変わるもの、変わらないもの


「衛藤く〜んっ!!ごめんごめん待たせちゃって!」
待ち合わせをしていた人物がいるのを見つけ俺は駆け寄った。
「相変わらずだな〜、和樹さん。ホールに着くのはぎりぎりかな、早く会場に行くよ。」
「そうだね、行こっか!」
今日は、横浜みなとみらいホールで行われる全国学生音楽コンクール地方大会の初日。
俺の元教え子が、この地方大会の室内楽部門に出場するという連絡を受けて応援のために久しぶりに横浜に来た。
「電話で言ってたけど、今日、和樹さんの教え子が室内楽部門に出るんだろう?」
「そうなんだ。俺が教えてた時から、すごく真っ直ぐないい音出す子だったんだ〜。
久しぶりに演奏を聴くからどんな奏者になったのか、俺すっごく楽しみで楽しみで昨日なかなか寝つけなかったんだよね。」
俺がにこにこ笑いながらそう言うと、衛藤くんは苦笑いしていた。
出場の連絡を受けた直後に、衛藤くんからコンクールを観に来ないかって連絡が来た。
もちろん、俺は一も二もなく行くって即答。
その電話の最中にもかつての教え子の出場ってことがあんまりにも嬉しくて、衛藤くんにその話を延々聞かせ、
とりあえず待ち合わせの時間と場所を決めて電話を切った。
「和樹さんがそれだけ褒めるんなら、演奏に期待だな。」
「本当にいい音出すんだ八木沢は。あっ、八木沢って言うんだ、その子。楽しみにしてて!!
……ところで何で衛藤くんはコンクールに誘ってくれたの?」
衛藤くんから連絡が来たときは気付かなかったけど、何で全国学生音楽コンクールに誘ってきたのだろうとふと疑問に思った。
まさか、俺の元教え子が出るってわかってて一人じゃ俺が寂しいだろうって誘ってくれたとか!?
そんな事を考えていたら、衛藤くんがあきれたように苦笑しながら口を開いた。
「俺は、今回の大会のプレゼンテーター。星奏学院の生徒も室内楽部門で出場するからね、
暁彦さんに後輩の応援をして来いって言われたんだよ。それで、星奏学院OBの和樹さん達にも声をかけたってわけ。」
「ええっ!?プレゼンテーター!?……そっかぁ、そうだよね。衛藤くんヴァイオリニストだもんね。何だか世界が違うな〜……。」
衛藤くんは、今じゃ世界各国でリサイタルを開くようなヴァイオリニストだもんね。
何だか、仙台の一音楽教師の俺が一緒にいること自体有り得ないんだって改めて気付いた。

「ところで、入り口ってこっちであってるの……?」
「ん??あれ??こっちじゃないみたいだね……。」
いろいろしゃべったりしてたら、ホールには着いたんだけどどうやら入り口じゃないところに出てしまったみたいだ。
入り口はどこだ??っときょろきょろと辺りを見回していたら、懐かしい制服を着た女の子の姿が目に入った。
「うわ〜、懐かしい!!ねえ、君、星奏学院のオケ部の子!?」
その女の子はきょとんとしながら答えた。
「はい、そうですけど。」
「やっぱり!!俺たち、星奏学院のオケ部のOBなんだ!!今日は、俺の元教え子の応援に来たんだけど、星奏学院も今日なの?」
オケ部の後輩って聞いて、すごく嬉しくなった。いきなりこんなに話しかけられたらびっくりするかな?って考えが頭をよぎったけど、
嬉しさが勝ってそのまま構わず話しかけてしまった。
「星奏も今日なんです。」
その子は警戒する様子もなく、にっこりと笑いながら素直に答えてくれた。
「そうなんだ、応援するね!!あっ、でも俺至誠館の応援に来たんだった。どうしよう、至誠館を応援しなくちゃいけないけど、
でも星奏のオケ部は後輩だし……。」
今日は、元教え子の応援に来たのに、星奏学院も今日だったなんて。どっちを応援すればいいんだ、って悩んでたら衛藤くんが言った。
「どちらも応援すればいいだろ。そんなことで悩まないでよ。」
衛藤くんの言葉に目から鱗だった。どうしてそんな簡単なことに気が付かなかったんだろう、俺!!
「そっか、そうだよね。君も演奏頑張ってね!!応援してるから!!」
俺がそう言うと、その子は笑顔で、
「ありがとうございます。頑張りますね!!」
っと答えてくれた。
そんなことを話していたら俺の携帯が鳴り始めたので、ディスプレイを見てみると柚木からだった。
「柚木??」
"火原?今どこにいるんだい?もうみんな集まっているよ?"
「ごめんごめん!!もうホールの前には着いてるんだけど、入り口場所間違っちゃってさ。」
"そうなのかい?じゃあ、入り口で待っているよ。"
「うん、ありがと柚木。今から向かうから!!」
携帯を切って衛藤くんに電話の内容を伝える。
「なら、早く行かないとな。」
「そうだね。じゃあ俺達行くね。客席から応援してるから!!」
「ありがとうございます。」
星奏の子に別れを告げて衛藤くんと急いで入り口へと向かった。

