全てはここから始まった


「はぁっ!?」
ここが店の中であることなんて忘れて、思わず出た声はそれだった。
他の客からの白い視線が突き刺さる中、今度は声を落として目の前にいるかなでに向かって言った。
「……聞き間違いか?もう一回言ってみろ。」
俺は、先程かなでに言われた言葉はきっと聞き間違いだっと思い、もう一度聞いた。
かなでの言ったことは、そう思いたくもなるような内容だったのだ。
「だからね、星奏学院に編入しようと思うの。」
最初に聞いた言葉と全く同じことを言われ、俺はしばしの間自分の思考が停止するのがわかった。
「はぁっ!?」
そして、停止した思考が回復すると同時に出た言葉は先程と同じだった。
またしても他の客からの白い視線が突き刺さる。今度は声を抑えることも忘れて、かなでに食って掛かった。
「何でっ!?」
俺がそう言うと、かなでは慌てたように俺の口を手で塞いで言う。
「声でかいよ、響ちゃんっ!!」
かなでの行動に俺は顔に頬が熱くなるのを感じた。男の口を普通手で塞ぐかっ!?
まあ、かなでと俺は幼馴染だから、かなでにとっては俺は男だと意識されてはいないみたいだが……。
かなでの手首を持って俺の口から引き剥がす。
「わかったから離せ。」
俺がそう言うと、かなではやっと手を戻した。
ようやく落ち着きを取り戻したので、冷静に質問した。
「で、何でいきなり星奏学院へ編入しようとか考えたんだよ?」
星奏学院と言えば、俺の大嫌いな兄貴が通っている高校だ。
音楽科と普通科があり、音楽科は音楽の名門校として有名で、多くの音楽に携わる著名人を輩出している高校だ。
家から通うには無理があるので、兄貴は家を出て星奏学院の菩提樹寮に入ってそこから通っている。
兄貴は真剣に音楽を学びたいということで星奏学院へ進学したが、俺とかなでは兄貴のように音楽を学ぼうと思ったわけではなかったので、
二人共家から通える高校へ進学して、ヴァイオリンだけは続けているという状態だった。
しかも、高校へ進学してすぐならまだしも、もう高校一年も残すところこの三学期で終わろうとしている。
それがどうして、今になって星奏学院へ編入とか言い出したんだ?っと、俺には寝耳に水という感じだ。
そんなことを俺が考えていると、かなでがようやく口を開いた。
「もっと、ヴァイオリンをうまくなりたいの!!」
……たしかに、まあ理由と言えば理由なんだろう。
だが、何でそれで星奏学院へ編入を考えるのかがわからない。
ただうまくなりたいだけなら他にもやりようがあるはずだ。
「かなで、理由になってない……。」
俺が呆れたようにそう言うと、かなでは頬を膨らませながら言い返してきた。
「理由になってるじゃない!!ヴァイオリンがうまくなりたいからもっとヴァイオリンのことを学びたいの。
今の高校じゃ部活の時と、帰宅した時くらいしか練習ができないし……。」
最後の方はしゅんとしたように言うかなでに俺は質問を変えた。
「ひとまず、うまくなりたいから星奏学院へ編入しようと思ったことはわかった。
何でいきなりヴァイオリンがうまくなりたいと思うようになったんだ?」
その質問を聞くと、かなでは嬉々とした様子になった。
さっきまでの凹みようはどこへいったのやら、いま泣いたカラスがもう笑ったと言わんばかりの豹変ぶりに笑えた。
「冬休みにわたしヴァイオリン教室のボランティアに参加したじゃない?響ちゃんが面倒くさいって参加しなかったやつ。」
そう言えば、そんなこともあった気がする。ヴァイオリンの先生に頼まれたが、
面倒くさかったからその日は用事があるとか理由をつけて参加しなかったんだ。
かなでの言葉に適当に相槌をうつと、かなでは話を続けた。
「そのボランティアね、他にも参加してる人がいて、その参加している人の中に王崎信武さんと日野香穂子さんがいたの!!
あの、ソリストの王崎信武さんと、国際コンクール優勝者の日野香穂子さんだよ!?」
さすがに俺も驚いた。手に持っていたジュースを落としそうになる。
小さなヴァイオリン教室とかが参加するようなボランティアに、そんな有名人が参加しているとは思わなかった。
俺が驚いた表情を浮かべたことにかなでは満足したらしく、話を続ける。
