They are sweet in her.


オケのパート毎の練習中、オケ部の部長、如月律の怒声が音楽室に響き渡った。
「そこはそうじゃないって言ってるだろ、小日向!!何度同じことを言われればわかるんだ!!」
「すみません、部長……。」

日も傾き、最終下校時刻が迫ってきた。
「今日の練習はここまで、各自、課題点を明日までにちゃんと練習してくること。今日、特に課題点がなかった者も、
より良いものを作るよう練習を怠るな。じゃあ、解散。」
律の解散という言葉と共に、オケ部員達は各々片付けをはじめ、帰途へつく。
かなでも自分のヴァイオリンの手入れと片付けを終え、帰ろうとしていた。
音楽室のドアへと歩みを進めていると律が後ろからかなでを呼んだ。
「かなで!一人で帰るんじゃない。俺も一緒に帰るから、少し待っていろ。」
何事かと他の部員達の視線がかなでに集まる。かなでは居心地悪そうにしながらも、律に言われた通りに待つことにした。
かなでは、律が音楽室の最終的な戸締り、片付け状況の点検を終えるのを今日練習した曲の楽譜の譜読みをしながら待った。
ようやく、最終確認が終わり律がかなでの元へと歩いて来る。
「待たせて悪かったな。帰るぞ。」
「は〜い。」
律とかなでは、二人並んで菩提樹寮への道を歩いていた。
律が星奏へ入学し実家を離れ、かなでが響也と共に星奏へ編入してくるまでの間、久しく会ってはいなかったものの、
二人は律の弟である響也も入れて幼い頃からの付き合いである。所謂、幼馴染というものだ。
例え会話がなくてもそれが億劫になったりすることはない。
心地よい沈黙で二人並んで歩いていると、ふと律が口を開いた。
「……きつい言い方をして悪かった、かなで。」
かなでは律がいきなり何を謝っているのかわからず頭にクエスチョンマークが見えるくらいに不思議そうな表情で首を傾げた。
「パート練習のときに他のメンバーもいる中、名指しで怒っただろう。あれは少し言い過ぎた。」
「ああっ!!ううん、あれはわたしの練習不足が原因だもん、怒られて当然。律兄が謝ることじゃないよ!!」
律の言葉で何のことかようやく理解したかなでは、あわてて手を自分の前で振りながら言った。
「いや、しかし……。あの後、かなで落ち込んでいただろう?他の部員の手前お前を甘やかしていると思われるのはまずいと思うせいか、
言い方が厳しすぎた、さすがにあれは行き過ぎだろう。ごめんな、かなで。」
かなでのことを真っ直ぐに見つめながら、申し訳なさそうに律はかなでに謝罪した。
「ううん、律兄が本当はとっても優しいってわかってるし、わたしのために言ってくれてるってわかるから。」
にっこり笑顔で言うかなでに律は苦笑いする。
「そんな風に言ってくれてありがとうな、かなで。」
そう言いながら律はかなでの頭をくしゃりと撫でた。それをかなでは嬉しそうに猫のように目を細めて受け入れた。
そんなかなでの様子に律も頬が緩むのを感じる。
星奏学院で自分にも他人にも厳しいと言われるオケ部部長にこんな優しい笑顔を浮かべさせることができるのはかなでだけだろう。

「なあ、かなで。」
ひとしきりかなでの頭を撫でた律が声を上げると、かなではどうしたのだろうと律を見て首を傾げる。
「寄り道して帰らないか?」
「寄り道ってどこへ??」
律の突然の提案にもうすぐ菩提樹寮に帰り着くのに?とかなでは不思議に思って問い返した。
「そろそろ、弦を張り替えておかなければならなかったんだが、弦の買い置きが切れているんだ。
もう、暗くなってきているからお前を一人で帰らせるわけにもいかない。付き合ってくれないか?」
律兄が弦の買い置きを忘れるなんて珍しいと思いながら、かなでは返事をした。
「それはかまわないんだけど、わたしがいたら邪魔じゃない?もう、菩提樹寮まで少しだし、わたし一人で帰っても大丈夫だよ??」
律に気を遣ってかなでが言うが、律は首を横に振った。
「その少しの間にかなでに何かあったら、おじさんとおばさんに申し訳が立たない。
それに、邪魔なんてこと絶対にないから安心しろ。」
かなでを見つめながらそう言うと、律はまたかなでの頭をくしゃりと撫でた。

「付き合わせて悪かったな。」
「ううん!!律兄がいろいろ教えてくれたおかげでわたしも新しい弦買えて良かった。」
律のお目当ての弦を買い終わり、かなでも律の薦める弦を買った。
そんなことを話しながら、店を出て二人並んで歩いていた。
「付き合わせたお詫びにお茶でもして帰らないか?もちろん、俺のおごりだ。」
「お詫びなんていいよ。わたしも弦買ったんだから。」
律の申し出にかなでは大慌てで言葉を返す。そんな、かなでの様子に苦笑しながら律は言った。
「かなでは、俺に遠慮しすぎだ。たまには俺にも甘えてくれ。甘えてくれないと寂しいだろう?」
律に優しく諭すようにそう言われれば、かなでには律の申し出を断る術がない。
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね?」
かなでが申し訳なさそうに律を上目遣いに見ながら言うと、律は満足げに微笑みながら「ああっ。」っと答えた。

