邂逅〜フタリノ"タマヨリヒメ"〜


「幻術は俺の得意分野ですよ?沙弥先輩は瞳を閉じててくださいね。」
こう言うと、沙弥先輩は大人しく目を瞑ってくれた。
意識を集中して、自分の力を行使する。
「………?」
何かおかしい。自分の力を使っているはずなのに、力が無力化されているかのような?
いや違う、どこか流れ込んでしまっている感じがする。
不審に思っていると、突如として周りの風景が目まぐるしく変化し始めた。
赤や黄色に色づいていた木々だったものが、新緑の葉を茂らす木に変わり、うっすら雪化粧した葉のない枯れ木になり、そしてまた葉の色が赤や黄色に変わり…。
まるで映像を巻き戻ししているように変化している。
時間を遡っている?
何が起きても、沙弥先輩だけは守らなければ。そう思えば、知らず知らずの内に沙弥先輩を抱く腕に力がこもっていた。
それを不審に思ったのか、沙弥先輩は瞳を開いて、
「狐邑くん…?」
と疑問を含んで呼びかけてきた。
周囲の状況が目に入るや否や、
「一体何が起こっているの?」
っと、不安気に俺に問いかけてきた。
「さあ〜、俺にもさっぱりです。でも、どんなことが起こっても沙弥先輩だけは俺が守るので、安心してください。」
いつものように飄々と言えば、少しだけ沙弥先輩は安心したような表情を浮かべた。
とは言ったものの、正直自分でも今何が起こっているのか全くわからない。
どうしたものか…と思っていると、周りの変化が緩やかなものになってきた。
ようやく止まったようだ。
辺りを見回すと、神社がある。神社の周りに茂る木々は赤や黄色と色とりどりに着飾ってる。
「この神社、オモイカネの作り出した世界で見たあの神社よね?」
「そう…、みたいですね。」
オモイカネの作り出した世界で見かけた荒れ果てた廃寺と思われる神社が目の前にある。
ただ、あの世界で見たのとは様子が全く違う。
荒れ果てておらず、参道もある。それに、さっきは鬱そうと茂っていた木々や草がない。
そりゃ、周りは木々に囲まれてるけど、先ほどとは全く違う様子だよね?
なんて、考えながら沙弥先輩に曖昧に返事をしていると、後ろから気配を感じた。
沙弥先輩を背に庇うようにしながら振り返ると、そこには…。
「見かけない顔だな。村の外の人間か。」
細身の長身、雪のように白い髪、金色の瞳をした男が立っていた。
誰だ?こいつもオモイカネの作り出した産物の一つなのだろうか?
その男は、俺と沙弥先輩の品定めをするように厳しい眼でじっとこちらを見ていた。
「"守護者"と"玉依姫"。しかし、覚醒はしていないようだな…。」
「「!?」」
沙弥先輩と俺は驚きが隠せない。
その時、こちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。
「祐一せんぱ〜い!!」
栗色のロングヘアの女の人がこちらに走って来ている。
目の前にいた男は、女の人の方を振り返りさっきの厳しい表情からは想像できないくらいに甘い笑顔を浮かべて女の人に呼びかけた。
「珠紀。」
男のところへ辿り着くと、女の人はよほど急いできたのか肩で息をしている。
「はあはあっ、ごっ、ごめんなさい。っはあ、お待たせしてしまって。」
「いや、今来たところだから大丈夫だ。」
ようやく息を落ち着けて顔を上げた女の人が俺達に気がついた。
「あれ?村の人間じゃない人が来るなんて珍しい。」
こっちをニコニコと笑顔で見て、頭を下げながら続けて言った。
「初めまして。古の神の血を引く、玉依姫に守護者の方。」
「「!?」」
沙弥先輩と俺はただただ驚くことしかできなかった。
オモイカネの作りたい世界は人間なんていらないハズ。
オモイカネの作り出した理想の世界の中のはずなのに、いる人間。
状況についていくことができていない頭の中では、そんな考えが交錯していた。
「あっ、そんなに警戒しないで!!なぜあなた達二人がここへ現れたのかはわからないけれど、少なくともわたし達はあなた達へ仇なす人間ではないわ。」
慌てたように女の人が言った。
「なぜ"玉依姫"と"守護者"とわかるんですか?」
敵とは違うと女の人が言ったが、それを信用して良いのかわからない。
とりあえず、なぜ、"玉依姫"、"守護者"を知っているのか気になった。
普通の人ならば知らないはずのことで、オモイカネが作り出した産物なら知っているであろう事…。
「なぜって言われても、そう感じるから…っとしか言い様がないのだけれど…、それじゃ納得できないわよね?」
困ったように言ってきたので、正直に頷く。
「う〜ん、何て説明すればいいのかな〜…。」
女の人が悩んでいると、男の方が言葉を発した。
「俺達が、守護者と玉依姫だからわかる。」
「「!?」」
三度目の衝撃を受けた。この人達も守護者と玉依姫だって?
