再恋


ついつい目で追っちまう奴がいる。
そいつはいつも一生懸命でものすごく頑固で、ものすごく心の強さを見せたかと思えば、年相応の少女らしい脆さが見えたりする奴だ。
昼休みに放課後に休日、そいつがいそうだな〜ってところをわざとぶらつくフリして探したり、
そいつの奏でる音色がどんなに小さくても聞こえようものなら、その音色を辿って行っちまう。
重症だな、こりゃ。
もう、誰も愛することなんてないだろう、できないだろうと思ってた俺の心の中に、そいつはするりと入り込んできて、
いつの間にか居ついちまった。
俺の心の中に居ついちゃいるが、そいつの心の中に俺を居つかせてはくれない。
そいつのことばかり見てるせいで気付きたくないことまで気付いちまうんだよな〜、そいつが誰を見ているかなんてことまで。
そいつは、俺の高校時代の後輩の吉羅をいつも見ている。

そいつの演奏を聞くギャラリーより更に、ちょっと離れた場所でそいつの奏でるヴァイオリンの耳に心地良い音色を聞いていた。
その音色で今日一日の疲れを癒していると、ブリーフケースを片手に持った吉羅が歩いてきた。
「お〜、吉羅。今日はもう帰るのか〜?」
「金澤さん。ようやく、学校の建て直しが軌道に乗ってきたのでね以前ほど残業は必要なくなってきているんですよ。
それに、今夜は財界のパーティーに参加予定でしてね。」
吉羅は俺の高校時代の後輩だが同時に、俺が勤める星奏学院の理事長でもある。
今はまだ生徒達も下校途中で吉羅にしては珍しく早く帰るものだと思ったら、なるほど、そうゆうことか。
「金澤せんせ〜い!!」
パタパタと走ってくる音と共に、すぐに誰とわかるその声。俺の言うそいつが走り寄ってきた。
「何だ〜、日野〜。何か用か〜?」
さも面倒くさそうに言ってしまう自分が恨めしい。本当は何も用がなくても話しかけてほしいのにな。
「用がないと話しかけちゃだめなんですか?」
日野はちょっと拗ねたように言った。そんなところも可愛いなんて思ってしまうとか、俺は本気でこいつに溺れちまってるな。
「そんな事は言ってないだろ〜。で、どうしたんだ?」
「金澤さん、わたしは先に失礼させてもらいますよ。」
すっかり日野しか目に入らなくなってしまっていて、吉羅のことを忘れていた。
「おおっ、気をつけてな〜。」
「理事長!?すみません、何か金澤先生と話していたんじゃ…。」
日野はものすごく焦って申し訳なさそうに吉羅に謝った。俺や他の奴を見るときと、日野の目が違うのがわかる。
「いや、特に何か用事があったわけではないので気にすることはない。
ところで日野君、前々から言おうと思っていたのだが、下校時間ぎりぎりまで校内で練習するのは熱心で良い事だが、
君はどうも練習に夢中になって無理をしすぎるきらいがある。
ここは風を遮るものもなく寒い、健康には十分気をつけたまえ。
体調を崩しては元も子もないからね。」
吉羅もまた他の者を見るときのような冷たい冷徹さをたたえたような目でなく、
穏やかで優しい色をたたえた目で日野のことを見ている。
二人はお互い惹かれあっている。
吉羅がこんなに穏やかな表情をするようになったのは日野と日野のヴァイオリンのおかげだ。
日野の演奏が今こんなにも良くなったのは吉羅のおかげだ。吉羅に恋をしたおかげで音色が表情豊かになった。
「はい、気をつけますね。」
「では、わたしはこれで失礼させてもらうよ。」
「は、はいっ!!」
吉羅が去っていった方を日野は寂しそうに眺めていた。じっと吉羅の去ったほうを見つめている日野の横顔は夕日に照らされて、こちらが息を呑むほど美しかった。
吉羅の姿が見えなくなって、ようやく俺の存在を思い出したのか、日野はこちらに向き直り口を開いた。
