La glace qui a fondu


参加者の演奏は全て終わり、後は結果発表待ちになった。
玲士は、ヴァイオリン教室の中でも一人抜きん出た実力の持ち主で、今回のコンクールでも、
自分の相手になる奴なんていないと思っていた。
しかし、違った……。
自分の演奏がどれだけ稚拙なものなのか、自分なんて大したことがないんだということを思い知らされた。
玲士はこの時初めて実力の差、才能というものを見せ付けられた。

ようやく、審査が終了したようで、入賞者の発表が始まった。
審査員が順位毎に入賞者の名前を読み上げる。
「三位、如月律。」
三位は玲士と同じ学年の子だった。
その子が壇上で盾と賞状を受け取り席に戻ると、二位の発表がされた。
「二位、冥加玲士。」
玲士はやっぱり……っと自分のこぶしをぎゅっと握り締めた。
呼ばれたのにも関わらず壇上に上がろうとしない玲士をヴァイオリン教室の先生が急いで上がるように促す。
先生に促され、俯いたまま玲士は壇上に上がり盾と賞状を受け取った。
玲士が自分の席へ戻ると、優勝の発表が行われる。
「優勝、小日向かなで。」
わっと拍手が沸き起こる。優勝した本人は、嬉しそうにはにかんだ笑顔を浮かべて壇上へと上がった。
そして、おめでとうっという言葉とともに、賞状とトロフィーを受け取る。
その様子を玲士は握っていたこぶしを更にぎゅっと握りしめながら見ていた。
天才はいるのだ。
今まで、周りの大人達から天才だ、神童だと玲士はもてはやされてきたが、自分は天才でも何でもないと玲士は思った。
本当の天才を目の当たりにしたからだ。
今まで、玲士は自分はすごいんだと信じて疑わなかったが、自分なんて優勝した子に比べると大人と子供程の差があると感じた。
小日向かなで……。
僕はもう二度と誰にも負けない。
天才がなんだ。僕はあの子よりもたくさん練習して天才を負かしてみせる。

俺のヴァイオリンに触れていた自分の目の前にいる男を睨みつける。
その男も負けじと俺を睨み返してきた。その時、後ろから声がした。
「あのっ、ちょっと待ってください。」
その声に俺は後ろを振り返る。
そこに立っていた星奏学院の音楽科の制服を着た女子生徒の顔を見て驚きを隠せない。
俺が初めて負けた、自分が天才なんかではなかったと思い知らせた相手がそこに立っている。
「小日向、かなで……。」
思わず口をついて名前が零れ出た。小日向は不思議そうに首を傾げる。
「あの……、どこかでお会いしてことありましたか……?」
小日向は全く俺のことを覚えていない様子だった。自分が負かしたやつの顔なんて覚えていないのだろう。
「響也があなたのヴァイオリンを勝手に触ってしまったこと謝ります。すみませんでした。」
「……。」
ヴァイオリンのことはともかく、小日向かなでにこんなところで会うとは思わなかった。

俺に初めて敗北を味合わせた、俺に初めての挫折を味合わせたやつの演奏を数年ぶりに聴いた。
俺はこいつに勝つために今までどんなに辛くとも練習を続けてきた……。
俺の目標だと言える存在だったはずだ……。
それが何だこのザマは。
俺が今まで目標にしてきたやつはこの程度だったのか?
数年ぶりの小日向かなでの演奏はあのときみた"天才"の演奏からは程遠いものだった……。
あいつは俺のライバルでなくてはならない。俺の目指す先にいなくてはならない。
それなのに……怒りのようなどうしようもない苛立ちが俺の心を支配した……。
お前は俺の好敵手(ライバル)でいてくれないと困るんだ……。
どこかでそう思っていたのだろう、気が付けば差出人の名前は書かずただ一言だけの手紙を書いていた。
そして、それを受付に預け小日向かなでの手へと渡るようにした。

