一筋ノ光

 

 

 

ショッピングモールのベンチに座って思った。

ったく、何だって俺に頼むんだか。

以前程じゃなくなったとはいえ、まだ俺の言動一つ一つにびびってるくせによ。

帰るときには一人で帰るな、誰か護衛を一人つけて帰れって話がでたのは、今日の昼休みの話だ。

誰と帰るかは自分で決めろ、一緒に帰る相手にメールしろって話で昼は終わった。

力もない役立たず(大蛇の奴)を選ぶなとは言ったが、よりにもよって何で俺になんだよ。

喜んで引き受けてくれそうな奴が大蛇以外にもいるだろう。

それこそ狗谷なんか尻尾振って喜んでお供しそうだし、鴉取にしても笑顔で引き受けそうだ。

「ちっ。」

"藤森沙弥"。いつもオドオドしてて、大蛇の後ろに隠れていた。

俺と初めて会ったときも大蛇に庇われるようにして、横を通り過ぎて行ったな。

あんときゃまさか隣の席なんざなるとは思わなかったが。

言いたいことがあるなら言やいいのに、オドオドして自分の意見を言いやしない。

まあ、大蛇のやつがすぐに口出ししてくるから言えてねえってのもあるんだろうけどよ。

けど、最近は少しだけだが変わったような気がする。

急かされるとうまく言えねぇみたいだが、ちゃんとこっちが待っててやりゃ、自分の意見を言うようになった。

人の目を見て、自分の意思ってもんを表すようになったみてぇだ。

って、何あいつのことばっか考えてんだか。

「はぁっ。」

自嘲気味に一つ溜息をついて、辺りに目をやる。

こんな人のいる時間にこんな場所に来るのは久しぶりだ。

自分の内に潜む力がまたいつ暴走するかわからねぇ、それが恐くて無意識に人が集まるところは避けていた。

あの時のようなことが二度と起きて欲しくなくて…。

自分の力が暴走したせいで亡くなった両親を思い出した。

あんな事は二度と繰り返したくねぇ、そう思っていつの間にか握りしめていた拳に力を入れた。

 


――――カシャーンッ

何かが落ちた音がして、はっとした。

音のした方を見ると、どうやら売り物を子供が落としてしまったみたいだ。

何があったのか確認したので視線をそらそうとしたとき、その店のディスプレイに目が入った。

そこに置かれているものを見て一瞬息が詰まった…、

すぐに、あんなところにあるはずがない。っと思い直したが、その存在が気になり、近くへと行った。

色といい大きさといい、形までアレにそっくりだな…。

気付いたときには失くしてしまっていたアレに…。

ふと視線を感じて振り返ると、買い物を終えたのか藤森がそこにいて、俺が振り返ると思わなかったのか、びくっと小さく肩を揺らした。

「終わったんなら、帰るぞ。」

俺がそう言って踵を返すと、藤森が質問してきた。

「あの、…何を見てたの?」

いつもは、なかなか言葉を発しないのに、こんな時に限って質問を投げかけてきやがる。

答えないわけにもいかず、俺が見ていたアレに似た物を指し示して言った。

「あれだ。」

「…懐中時計?」

厳密には懐中時計を俺は見ていたわけじゃない。似ている懐中時計を通して、俺の失くしたアレを見ていた。

「俺が失くした物に色とか形とかが似てたから見てただけだ。」

俺がそう言うと、はっとしたように藤森は自分のかばんの中から何か取り出した。

「もしかして、失くしたのってこれのこと?」

藤森が俺の方に差し出したのは紛れもなく、俺が失くしてしまったと思っていたアレ。

間違いない、俺は驚きに目を見開いた。

「どうしてお前が持ってるんだ。」

苛立ったように聞くと、

「ごっ、ごめんなさい。以前、鬼崎くんが落としたのだろうと思って拾っておいたのだけど、ずっと渡し損ねてしまっていて…。」

藤森の手から受け取って、久しぶりのその姿を見る。

「…鬼崎くんにとって大切な物なのね。」

大切と言えば大切だろう、俺の過去を示すただ一つの物だ。

変形してしまってもうこのロケットの中を見ることは適わないが、俺の両親の形見でもある。

けれど、このロケットを見るたび思い出す…、俺の力のせいで…。

このロケットは自分への戒め。

自分が過去から逃げ出さねぇように。

自分が過去を捨ててしまわねぇように。

自分が背負っていかなければならないことを捨てないための戒め…。

 