「遅いよ。相変わらずだね、火原は。」
入り口に行くと柚木がいて、開口一番そう言われた。
「へへへ、ごめん柚木。みんなは?」
「もう、他の皆は中に入っているよ。ああ、久しぶりだね衛藤くん。」
衛藤くんの存在に気が付いた柚木が衛藤くんに声をかけた。
「久しぶりですね、柚木さん。お噂はかねがね耳にしていますよ。」
「そうなのかい?僕の方にも君の話はよく聞こえてるよ。
積もる話もあるけれど、もうすぐコンクールが始まる。他のメンバーも待っていることだし、とりあえず客席へ行こうか。」

ホールに入ると、懐かしい皆の顔がそろっていた。
月森くんに、土浦、志水くん、加地くん、冬海ちゃん、天羽ちゃん……。
それに、香穂ちゃん。
いろいろ話したいことはあったけれど、席について間も無くコンクールが始まったので、話すことをあきらめた。
一校目の演奏が始まり、いつしか演奏を聴くことに没頭していった。

「火原先輩っ?火原先輩っ!!」
どこか遠くで呼ばれている気がする……。
「ひーはーらーせーんーぱーいっ!!火原先輩ってば!!」
いきなり目の前に香穂ちゃんのどアップが現れて驚く。
「わあっ、なっ、何?香穂ちゃん??」
あまりにも吃驚したため挙動不審になりながら答える。
「何?じゃありませんよ〜。さっきから何回も呼んでいるのに全然反応してくれないし、心配しちゃいましたよ。
午前の演奏終わったのでお昼食べに行きましょう?」
久しぶりの音楽が溢れる空間のせいかあんまりにも演奏を聞くのに没頭していて、
午前中の演奏が全て終わったのにも気付かない程自分の世界へ入り込んでいたみたい。
「あっ、うんっ、そうだね!!行こうか!!って、あれ??みんなは??」
ふっと周りを見れば他のメンバーがいないことに気が付いた。
「みんな先に行ってしまいましたよ。火原先輩、全然気が付かないんで、火原先輩を連れて後からおいでって柚木先輩が。」
「そうなんだ。ごめんね、香穂ちゃんっ。」
香穂ちゃんに迷惑をかけてしまったと軽く落ち込んでしまう。
「気にしないで下さい。じゃあ、行きましょう?」
俺の落ち込んだ様子に気が付いたのか、香穂ちゃんは笑顔でそう言ってくれた。
二人で並んで歩いていると、周りの声が聞こえてくる。

"ちょっとあれ、ヴァイオリニストの日野香穂子じゃない??"
"本当だわ。綺麗ね〜。"

"去年の国際コンクールで優勝した日野香穂子だ……。"
"俺、あの人のファンなんだ。あの人のヴァイオリン、すげぇ優しい音色で癒されるんだよな。"
"サインとかもらえないかな?ってか、握手だけでもしてもらいたい!!"

