ちがせめぎあう。
しかし、ここでこうしていても真実はわからない。私は、逢うことを選択した。
ババ様に連れて来られたのは、宇賀谷家の一室。そこには布団に横たわり顔に白い布をかけられた人がいた。
ババ様が私と共に布団の傍らまで歩み寄ると白い布を取り去る。
眠っているかのように安らかな表情でそこに横たわるのは母だった。まるで今すぐにでも目を開いて、
"おはよう、卓。"とでも言いそうな程安らかな表情をしていた。
"綺麗でしょう。まるで眠っているかのようね。"
ババ様がそう私に言ったけれど、私にその声は届かなかった。
ただひたすら私の中で、何故、どうして母が……そのことばかりがひしめき合っていた。
母を亡くしたあの日から十数年、私は母の死について調べていた。
守護者は必要以上に知ってはならない……しきたりがあるのはわかっているが、私はどうしても知りたかった、真実を……。
ババ様は事故と言っていたけれど、あの時私の見た母はどこにも外傷はなかった。
それに小さな村だ、人が亡くなるような事故があったのならば何かしら騒ぎが起こったはずなのによくよく考えるとそのようなこともなかった。
母が亡くなったときのことを調べようにも村の大人達は頑なに口を閉ざし何も語らず、情報はなかなか集まらなかった。
そして、調べ始めてから数年、ある事実に気が付いた。
母が亡くなった後、村の人間が数名、母と同じように事故扱いで亡くなっている事に……。
事故があったと連絡してくるのは、いつも宇賀谷家、ババ様だった。
そして、亡くなった人間は皆安らかな顔をしており、外傷等はなかったとのこと……。
私の母の亡くなった事と、村の人間のこのような亡くなり方……無関係であるとは思えなかった。
それに、ここ数年で村の人間がこの様な亡くなり方をしたときはいつもカミサマが騒がしくなり、オボレガミが村へ現れるようになる時期と決まっていた。
これらの事にはきっと何かつながりがある。
このつながりの中心には、おそらく鬼斬丸と玉依姫……、この二つがあると思われた……。
けれど、そこから先は巧妙に隠されておりこれ以上のことは調べることはできなくなってしまった。
八方塞、手詰まりになっていたとき、そう先週のこと。ババ様から守護五家は宇賀谷家へ集まることとの連絡があった。
宇賀谷家へ来てみると、ババ様から当代の玉依姫となる娘が季封村へ来るとの話を聞かされた。
村を出たババ様の娘の娘……、つまりババ様の孫娘が当代の玉依姫になるのだという。
その娘は、鬼斬丸のことも、玉依姫のことも、守護五家のことも何も知らないとババ様は言っていた。
そんなこの季封村のことを何も知らない娘……。
何も知らないのに、当代の玉依姫にされこの村へ一生縛り付けられることになる娘……。
彼女が玉依姫になれば母が亡くなった理由を知ることができるかもしれない。
やはり、年長者であるババ様を相手に情報を得ようというのは難しいことですからね……。

ガラララララッ―――
「ただいま〜。」
そんな声が聞こえると、トタトタと玄関へと廊下を走る足音が聞こえた。
「おかえりなさいませ、珠紀様。ようこそいらっしゃいました鬼崎さん。」
どうやら、わたしが過去のことを思い出している内に当代の玉依姫がお帰りになったようですね。
ゆっくりと立ち上がり玄関へと向かうと、そこには宇賀谷家に使えている美鶴さん、守護五家の一人鬼崎くんと、もう一人……。
紅陵学院高校の制服に身を包んだ、すらりと背の高い栗色の髪の毛を腰まで伸ばした少女。
髪の毛と同じ栗色の大きな瞳でこちらを見ていた。
ババ様の孫娘とは思えないこの可愛らしい少女が当代の玉依姫ですか……。


当代の玉依姫は美人(可愛い)に1票が投じられた。


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First Impression4作目は卓さんです!!
久しぶりに緋色の欠片書きました〜。って、去年途中まで書いてたんですけど、途中でストップしてたのをようやく最後まで書き上げました。
久しぶりに書いたんですけど、久しぶりに書くせいか一気にがーっ!!と書けました。
最近ネタ切れ気味でなかなか書き進まないんですよね。。。orz
仕事も忙しくなってきてますし。。。一週間に1本は絶対に!!っと思いつつも、なかなか書けず状態です。
卓さんは一人だけ歳が離れてのキャラなんで、珠紀のこと美人?って思うのか!?って思って、可愛らしいという表現になりました。
しかもわたしの中で卓さんのイメージってすごい腹黒なのでどうしたもんかね〜っとか思ってたら、何だか珠紀を利用しようとするひどい人になってしまいました(苦笑
まあでも、そんな気持ちはあったとしても珠紀が傷ついたりするような利用の仕方なんてしようとは思ってないでしょうけどね(汗
ここまで読んでくださってありがとうございますm(__)m

 

 

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