ますます頭が混乱してきて、とりあえず頭を整理しようとしていると、沙弥先輩が言った。
「あなた方も守護者と玉依姫なのですか…?」
「うん、そうよ。わたしは、ここ季封村の当代の玉依姫。春日珠紀って言うの。
よろしくね!で、こちらの方が、ゲントウカの血を引く守護者の狐邑祐一先輩。」
「狐邑祐一だ。」
「あっ、よろしくお願いします。」
沙弥先輩…、少しは人を疑うということを覚えてください。
純粋によろしくと自己紹介されたからちゃんとよろしくお願いしますと返してしまう沙弥先輩に心の中で小さく嘆息しながら、考えを巡らす。
この男も狐邑…偶然にしては出来過ぎてないか?
「名前聞いてもいいかな…?」
遠慮がちに珠紀さんが言ってきた。
「えっと、わたしは藤森沙弥って言います。彼はわたしの後輩で狐邑怜くんです。」
「よろしく沙弥ちゃん、怜くん。それにしてもすごい偶然!!まさか、祐一先輩と同じ名字なんて!!」
でも、やはりオモイカネの作り出した世界に人間がいるはずがないという思いもある。
そんなことを考えていたら、気付くのが遅れてしまった。
「タマヨリヒメ!!喰イタイッ!!」
その時、森の方から叫びながら何かが飛び出して来た。
「おーちゃん!!行って!!」
珠紀さんがそう言うと、珠紀さんの影から何かが勢いよく飛び出して行った。その影から飛び出した何かは、叫びながら出てきた物を突き抜けた。
そして、間髪入れずに祐一と名乗った男が青い炎を投げつけた。
青い炎に包まれ、
「ぐぎゃあああああああああああ。」
森から飛び出してきた何かは断末魔を上げて消え去った。
珠紀さんと祐一さんの力に圧倒された。
沙弥先輩と俺はその光景を呆然と見ていて、その様子に気がついた珠紀さんが言った。
「あっ、驚かせてごめんね。最近オボレガミが現れることもなかったから結界張りなおしてなかったのよね。
でもここまで強度がなくなってるなんて…。まだまだ修行不足だな〜。
張りなおすからちょっと待っててくれる?」
玉依姫と守護者という珠紀さんと祐一さん。
それが本当かどうかはまだわからないけれど、俺の中の守護者の血が何かを告げている。
何を告げているのかはわからないけれど…。
それにしても、さっきの祐一さんの青い炎…、俺の力とよく似ている感じがした。
「さっ、できた。二人とも、立ち話も何だし家へ来ない?ここのすぐ横だから。」
「その方が良いだろう。どうして、ここへいるのかの経緯も聞きたいしな。」
珠紀さんと祐一さんのその申し出に、状況がわからないままでいるよりは良いと判断し、とりあえずはその申し出を受けるべきだと思い、
沙弥先輩を見ると、先輩もそう思っているのか俺の方を見て大きく頷いてくれた。
「じゃあ、お邪魔させてもらいます。」

珠紀さんの家に着くと、俺達と同い年らしい女の人がお茶を出してくれた。その人は珠紀さんに一声かけて、退出していった。
そして珠紀さんが話を始めた。
「ここ季封村の玉依姫は代々宇賀谷家が務めて来たの。先代玉依姫はわたしの祖母、宇賀谷静紀。
わたしの母は玉依姫としての力を持っていなくて、一年前にわたしが当代の玉依姫を受け継いだの。
この地の玉依姫の役目は、世界を滅ぼす力を持つ"鬼斬丸"の封印と管理。っと言っても、今はもう完全に封印されたからこの地の管理とカミサマを鎮めたりが主な仕事なのだけどね。」
「そして、俺は珠紀をあらゆる災厄から守る守護五家の一人。太古の時代に初代玉依姫に付き従ったゲントウカの血を引く者だ。
守護五家とは、鬼・狐・鴉・蛇・犬。本来はこの五神の血を引くものがそうなのだが、当代は異例で、御言葉使いも含め6人存在している。」
「さっきはうまく言葉にできなかったのだけれど、わたしに流れる玉依の血がね、あなた達二人が玉依姫と守護者だって教えてくれるの。