香穂ちゃんは、星奏の付属大学に進学し、二年間こっちで勉強してからドイツの大学へと留学した。
そして、去年かつて王崎先輩が優勝したコンクールへ出場し、優勝して世界でも名を知られるヴァイオリニストになった。
周りの声にその事を思い出して、何だか香穂ちゃんが俺の知らない遠い人になってしまったみたいで少し寂しくなった。
「あのっ、ヴァイオリニストの日野香穂子さんですよね!?」
俺が物思いに沈んでいたら、すぐ近くでそんな声が聞こえてきた。その声に反応してぶんっと音がしそうな勢いで顔を上げると、
同じ歳くらいの男が香穂ちゃんのすぐ傍まで来ていた。
「はっ、はい。そうですけど……。」
香穂ちゃんは驚いたように困惑気味にそう答えると、その男は嬉しそうに笑って続けた。
「俺、日野さんのファンなんです!!握手してもらえませんか!?」
香穂ちゃんは困惑してどうしようっとうろたえている様子だったから、助けてあげなきゃ!!って思って、
口を開きかけたとき、すっと香穂ちゃんの横に人影が現れた。
「今日は、プライベートで来ているので遠慮してもらえないか。」
「一観客としてコンクールを見に来てるんだ。その間は一観客でいさせて欲しい。コンクールが終わった後ならいくらでも応じるから、今は勘弁してくれ。」
その言葉に香穂ちゃんに握手を求めてきた男は"すみませんっ"と謝罪し、残念そうに去って行った。
現れた二つの人影に周りから声が上がる。
"ヴァイオリニストの月森蓮よっ!!やっぱりかっこいい〜。"
"今大会のプレゼンテーターのヴァイオリニスト、衛藤桐也だ……。"
「月森くん、衛藤くん!?先に行ったんじゃなかったの??」
月森くんと衛藤くんの登場に香穂ちゃんは驚きを浮かべる。
俺の方は何となく……、皆香穂ちゃんの事思ってるから、誰か待ってそうだなっと心のどこかで思っていて、あまり驚きはしなかった。
「いや、ここで待っていた。」
「どうせ、こんなことになるだろうと思って俺と蓮さんで待ってたんだよ。和樹さんも香穂子もああゆうの断りきれないだろうってさ。」
俺ってそんな風に思われていたのか……少し落ち込むな〜。でも、俺だって、やるときはやるのに!!
「香穂子は、あんな風に来られたら戸惑っても握手してやるだろ。香穂子が嫌がったりしないのであれば、
和樹さんは絶対止めたりしないし、それに一人にしたらどんどん増えて収拾つかなくなる。
そんなことになったら休み時間が終わってしまうし、ってことでストッパー役に残ったってわけ。」
衛藤くんの言葉は俺の図星をつくもので、だめだな〜俺……ってまた落ち込んだ。
「こんなこと言ってる内にまた、ギャラリーが増えてきた。早く行こう。」
辺りを見回すと、遠巻きながらもエントランスにいる人のほとんどがこちらに注目している様子だった。
月森くんも、衛藤くんも、香穂ちゃんも……三人共名前も顔も知られているヴァイオリニストなんだと改めて思い、
高校生の時、学内コンクールやみんなでアンサンブルを組んでいた時とは違うのだと痛感した。

それから柚木達、他のメンバーが待つ店へ四人で向かった。
高校の話に花を咲かせながら懐かしいメンバーでお昼ご飯を食べて、再びホールへ戻った。
昼からは午前中の上位二校による演奏で、上位二校はもちろん、俺の元教え子の通う至誠館高校の吹奏楽部と、
俺達の母校で後輩達のいる星奏学院のオーケストラ部。
管楽器のみで構成された五人でのアンサンブルの至誠館は、トランペット二本、トロンボーン、ホルン、チューバ。
対する星奏学院は弦楽器のみで構成された四人のアンサンブルで、ヴァイオリン二本に、ヴィオラ、チェロ。
至誠館も星奏も両方とも、かなり弾き込んでいることがわかる演奏で、ぐんぐんと彼らの世界へ観客を引き込んでいく。
観客から感嘆の声が洩れる。
二校とも一歩も譲らない状態で至誠館の二曲目が終わり、星奏の生徒が舞台へと現れた。
あれっ?星奏は第一ヴァイオリンの子が一曲目と二曲目で違うんだ。
第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの奏者は同じだけど第一ヴァイオリンだけが変わった。
学生の音楽コンクールで構成は変わらないのに一曲目と二曲目でメンバーが変わるのは珍しいと思う。
なんてことをぼんやりと考えていたら、星奏の二曲目の演奏が始まった。
―――――――。
星奏の二曲目の演奏が終わり、シンと場内が静まり返り、一拍おいて割れんばかりの拍手が巻き起こる。
客席は歓声の渦に飲み込まれていった。