このロケットのことを藤森に話し終えた時、藤森が驚いたように俺の手を握って言った。

「鬼崎くん、手から血が出ているわ!!大丈夫なの?」

藤森から言われて手を見てみると、たしかに手の平に血が滲んでいた。

おそらく、藤森を待っていた間に昔のことを思い出していたときだろう。

今まで気付かなかったくらいだ、痛みなんてない。

「少しここで待っていて!!」

「…おいっ!!」

俺が呼び止めるより先に、走って行ってしまった。さっき買ったであろうものをここに放り出して。

行ってしまったものはどうしようもねぇと思い、放り出して行った荷物を拾い上げその場で戻ってくるのを待つことにした。

 


五分程して藤森が戻ってきた。手には何か持って。

「はぁはぁっ…、ごめんなさいっ、待たせてしまって。」

「さんざん待たされたから、これ以上待たされても変わんねぇけどなっ。」

走って戻ってきたせいか、肩で息をしている。

「ごっ、ごめんなさい…。」

「ただのイヤミを真に受けていちいち謝ってんじゃねぇよ。」

「あっ、ごめっ…。」

何でもすぐに謝る藤森を軽くニラむ。

「鬼崎くん、手を出して?」

苦笑しながら藤森が言った。何のためになのかわからなかったが、おとなしく手を差し出した。

藤森は手に持った袋の中から消毒薬と綿を取り出して、消毒薬を綿に染み込ませて、俺の手のひらの傷口をやさしく消毒した。

「わざわざ買いに行ったのかよ。」

「そのままじゃ、ばい菌入っちゃうもの。」

手際良く、手当てしていく様子を黙って見ていた。

「はい、出来た。」

そう言われて自分の手を見れば、すっかり手当てされていた。

「ありがとな…。」

ぼそっとそう言うと、藤森は笑って言った。

「ううん。わたしの方こそ、買い物付き合ってもらってありがとう。」

"ありがとう"なんて言葉、言われるのはいつぶりか…。

「礼言うくらいなら、今度から護衛を俺を選ぶんじゃねぇぞ。今度こそ、帰るぞっ!」

どこか照れ臭くて、それを隠すように言った。

 


藤森を送り届けて、俺はようやく家路に着いた。

夕焼けに染まる道を歩きながら、自分の手を見る。

手当てされた手を見て心が温かくなったような気がした。そんな自分に、

「ちっ、柄じゃねぇなっ。」

っと悪態つきながらも、この力が目覚めてから感じることのなかった温かい気持ちがあることを心地よく感じた。

 

 

 

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沙弥ちんの手を無意識に握って、全然気付いてない鈍感な刀真に少しテレを感じ

てもらいたくて書きました。

後ね、沙弥を好きになっていく過程が見えないから、少しずつ沙弥を意識して

いったんだよ!!

実はこんなことがあったりして…っと脳内妄想で正規ストーリー補完をしたかった!

仕事の空き時間に書いてるから、セリフとかシチュエーションとか捏造だけど、

このシーンのイメージは間違いなく、あの、切なげ表情の刀真がロケット見てる

シーンですから!!

あそこを捏造しまくった設定で書いたのがコレですから!!

そして、あのテレのくだりと、実は沙弥を待っている間、刀真はこんなこと考え

ていたはずきっと!!ってのを書きたいがために書いたら、

オチがつかない。。。題名思いつかない。。。orz

どうしよう、これ。。。状態に陥り最後があんなことに。

硬派なザキさんは何処へ!?

これ書いてる途中で、沙弥ちんが刀真の怪我の手当てしてるところ!!

あそこで、悩みました。。。

ばんそうこうって書こうと思って、あれ?この時代にばんそうこうなんてもんよりもっと便利なものが絶対あるはず!!

ってか消毒薬も綿に染み込ませてなんてしなくてもきっともっと便利な手当て用のものがあるはず!!って思い、とりあえずばんそうこうだけ書くのを躊躇(苦笑

結局、手当てという曖昧な表現に。。。orz

まあ、ここまで読んでいただけていたら幸いです。

 

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