無自覚な気持ち


最近あいつが、真弘先輩とか、慎司とかと仲良さそうにしゃべってたり、
大蛇さんのことばかりしゃべってるとイライラする。
あいつは当代の玉依姫になる玉依の血を受け継ぐ者で、俺は守護五家の1人であいつのことを守る遠い昔からの血の契約があって…。
ただそれだけだ。守る者と守られる者、俺とあいつはそんな関係だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
なのに、あいつが他の男としゃべったり楽しそうにしていると何だかイライラする俺がいる。
「わ〜慎司くんのお弁当、今日もおいしそう!!」
今日も慎司が自分で作ってきた弁当を見てあいつはうれしそうに慎司に言った。
「いえ、そんなことないですよ。今日は少し起きるのが遅くなってしまって、手抜きですし。」
頬を赤く染めて慎司が答えている。
「ええ〜そんな風には絶対見えない!!だし巻き卵とかすっごい綺麗!おいしそう!!」
「だし巻き卵食べますか、珠紀先輩?」
「いいの!?」
あいつは嬉しそうに言ってる。
「どうぞ、いやじゃなければ食べてください。」
「ありがと〜!!」
っとあいつが慎司の弁当からだし巻き卵をもらおうとした瞬間、そのだし巻き卵をものすごい速さで奪い取った人がいた。
「あ〜!!!真弘先輩何するんですか!!」
「食いもんは早い者勝ちだろーが!」
「まだありますから、食べてください、珠紀先輩。」
真弘先輩に食って掛かるあいつに慎司が言った。
「ありがとう、慎司君…。真弘先輩!!食べ物の恨みは怖いですからね。」
慎司と、真弘先輩と楽しそうにしているところを見ていたら、イライラしてきた。
せっかく新しくクロスワードの本を買ったというのに、集中できずまっさらなままだ。
「おいしいっ!!どうやったらこんなにおいしく作れるの!?」
元々大きな目を零れ落ちそうな程に見開いて慎司に向かって言っている。
それに対して照れたようにしながら、少し逡巡して慎司が答えた。
「今度作り方教えましょうか?」
「本当に!?うれしい、ありがとう慎司くん!!」
慎司は頬を上気させて照れているようだ。
その様子を見ていたら、俺のイライラはピークに達して、乱暴に真新しいクロスワード本を閉じると、立ち上がってそのまま屋上の扉へ向かった。
「拓磨もう、教室戻っちゃうの?」
あいつにそう問いかけられて、俺は素っ気なく
「ああっ。」
っとだけ答えて扉を開けて振り返ることなく中へ入った。


「ねえ、拓磨?」
「何だよ。」
以前、守護五家が全員薄れ始めた結界のせいで漏れ出した鬼斬丸の影響を受け凶暴化したカミサマを鎮めるためこいつを1人で帰らせたことがあった。
まだ玉依姫として覚醒していないこいつを1人にした結果、こいつはタタリガミに襲われた。
そんな事があって以来、守護五家が必ず1人は通学を共にすることになった。
こいつと帰るのは今日は俺が当番だった。
「今日昼休み機嫌悪くなかった?」
俺の様子を伺うように上目遣いでそう尋ねてきた。
「別に。お前の気のせいだろ。」
昼休み、慎司や真弘先輩と楽しそうにしているこいつを見てイライラしていたけど、何故だかこいつには知られたくなかった。
「そう?それなら別に良いのだけど…。あっ、そうそう拓磨が戻っちゃった後にね、真弘先輩ってば…」
楽しそうに真弘先輩、祐一先輩、慎司、大蛇さんの話を続ける様子を見て俺はまたイライラしてきた。
俺はいったい何がそんなに気に入らないって言うのだろうか。
自分のイライラの原因がわからず考え込んでいたら、
「拓磨?」
名前を呼ばれて意識がようやくこいつの方へ向いた。
「あっ、ああ。何だ?」
「あ〜もう!!全然わたしの話聞いてなかったでしょ!!」
そう言うと、拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
「悪かったよ。機嫌直せよ。」
「ぷ〜んだっ!!」
完全にヘソを曲げてしまったらしい。
どうすっかな…っと考えて、
「たい焼きおごってやるから機嫌直せよ。」
「…飲み物は?」
「わかったよ、飲み物もおごってやる。」
「わ〜いっ♪じゃあ、早く行こっ!!」
ようやく、笑顔になって俺の方を振り返りながら「早く〜!!」なんて言ってる。
さっきまでのイライラはどこへやら。俺は自分の心が温かくなったような気がした。
俺がイライラしたり、珠紀の笑顔が向けられて心が温かくなったりするのは何でなのか、
それがわかるのはもう少し先の話。

 

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