それに、わたし達と似た気を感じる。以前、わたし達が出逢った、あなた達とはまた別の玉依姫と守護者の気とも同じものを感じるの。」
さっきは、いきなりの事態に混乱したが、落ち着いて感覚を研ぎ澄ますとここには、オモイカネの作り出した世界と違う点をいくつも感じる。
どうやら、ここはオモイカネの作り出した世界とは別物で、本当に季封村という村のようだ。
そして、珠紀さんの話の中でわかったことがある。
俺の中の守護者の血が、二人が玉依姫と守護者だと教えてくれているということに。
さっきは自分の血が何を告げているのかわからなかったけれど、珠紀さんが玉依の血が教えてくれていると言ったように、
守護者の血が俺に告げていたのは、その事なのだと。
どうしてこんな事態になったのかはわからないけれど、せっかく玉依姫と守護者だという人達に逢えたのだから、
話を聞いてみることが重要だと思った。
「沙弥ちゃん達のことを教えてくれる?もしかしたら何か力になれるかもしれないし!!」
微笑んで珠紀さんが言った。
沙弥先輩が、俺の方を見た。俺は沙弥先輩へ頷いた。
「えっと、自分が玉依姫であることを知ったのはつい最近なんです。母のこと全然覚えてないんですけど、母、雛紀が先代の玉依姫で、その血を引くわたしが当代の玉依姫だと父から聞きました。
黄泉の門の封印と管理を行うのが、わたしの役目だと言われました。」
沙弥先輩が自分でも現状を整理するようにしながら、順序立てて、今ままでの話をしていった。
その話を珠紀さんと祐一さんは真剣に聞いてくれていて、ようやく一通りの説明を終えた。
「二人の状況はわかったわ。寒名市、元々は神無と呼ばれる地で、オモイカネ?まあ、敵の作り出した世界にいたはずなのに、
そこで怜くんが守護者の力、幻術を使おうとしたらここに来てしまっていたということでいいのかな?」
「そうです。オモイカネの作り出した世界にあった神社がおそらくここのことなのだと思うんですけどね、所詮はまがい物にしかすぎないあの世界から、なんで本物のここへ来れたのかは不明ですけど…。」
「お前達が此処へなぜ来たのか理由はわからないが、来ることができた以上、戻ることもできるはずだ。」
俺達を安心させるために微笑みながら祐一さんがそう言ってくれた。
端整な顔立ちの微笑みに、沙弥先輩が頬を赤らめる。
「沙弥先輩?な〜に赤くなってるんですか〜?」
「あっ、赤くなんかなってないわっ。」
「そんなことないですよ〜?耳まで真っ赤になってますよ〜。」
俺達のこんなやり取りを、珠紀さんと祐一さんは笑顔で見ていた。
沙弥先輩は、話を無理やり変えるように、赤くなったまま珠紀さんと祐一さんに問いかけた。
「あの、玉依姫として覚醒するにはどうすればいいのでしょうか?」
二人は顔を見合わせた後、珠紀さんが口を開いた。
「そうね…、わたし達はそうだったのだけど、玉依姫と守護者の絆が必要なの。」
「絆…ですか?」
俺がそう言うと、今度は祐一さんが答えてくれた。
「玉依姫と守護者の絆。真に覚醒するためには、双方の心が通い合わなければならない。
玉依姫と守護者、お互いがお互いを理解し、必要としなければ絆は生まれず、真に覚醒することも適わない。」
「お互いに強い思いが必要よ。…でも、わたしの見たところ二人が覚醒するのも間近だと思うけど。
祐一先輩もそう思いますよね?」
「ああっ、そうだな。珠紀の言う通りだと思う。」
二人がこちらを見て笑顔になりながらそう言った。
初めて会ったときから思ってたけど、何て親密に結ばれた二人なのだろうと思った。
話こそ聞いてはいないけど、きっと玉依姫と守護者というからには、幾多の困難を乗り越えて結ばれた絆なのだろう。
玉依姫と守護者として覚醒してからも、今までずっと二人は絆を深めてきたのだろう。
二人がうらやましく思えた。
俺は、沙弥先輩に何かしてあげていただろうか?