「本当に二人の演奏は素晴らしくて、何て言うんだろう。すごい温かくて、優しい音楽。華やかだけど、澄んでいて清らかな音色……、
ううん、言葉じゃ表現しきれないような素敵な音だった……。
心が揺り動かされるような、感動を与えられる音楽。」
そのときのことを思い出しているのか、かなではうっとりとしながら言った。
「わたしが努力したところで、あの二人のように弾けるようになれるなんて思わないけど、
それでも、わたしももっとヴァイオリンがうまくなりたいと思った。
聞く人を感動させることのできる音楽を奏でたいと思ったの。」
かなでは決意を秘めた瞳で俺に向かって言った。
「ボランティアの演奏会が終わって、そのボランティアに参加した人皆で打ち上げに行ったんだけどね、
王崎さんと日野さんとしゃべる機会があっていろんな話を聞いたの。
その時、"音楽"って音を楽しむって書くから、演奏するときはどんな時でも音楽を楽しむことにしているって、王崎さんと日野さんが言ってた。
そんな風に思いながら今演奏できているのは、星奏学院の生徒だったおかげだって……。」
なるほどな、そういうことか。いきなり、星奏学院へ編入したいなんて突拍子もないことを言い出したと思ってたら……
理由を聞いて納得。かなでらしい理由だと思った。
一つの事に夢中になると周りが見えなくなってしまう、昔からそうだった。
しかも、一回こうと決めると、頑固で絶対にそれを変えることがない。
そんなかなでを放っておけない俺がそのせいで何度巻き添えを食ったことか、そう思い苦笑した。
「だから、星奏学院へ編入しようと思うの、わたし!!」
まったく、こいつは本当に昔から変わらねぇな。
「編入しようと思って、すぐ編入できるような学校じゃないぜ?」
「わかってる。普通に受験して入学するよりも大変なことだってわかってる。それでも、わたしは星奏学院へ行きたい。」
さっき話していたときのかなでの瞳を見て本気なんだってわかっていたけれど、俺はもう一度問いかけてみた。
それでも、やっぱりかなでの決意は揺らぐことはない。
俺はあきらめのような息を一つつくと、かなでに言う。
「……まあ、万に一つも編入試験に受かるかわからないけど、やるだけやってみろよ。」
「ふふっ、響ちゃんならそう言ってくれると思った。でも、万に一つは余計!!」
かなでは嬉しそうに笑いながら、でも、少し怒って頬を膨らませながら言った。
「いや、わからないぜ?お前は本番には強いけど、いっつも直前まで緊張して慌ててるしな。
かなで一人だと心配だから、俺も一緒に受けるからな。」
にやりと笑いながら俺が言うと、かなでは一瞬の静止の後、俺が思わずかなでの口を塞ぎにいくような大きな声をあげた。
「え〜〜〜〜〜っ!?」

全てはここから始まった。

かなでは昔と変わらないって思ってたけど、こうやっていつの間にか自分から巻き込まれてる俺も昔と変わってないのかもな。
ここから、星奏学院の菩提樹寮での生活が始まる……。

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響也、かなでの幼馴染コンビが星奏学院へ編入してくる前を書いてみました。
公式HPや、雑誌とかで紹介されている文から捏造しまくりです!!響也→かなで、であればいいな〜っと思います。
前作と同じ舞台だけど8年後で、火原先輩と、衛藤くんが金色のコルダ3では出るらしいじゃないですか!!
なので、リンクさせてみました。香穂子は24歳のはずですよね〜、まだ大学院に通ってたりしてそうっと思い、国際コンクール優勝者としました。
王崎先輩は、まあソリストやってそうだな〜いろんなところでコンサートとか開いてそうって思ってソリストにしました。
まあ、まったくのわたしの妄想の産物なのですけどね(苦笑
本当は、月森くんとか土浦も出したかった。。。けど、月森君んとかボランティア参加しそうにないよね……
かなでも響也もヴァイオリンだし、土浦はやっぱないかな……ってことで、香穂子と王崎先輩のみになりました。
ここまで読んでくださって、ありがとうございますm(__)m

 

 

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