全国学生音楽コンクール地方大会の一日目が終わった。
一日目の全国大会への出場校は、俺の母校でもある星奏学院になった。
八木沢の通う至誠館は残念ながら星奏学院へ敗れてしまった。
あいつにとっては今年が高校最後の夏だったのにな……。
「火原先輩、どうかしたんですか?元気ないですよね?」
香穂ちゃんがそう声をかけてきてくれた。俺が、八木沢のことを考えて凹んでるのがバレたみたいだ。
やっぱり、香穂ちゃんには敵わないな〜……。コンクールの時も、アンサンブルの時も、
みんなのことをよく見てて、こんな風にすぐに人の感情に気が付いてくれる。
久しぶりに会ったっていうのにそれは変わらないみたいだ。
「実はさ、今日のコンクールに俺の元教え子が出てたんだけど、そいつは、今年三年だから今回が高校最後のコンクールだったんだ。
でもさ、全国行きを手にしたのは星奏だったじゃない?だから、俺そいつになんて声かけてやればいいのかなって……。」
俯いたままそこまで言って気が付く。久しぶりに会った香穂ちゃんに何こんな情けない姿見せちゃってるんだろう。
何やってるんだろう俺っ、急に恥ずかしくなって顔に熱が集まるのを感じる。
俺は慌てて香穂ちゃんに言った。
「ごっ、ごめん香穂ちゃん!!俺、何言ってるんだろう。こんな事言われても困るよね!!
俺はその子の先生だったんだからもっとしっかりしないといけないよね。さっきの忘れて!!」
手をぶんぶんと胸の前で振りながらそう言うと、香穂ちゃんはにっこりと笑って言った。
「火原先輩が思ったことを素直にその子に言ってあげれば良いのだと思いますよ。」
香穂ちゃんの言葉に意味がわからず俺はきょとんとする。
「先輩が彼等の演奏を聴いて感じたこと、思ったこと、それをそのまま伝えればいいと思いますよ、わたしは。」
香穂ちゃんは再び笑顔でそう言った。そして、言葉を続ける。
「コンクールの結果としては、星奏学院が全国大会出場で、火原先輩の教え子の学校は地方大会敗退という結果だったかもしれません。
けれど、勝敗なんて関係なく今日このコンクールを見に来た人達を感動させる素晴らしい音楽を聞かせてくれました。
聴いている者を感動させる、心を動かすような音楽を奏でたのだから、それってすごい事ですよね。
だから、火原先輩がどう感じたか、どう思ったのか、ありのままを伝えてあげればいいんだと思います。」
にっこりと笑ってそう言う香穂ちゃんを俺は目を丸くして見つめた。
そしてすぐにああっ、香穂ちゃんにはやっぱり敵わないな〜っと、くしゃくしゃと表情を崩して俺は笑った。

8年の歳月の中で変わってしまった事は数多くある。
でも、全てが変わってしまったのか、と問われれば答えはNoだと思う。
明日の打ち上げは、"素晴らしい演奏を頑張ったね会"にしようっと心の中で決めた。

○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。 ○o.。
ええっと、コルダ3の世界での初代コルダメンバーのお話が書きたかったのですが。。。
あれ。。。??一番書きたかった部分を書こうとすると、何だかうまく終わらない。。。
何でじゃ〜( ̄□ ̄;)!?結局、書こうと思っていた部分は今回断念しました。
しかも、いろいろ設定変わってしまってます(爆)ドラマCDで衛藤&火原の電話の話あるけど、あの時は、
衛藤がプレゼンテーターで帰国するから会えない?って話で、火原が他のメンバーに連絡してるし、
もちろん衛藤が暁彦さんと連絡取ってる素振りもないです。
さらに、火原とかなでがぶつかるシーンなし。。。さらに、柚木からは電話でなく本当はメールっていう。。。orz
とりあえず、この設定のまま今回書けなかった部分はまた別に書こうと思います。。。orz
なので、これは火原っちの出番と出番の間の話ってことで!!
疑問なのですが、何で火原っちは地元神奈川でなく仙台で教職に就いてるんですかね。。。??
大学が仙台ならまだしも、星奏の大学行ったんですよね?彼は。なので、ものすごくなぜ!?っと気になりました。。。
それにしてもコルダ3で火原っちと衛藤くん出すなら他のキャラも出して欲しかった。。。
アンジェシリーズみたいに、コレットの代にリモージュ出したように、翡翠の雫みたいに、珠紀出したように。。。
いつものように自分で何が書きたかったのかわからなくなるくらいにぐだぐだですが、ここまで読んでくださってありがとうございますm(__)m

 

 

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