沙弥先輩は、いつでも人のことばかりで、俺の気持ちを考えてくれていた。
俺がしたいようにすればいいよって。
そんな沙弥先輩だからこそ、ここに来る前。オモイカネの作り出した世界から出ようとしたときにすでに俺の気持ちは決まった。
たしかに外の世界には憧れているし、外の世界に出て行けば何かが変わる気がしていた。
でも、外の世界を見る前に、外の世界に出て行く前に俺の中でいろんな物が変わった。
今でも、外の世界へ行ってみたいとは思うけれど、沙弥先輩の傍にいたいという気持ちの方がどう考えても勝っている…。
珠紀さんと祐一さんの笑顔がぐにゃりと歪んでいく。
「時間みたいね。自分とは違う玉依姫と守護者に逢えて良かった。あなた達ならきっと覚醒して、封印できるわ!!頑張って!!」
「お互いを信じろ。お前達ならできるはずだ。」
景色が歪み二人の姿が徐々に消えていく。
「ありがとうございます!!」
「頑張りますね!!」
二人に聞こえたかどうかはわからないけれど、沙弥先輩と俺はそう返した。
先程とは反対に景色が変化し始める。
「俺もあの二人みたいになれるよう頑張らなきゃですね。」
っと小声で呟けば、沙弥先輩が、
「えっ?何か言った、狐邑くん?」
っと尋ねてきた。
「何でもありませんよ。ただ、俺は沙弥先輩のこと好きですよって言っただけです。」
にっこり笑ってそう言うと、沙弥先輩は顔を真っ赤にして、
「なっ、何をいきなり言い出すのっ!?」
そう言って、俯いてしまった。
「先輩、茹蛸みたいに真っ赤ですよ〜?」
そうからかえば、ますます俯いてしまった。
「そっ、そんなことないわ。」
そんな沙弥先輩が可愛くて、どうしようもなく愛おしくて、そっと先輩を抱き締めた。
「沙弥先輩。顔上げてください。」
頬を真っ赤に染めながらちゃんと俺の方を向いてくれた。
「俺、沙弥先輩のこと本当に好きですよ。」
そう言って、また抗議の声を上げようとする沙弥先輩のかわいい桜色の唇を俺の唇で塞いだ。
辺りの景色は、すっかり変化を終えていた。
オモイカネの作り出した人間のいない、オモイカネの理想とする世界へ戻って来ていた。

 

○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。○o.。○o.。
ただ、翡翠の雫で初代緋色メンバーとのコラボがあったので、ヒイロでも初代緋色メンバーとコラボって欲しくて勢いで書いてしまいました。。。
何だか、あの…、珠紀と祐一が出てきたあたりからわたしは何を書きたかったんだ?
ってなってしまい、ぐだぐだに。。。
初代緋色メンバーとのコラボと、怜ちゃんのあの何故そこでキスする!?ってとこのつじつま合わせたくて書き始めたのですが…
甘さがない。。。orz
そして、怜ちゃんの心の中でのしゃべり方?がこんなんで良いの!?
何か違う。。。ってなったんですけど、無理でした…どうにもこうにもできませんでしたorz
あっ、ちなみに初代緋色メンバーのところの季節はもちろん秋!!
蒼黒終わった後のつもりで書いたので、珠紀高3、祐一大学1年設定です!!
あっ、後、沙弥ちんと怜ちゃんが季封村へ行けたのは、オモイカネに取込まれた常世神たちのおかげというようにわたしの脳内ではなってます!!(笑
何かそこの部分を書く機会がなくて…
常世神が沙弥ちんと怜ちゃんが覚醒して、オモイカネから魂を解き放ってほしくて…
常世神達のどこかに残っていた理性が二人を季封村へ送ってくれたってことで!!(無理やり
駄文と自分でもわかっているのですが、書きたかった。。。
途中から開き直って書いてましたが(爆
ここまで読んでくださった方はありがとうございましたm(__)m

 

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