skillfully evade


「そこはそうじゃないと言っているだろう。何度言えばわかるんだっ!!」
「ごめんなさいっ……。」
音楽室に律の怒声が響き渡る。
今日はオケ部の練習はない日だが、かなでは律に練習を見てもらっているため音楽室にいる。
しかし、どうしてもうまく弾けないところがあり、また同じところでつっかかり本日何度目かの律の雷が落ちた。
「まあまあ、律。そう怒鳴り散らすなよ。かなでちゃん畏縮してしまって、うまく演奏できるところまで演奏が固くなってしまってるよ。
少し休憩して気持ち切り替えた方がいいんじゃないかな?」
律の雷で次第に畏縮していくかなでを見かねた大地はそう提案をした。
その提案に渋るかと思いきや、意外にもあっさりと律は受け入れた。
「そうだな。あまり根を詰めてやりすぎるのも良くない。10分程休憩してまた練習をしよう。」
「ごめんね、律兄、練習に付き合ってもらってるのに……。」
しゅんとして、謝るかなでに先程まで怒っていた者と同一人物なのかと言うほど、律は表情を柔らかくして言う。
「気にするな。迷惑だなんて思っていないし、むしろお前が俺を頼ってくれ嬉しいんだ。
お前はいつも響ちゃん、響ちゃんって響也にばかり頼っていたからな、たまにでも、俺にこうして頼ってくれるのが嬉しいんだよ。」
そう言いながら、かなでの頭をくしゃりと律が撫でた。
「ありがとう、律兄。」
満面の笑みを浮かべてお礼を言うかなでに、律の頬に朱が差す。
やれやれと言わんばかりの表情で大地は二人のその様子を眺めていたのだが、この幼馴染という関係の二人、
放っておくと一向に休憩を取りそうにないので声をかけることにした。
「律もかなでちゃんも休憩取るんじゃなかったのかい?練習の話は休憩が終わるまで、おしまい。」
大地がそう言うと、律からせっかくのかなでと楽しく話していたのに……っと睨まれたが、
伊達にオケ部の副部長をやっているわけではない大地は、こういう時の律は触れないに限ると、そ知らぬフリを決め込んだ。
そして、律が音楽室から出て行くのを確認すると、かなでに話しかけた。
「今日はオケ部の練習も休みだって言うのに、かなでちゃん本当によく頑張るね。やっぱりヴァイオリンが大好きなんだね。」
大地がかなでへ微笑みながら言うと、かなでは少し頬を赤らめながら答える。
「ヴァイオリンが楽しくて仕方ないんです。前にいた学校じゃこうはいかなかったんですけど、
星奏学院の音楽科は本当にいつも音楽が溢れていて、そこかしこからいろんな音色が聞こえてくる。
音楽って音を楽しむって書くじゃないですか?ここにいると本当にそれが実感できるんです!!
それが楽しくて仕方なくって、以前よりもヴァイオリンが楽しいんです。」
本当に楽しそうにかなでが言うので、大地も自然と顔が綻ぶ。
「そっか、最近表情が明るいのもそのせいかな?」
「う〜ん、それもあると思います。」
大地の質問に対して、かなでは含みのある返事をする。
大地がそこを追求しようとすると、それを阻止するかの如く、今度はかなでが大地に問いかける。
「以前から聞いてみたいことがあったんですけど、いいですか?」
上目遣いで可愛く尋ねられれば断る理由なんてない。
「かまわないよ、俺に答えられることならね。」
ウインクしながら言えば、かなでは頬を赤く染めながら、疑問を口にした。
「あの、大地先輩って、ヴィオラは星奏に入学する前からやられてたんですよね……?」
「うん、そうだよ。元々はヴァイオリンをやっていたんだけどね、ある劇的な出逢いを得て、ヴィオラへ転向したんだ。」
かなでの質問に、先程のお返しとばかりに含みを込めた言い方で答える。
かなではその含みのある言い方が気になっているようだったが、かねてから気になっていた質問を続ける。
「劇的な出逢いですか……。前からやられていたのなら、音楽科に入ろうとは思われなかったんですか……?」
星奏学院へ編入して来て、オケ部へ入部してからずっと疑問に思っていたのだ。
大地のヴィオラは、それこそ音楽科生徒にひけをとらない、いや、音楽科の生徒の中でも群を抜いている。
大地の奏でる音色は華やかでいて、かつ繊細で……人を惹きつける音色だ。
オケ部にこそ所属しているが、そんな演奏のできる大地が何故音楽科へ所属していなのかかなでは気になっていた。
「う〜ん、そうだなぁ……。かなでちゃんはどう思う?」
質問が返ってきたのは、かなでには思いもよらないことで、すっとんきょな声を出してしまう。
「へっ!?」
そんなかなでの反応に思わず大地は噴き出しながらも重ねて問いかけた。
「俺が、音楽科に入ろうと思わなかったのか。かなでちゃんはどう思う?」
「……、思わなかったから今、普通科にいるってことですよね……?」
かなでが恐る恐る自分の考えを言うと、大地は微笑んで言った。
「うん、正解。これでかなでちゃんの質問の答えになってるよね?音楽科に入ろうとは思わなかった。それが答え。」
「うっ……。」
かなでは言葉に詰まる。たしかに、かなでは"音楽科に入ろうとは思われなかったんですか?"っと尋ねた。
"音楽科に入ろうとは思わなかった。"大地の答えはたしかに、かなでの質問の答えになっている。
本当は音楽科にどうして入らなかったのかを聞きたかったけれど、露骨に聞くこともできなくてさっきのように尋ねたのだ。
まさかそう返されるとは……予想だにしていなかった展開にかなでは落ち込んだ。
がっくりと肩を落とすかなでに大地が声をかけようとしたそのとき、律が音楽室に戻ってきた。
この休憩時間中に、大地がかなでと一緒にいたことに気付くと、
俺には休憩にならないと、かなでと楽しく話していたのを中断させたのに、お前はかなでとずっと話していたのかと恨みがましそうに、大地を睨んでいた。
やれやれっと律が睨んでいることに肩をすくめながら、かなでに先程言おうとしたことを耳打ちする。
「何で音楽科へ入らなかったか聞きたかったんだろ?後で、教えてあげるよ。」
低めの少し掠れた声で耳元で囁くものだから、かなでは途端に真っ赤になる。
その様子に微笑みながら律にも聞こえる声でかなでに言った。
「って事だから、そろそろ練習再開するみたいだし、頑張りなね。」
この後、大地が律に危険人物とみなされ睨まれ続けたというのは、言うまでもない。

skillfully evade.
君になら本音を曝け出せるけど、
あまりにも真剣に聞いてくるから、ついついはぐらかしたくなるんだよね。

○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。 ○o.。
大地先輩は何だか、のらりくらりと巧みにはぐらかして、なかなか本音を出さない感じがするんですよね。
軟派な感じで女の子に優しいからですかね?
それ故に、何だかはぐらかすのうまそう……ってわたしは勝手に思ってます(苦笑
これ、本当はもうちょい長めの話になる予定だったんです。どうしてかって理由までかなでに言って終わらせようと思ってたんですけど……
何だか、はぐらかしたとこで終わった方がわたしのイメージする大地先輩っぽいと思ったので、カットしました。
カットした部分も書きたいな〜っと思い、現在製作中です。

ここまで読んでくださってありがとうございますm(__)m

※skillfully evade = 巧みにはぐらかす

 

 

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