First Impression〜拓磨の場合〜

 


「ったく、何で俺が…。」
村で唯一のバス停へと向かいながらぼやいた。
守護者の中で一番年下だから仕方ないことだとわかってはいるが、不満に思う。
そう広くない、むしろ狭い村だが、村の入り口までは多少距離がある。
ようやく、村の出口というところまでやってきたとき、
何かがおかしいと感じた。
そう感じてすぐに神経を研ぎ澄ます。
カミサマが静かすぎる。
禍々しい不穏な気が辺りに蔓延している。その気に怯えてカミサマが静かなのだ。
その禍々しい気の中、この村の人間ではない、さらに並みの人間が持っているはずのない程の気の持ち主の存在を感じた。
その気配の出所を探した。
「こっちか…!!」
気配は森の中にあった、すぐさま森へと踏み入る。
すぐに、女の後姿とその女を囲むようにいるオボレガミの姿を捉えた。
オボレガミが6体…。
さすがに女1人守りつつ相手するにはきつい数だ。
逃げるのは性に合わないが仕方ない。
とりあえず。ここは連れて逃げるかと腹を決めたものの、どうやって逃げる隙を作ったものか。
それを考えるよりも先に体が動いていた。

 


オボレガミを撒いて、ようやく村道へと戻った。
苦手な術を使わされて、無駄な体力を消費させられたことに苛立ち、
"迎えが来るからバス停で待ってろと言われなかったのか!?"っと一言文句でも言ってやろうとそいつの方へ向き直った。
怒ってやろうと思っていたのに、俺は言葉を失った。

 


玉依姫は、ババ様だった。
俺が生まれてから今まで、ずっと季封村の玉依姫はババ様だった。
それが突然一週間ほど前に、当代の玉依姫がこの村へやってくると言われた。
今まで玉依姫はババ様だったけど、俺たちはババ様の守護者じゃない。
とうの昔にババ様が玉依姫である時間は過ぎていた。
しかし、後継者がいなかったのだ。
ババ様の娘は玉依姫としての力を持っていなかった。
その人は、この村の人間でない人間と結ばれて村を出て行った。
ババ様が玉依姫を続けるしかなかった。
だから俺たちはババ様の守護者でいた。
ババ様の後継者。つまり当代の玉依姫こそ、本来俺たち、当代の守護五家が守るべき玉依姫だ。
俺たちが命を賭けて守るべき相手。
その当代の玉依姫がこの村へ来る。
そう言われてどんな奴なのか気にならないはずがなかった。
当代の玉依姫になる奴は、ババ様の孫で"春日珠紀"って名前だと聞いた。
俺と同じ年で、紅稜高校の2年になるのだとも聞いた。
その話を聞いて真弘先輩は、
「どうせ命を賭けて守る相手なら美人がいいよな〜!!
美人は世界の宝だしな?けどな〜、何て言ってもババ様の孫だからな〜。
名前負けしたような奴な気がすんだよな。
よし!!拓磨賭けようぜ?
俺は美人じゃない方に賭ける!!美人じゃないほうにタイヤキ賭ける!!」
なんて言ってた。

その、当代の玉依姫が俺の目の前にいる。
当代の玉依姫、"春日珠紀"という名の女。
腰まではあろうかという程の長い栗色の髪。
髪と同じく栗色の大きな瞳。
その大きな瞳に頬に影を落とすほど長いまつげ…。
身長は160くらいだろうか。すんなりと伸びた手足、ほっそりとした体つき。
そういや、さっき折れるんじゃないかってくらい細かったな…。
さっき自分が思わず暴れさせないようにとは言え、抱きしめたことを思い出して、
顔に熱が集まっていくのを感じた。
真弘先輩の勘は大ハズレだ。

 

ババ様の孫なのに、こんな可愛い女なんて反則だろう。

 

当代の玉依姫は美人だと言うほうに一票。

 

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