それから律とかなでは霧笛楼へ行き、律はコーヒーを、かなでは誘惑に負けケーキセットを食べた。
霧笛楼で、ゆっくりとした穏やかな時間を二人は過ごし菩提樹寮へと帰り着いたのは19時を過ぎた頃だった。
「今日は、ありがとう、律兄。」
かなでが笑顔で律にお礼を言うと、律も微笑みながらそれに答える。
「いや、俺の方こそ付き合ってくれてありがとう。じゃあ、また明日な。」
「うん、また明日ね。」
二人はそう言葉を交わすと各々の部屋へと向かって行った。
かなでが部屋に帰ると、同室のニアがベッドの上で雑誌を読みながら「おかえり〜。」っと声をかけてきた。
「ただいま。」
かなではそれに答えながら、ヴァイオリンとかばんを椅子の上へと置いた。
そして、部屋着へと着替え始めるかなでにニアが声をかけた。
「遅かったじゃない、かなで。どこか行ってたの?」
「うん、律兄と弦を買いに行ってお茶してきたの。」
かなでがそう答えると、ニアはにやにやと笑いながら嬉しそうに言った。
「なあに、デート〜?」
ニアのその言葉にきょとんとしながらかなでは答える。
「ううん、律兄にしては珍しく弦の買い置きを忘れてたとかで一緒に買いに行ってきただけよ?
それで、付き合わせたお詫びにって、お茶おごってくれたの。」
「な〜んだ。つまんないの〜。」
ニアは興味を削がれてベッドにごろんと転がった。
「あ〜、今日律兄から怒られたとこ練習しておかなきゃ。」
かなでの独り言が聞こえ、ニアはベッドから跳ね起きて驚いたように声をあげた。
「珍しいっ、如月先輩がかなでのこと怒ったの!?」
ニアの中では普段誰にでも厳しい律も、かなでに対してだけは優しいお兄さんっというイメージが出来上がっていたため、意外でならなかった。
「オケ部じゃよく怒られるよ?でも、当然のことなのにどうしてかすぐに怒ったこと謝ってくるけど。
今日も、帰りに謝られて、その後買い物に行って来たの。」
「ねえ、もしかしてかなで如月先輩に謝られたときも、当然のことだから気にするな〜ってなこと言った?」
「うん、わたしの練習不足で怒られたんだからって言ったよ?それが、どうかした?」
かなでのその答えを聞くとニアは、ああ、やっぱりっと思った。
そして、自分の推測が正しいであろうことを確かめるため、またかなでへ聞いた。
「で、その後いきなり弦を買いに行くことになった?」
「うっ、うん、そうだよ。寄り道して帰らないか〜って。だから、それがどうしたの??」
「何でもな〜い。それはかなで自身が自分でわからないといけないことだから。」
そう言うと、ニアは再びベッドへごろんと転がった。
如月先輩の気遣いや優しさは全くかなでには伝わってない……、哀れ如月先輩……っとニアは心の中で呟き苦笑した。
ニアの思った通り、律が弦を買いに行くというのは口実。周りの目があるため、かなでのことも怒るのだが、それでかなでに嫌われたくはない。
だから、謝るけれどかなでは怒ったこと自体全然気にしていなくて……、でもかなでを怒ったことで表情を曇らせた事実は消えない。
ならば、同じ分だけかなでが喜ぶことをしてあげたいけれど、理由がなければかなではそれを受け入れてくれない。
そのため、律は弦を買いに行くのにかなでを付き合わせるということで、そのお礼という口実によってかなでを笑顔にするチャンスを得たのだ。
それにしても、本当に兄弟そろってかなでに甘いな〜、そんなことを考えていると、かなでが声をかけてきた。
「ニア、ご飯行こう?」
「あっ、そうだね。行こうか!!」
まあ、この子に甘くしちゃう気持ちわからないでもないけど、ニアはそう思いながらかなでと共に部屋を後にした。

They are sweet in her.

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ブログでUPしたSSSに加筆しました、律→かなで+ニアです。
当初、ニアは出すつもりなかったんですけど、なんとなく出してしまいましたよ(苦笑
さらに、オケ部があるときは必ず響也がかなでと一緒に帰ってそうなんですけど、律とかなでを書きたかったので、響也は何処状態になっちゃいました(苦笑
如月兄弟はとにかくかなでには甘そう……遙か3の有川兄弟と望美の関係のような感じがいいな〜っと思ってます。
幼馴染設定っておいしいですよね〜、大好物です!!
律をとにかくかなでに甘く、甘くっと思いながら書きました。
ここまで読んでくださってありがとうございますm(__)m

They are sweet in her. = 彼らは彼女に甘い

 

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