仮面ノ下

 

 

 

ただの"監視対象"。

そう思っていたのにな…。

 


鹿島があいつを殺そうとしたとき、俺は、理性とか全て今まで隠してきたものをかなぐり捨てて

自分の心が求めるままに動いた。

俺自身がどうなろうと知るものか。

あいつさえ無事ならば良い。

あの時の俺を突き動かしたのは、気づいていながらも見てみぬふりをして、奥底へ押し込めていた感情。

その感情の命じるままに、万象を捻じ曲げるような言葉に力をこめていた。

 


「――俺が嫌なら、振り払え。」

こんな事を言いながらも、沙弥に拒絶されたら…っと思うと背筋が凍る。

母親を殺され…妹とは引き離され…、心を凍らせて生きることを覚えた。

心を許せる相手なんていらない。欲しくもない。

そんなやつができて、そいつを失ってしまったとき俺はどうすればいい?

もう、そんな思いはしたくない。

だから、大切に思う相手なんか。大切に思う心なんて不要だ。

心を凍らせて、仮面をかぶって表情を消せばそんな思いはしなくてすむ。

 


なのに、そんな俺の心を沙弥、お前はいつの間にか溶かしてしまった。

今も俺が必死にかぶろうとしていた仮面を取り去ってしまった。

何年もかけて凍てつかせたものを呼吸をすることのように、いとも簡単に…。

俺の大切な沙弥…。

お前まで失ったら俺はもう、生きてはいけない。

だから俺は一人で行く。

全てのことに決着をつけるため。

お前が生きる世界を守るため。

俺の考えがお前にバレたらお前は怒るだろうな。

けれど、俺はもう二度と大切な者を失うのはいやだ。

離れたくない…。

そんな気持ちを理性で無理やり封じ込めて、お前の温かさから離れた。

自分の言葉に力をこめる…。

「【縛止】――」

どうして、なぜ?

そんな表情で沙弥が俺を見た。

ここで口を開けばきっと俺は仮面をかぶりきれない。

そっと心のなかで呟く。

沙弥、俺はお前を愛している。

だからこそ、お前は安全な場所にいて欲しい。

お前が玉依姫として覚醒するまでに俺が全てを片付けておくから。

黄泉ノ門をお前が封印するまでに、障害は取り除いておく…。

さよならだ、沙弥。

 

 

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