芽生えた気持ち

 

 

 

ようやく、星奏学院への編入手続きも終わり、学院の制服も出来上がった。

後は、明日の編入する日を待つのみになった。

彼女の奏でる音色に初めて出逢ったときに少し話しただけ、それから今まで一度も会うことができなかった。

彼女は僕のこと、"アメイジング・グレイス"をリクエストした男を覚えていてくれたりしないだろうか?

彼女とすぐ再会できることを願いながら、僕は眠りについた。

 


空は快晴。絶好の編入日和だ。

彼女が星奏学院の生徒であることは知っているけど、学年もクラスもわからない。

同じ学年で、同じクラスだったら運命なのにな。

まあ、そんな贅沢は望まない。

必ず今日、彼女を見つけ出して知り合いになろう!!っと僕は意気込んだ。

 


「今日からこのクラスの一員になることになった、加地葵くんだ。」

「加地葵です。よろしくお願いします。」

印象が良いよう当たり障りのない自己紹介をした。

「加地の席は、日野の横が空いてるな。日野!!加地にいろいろ教えてやってくれ〜。」

「は〜い、わかりました〜。」

先生の話しかけた女生徒の方へ視線を移すと、そこには、僕が今ここにいる理由を作った彼女がいた。

まさか同じ学年だったなんて。

まさか同じクラスだったなんて。

まさか隣の席になれるなんて。

こんなにすぐに見つけ出せるなんて予想外だ。

しかも隣の席、こんなに近くはない!!ってぐらいに近い場所にいけるチャンスが巡って来るなんて、

僕は神様に感謝した。

「じゃあ、加地って、おい加地どうした?」

先生が僕に呼びかける声が遠くで聞こえた気がしたけれど、

僕には彼女しか見えなくて、気付いたらふらふらと彼女の方へ向かっていた。

「やっと会えた…。」

彼女の手をとると、彼女の手の甲に口付けをした。

周囲の女生徒達は悲鳴をあげ、男子生徒達は口笛を吹いたりしていた。

彼女は顔を真っ赤にして驚いた表情を浮かべていた。

「日野〜、お前加地と知り合いなのか?まあ、どっちでも良いがよろしく頼んだぞ。じゃあ、HR終わりな〜」

先生は事態の収拾をあきらめてHRを早々に終わらせた。

「よろしくね、日野さん。」

僕が笑顔で挨拶すると、呆然としていた日野さんが思い出したように

「あっ…、臨海公園の!!」

と言った。あの時のことをどうやら覚えていてくれたようだ。

同じ学年、同じクラス、隣の席、それだけでも幸せなのに、僕のことを覚えていてくれたなんて、天にも昇る気持ちって言うのは今の僕の気持ちのことを言うのだろう。

こんなに幸せで良いのだろうか?

「覚えていてくれたんだね、すごく嬉しいよ。」

「わたしなんかの演奏であんなに拍手してくれた人他にいないもん。ましてやリクエストしてくれる人なんて…。

だからね、すごく嬉しかったのあの時。

あっ、自己紹介してなかったね。わたしは日野香穂子。よろしくね、加地くん。」

にっこり笑顔で言われれば、鼓動がどんどん早くなっていった。

日野香穂子…。香穂さん。名前も可愛いんだな〜っと彼女の笑顔を見ながら考えていたら、

「お〜い、日野〜!!土浦が呼んでるぜ〜。」

「ありがと、佐々木くん!!ちょっと、ごめんね加地くん。」

そう言うと日野さんは廊下の方へ行ってしまった。日野さんがいなくなると、女の子達から質問攻めにあった。

その質問一つ一つに曖昧に答えながら、目は日野さんを探す。

いた!!楽しそうに濃緑色の髪の長身な男子生徒と話している。

誰だろう…。日野さんにはすでに決まった相手がいて、それが彼なのか?

予鈴が鳴り、日野さんが席に戻ってきた。

「日野さん。今日はまだ教科書とかないから見せてもらってもいいかな?」

「あっ、うん!!いいよ。」

臨海公園で出逢った、不可蝕の女神が僕の隣、こんなに近くにいる。

人って、どうして1つ望みが叶うと、また新しく何かを望んでしまうんだろう。

僕はノートの端に、質問を書いた。

"さっき、しゃべっていたのは日野さんの彼氏?"

日野さんに質問を見せると、日野さんは笑ってノートに何か書いた。

"違うよ。"

欲張りな僕はそれを聞いて胸のつかえがとれた気がした。

 

 

 

僕は君に出逢ってすぐのときから、君の音色だけでなく、君自身にも魅せられていた。

僕がこんなことを思っていたなんて知っても、君は僕を嫌いにならないでいてくれるかな?

 

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