あの時の俺の手紙を読んだからだろうか……?小日向かなでは星奏学院へ編入してきている。
そして、全国学生音楽コンクールへの出場するようだ……。これでようやくまた
じ舞台で競えるということか……。
小日向かなでとまた競えることに俺は知らず顔に笑みを浮かべた。
腑抜けてただの人になったお前に勝っても意味がない。
しかし、お前は星奏へ編入し、全国学生音楽コンクール出場メンバーに選ばれている。
つまりお前はもうかつての姿を取り戻したはずだ……。
俺を楽しませろ。俺を楽しませることができるお前に勝ってこそ意味がある。
かつての栄光を取り戻したお前に今度こそ、俺は勝ってみせる。
俺があの時味わった、屈辱と絶望をお前に味あわせてやる。

「冥加さん??」
美しいヴァイオリンの音色の変わりに、俺のことを呼ぶ可愛らしい声が聞こえてきた。
「どうかしたんですか?ぼ〜っとして。」
くすくすと鈴を転がすように笑っている目の前にいる少女に焦点を合わせる。
「何がおかしい。」
俺が憮然として目の前の少女に問いかけると、嬉しそうに微笑みながら少女が答える。
「わたしならよくあることですけど、冥加さんがぼ〜っとするなんて珍しいなって思って。
再会したばかりの頃には考えられなかったことです。」
少女は尚もくすくすと嬉しそうに笑っている。
「笑いすぎだ。……あの頃は敵愾心しかなかったからな。」
先程まで思い出していたように、あの時の俺にはそれだけしかなかった。あのような気持ちでいては、
本当に素晴らしい演奏なんてものはできるはずもなかったのにな。そんなことにも俺は気付かなかった。
「楽器店で逢ったときには、視線だけで射殺されるんじゃないかって思いましたよ。」
懐かしむように言う少女に、俺は苦笑する。
「本当に、あのときからは今を想像できませんでした。こうして、冥加さんの隣にいて、ヴァイオリンを奏でる時が来るなんて。」
ふふふっとまた嬉しそうに笑う少女につられて、俺も笑みを零す。
「……っ。」
心なしか少女が頬を赤くしてそっぽを向いた。
「どうした?」
そのおかしな行動に俺は少女に問いかけた。
「……その笑顔は反則ですっ……。」
聞こえるか聞こえないかという程小さな声で少女が言う。少女のその言葉の意味が俺にはよくわからず、問い返す。
「何が反則なんだ?」
「〜///っ。わからないならわからなくていいですっ。」

La glace qui a fondu

あんな、笑顔見せられたら心臓がもたないよっ……。
かなでは自分の静まらない心臓と火照る頬に慌てた。
元々、美形な冥加からあんな笑顔を向けられてドキドキしない女などいるはずがない。
しかも冥加自身は無自覚ときている。
何とか落ち着こうと深呼吸していると、冥加がその様子を笑みを浮かべながら見ているのに気が付き、
かなでの心臓はまた跳ね上がるのだった。

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金色のコルダ3が発売されて早五日が経ちました。まだ、体験版しかプレイしてません!!
27日になったばかりの午前0時過ぎにようやく、コルダ3を予約し27日昼に入金して参りました。
さて、届くのはいつになることやら。。。orz
このお話ですが、玲士×かなでで発売前に書いたフライングSSSに手を加えて、プレイ前SSを書いてしまいました。
ほんの少しだけ体験版から得た情報を反映しているので、SSSの時から多少変わってます。
玲士のED全く想像つかないんですけど!!まあ、でも、きっとかなでに甘々になって!!っという希望で書きました。
本当に玲士の雪解けが全く想像つかない。。。早くプレイしたいです!!
ここまで読んでくださってありがとうございますm(__)m

※La glace qui a fondu = 溶けた氷(仏語)

 

 

SAKURA6.JPG - 838BYTES金色のコルダ3フライング部屋TOPSAKURA6.JPG - 838BYTES