「で、お願いしたいことがあるんです。」
「何だ〜?いたいけな教師に無理難題ふっかけたりすんなよ〜。」
俺はおどけたようにそう返した。
「ジュ・トゥ・ヴを歌ってくれませんか?」
突然の出来事に俺は頭の中が真っ白になった。返事を返せないでいると、続けて聞いてきた。
「駄目ですか?」
うっ、可愛い。そんな瞳をするな、ってそんなこと言ってる場合ではなくて…、
「お前さん、何だっていきなりそんなこと言い出したんだ?この俺が歌うって、無理に決まってるだろ〜」
俺は平静を装って言った。
問題は何で日野が俺に"歌って"なのかだ。
「自分の解釈に納得がいかなくて、だから金澤先生の解釈を聞いてみたくて。やはり、駄目ですか?」
かつての俺はたしかにオペラ歌手だった。だが、恋に溺れて声も何もかも失った。
なのに、音楽から離れることはできなくて、結局、母校で音楽教師になった。今まで、誰にも俺がオペラ歌手であった事実は話していない。
もちろん、日野にも。
そりゃあ、俺の在学中からいた教師連中なんかは知ってるが、落ちぶれたオペラ歌手、そんな話誰もわざわざ言いやしない。
なのに、なぜ日野は今俺に"歌って"と言っている?
なぜ日野が知っているんだ?吉羅が日野に話したのか?
いや、あいつは俺が隠していることを知っているから、そんなことは話したりしないだろう。
「リリが教えてくれたんです。金澤先生はすごい歌い手で、学内コンクールでも優勝したって。」
いらんことを言ったのは、ファータ共か…。
「悪いが日野、俺はもう歌わない。っというより歌えないんだ。」
「…どうしてですか?」
少しためらった後に日野は俺に質問を投げかけてきた。
「…それは聞いてくれるな。」
そう言いながら日野の頭にポンッと軽く手を置いた。
日野にまだ俺の過去を言う勇気はない。歌えない理由を言うのならば過去の話もしなければならない、俺の過去を知ったら軽蔑されそうだと思った。
例え日野に好きな奴がいて俺に気持ちが向くことはないだろうとわかっていても、せめて嫌われたくはなかった。
「わかりました…。」
「ありがとうよ。」
日野の柔らかい髪の毛を撫でながら、好きな奴の願いにも答えてやれない自分が情けなかった。
「それにしても、何で俺の解釈なんて聞いてみたいんだ?他にも、興味深い解釈をしてくれそうなやつとかならいるだろうが、
学内コンクール参加メンバーならそれぞれ個性的な解釈をしそうじゃないか?」
自分でそう言いながらも胸が痛んだ。他の男(やつ)なんかに聞いて欲しくないってのが俺の本音だ。
「金澤先生の解釈が聴いてみたいんです。他の人では意味がないんです。」
正直、どうしてそこまで俺の解釈に固執するのかはわからなかったが、俺だけの解釈を欲してくれていることが内心うれしかった。
「お前さん、そんなに俺の解釈が聴いてみたいのか?」
「聴きたいです!!」
真っ直ぐに即答されて、俺は苦笑いした。
「歌うのは無理だが、俺も一応は音楽科のOBだ。ピアノくらいは弾けるから、ピアノで俺の解釈を表現するってのでいいなら聞かせてやるよ。」
日野はものすごく嬉しそうな表情を浮かべて、俺の話を最後まで聞き終わるか終わらないかの勢いで、
「是非、お願いします!!」
っと言った。
「あっ、でも練習室空いてなかったんですよね。音楽室はオケ部が練習してるし…。後ピアノがあるところと言ったら講堂くらいしか…。」
「講堂か…、うん、お前さん良い所に気が付くじゃないか。」
講堂のあそこならたしかにピアノもあるし、防音設備もある。ついでに、一般生徒に気付かれることもない。
「ほら、日野、行くぞ〜。」
「えっ?えっ??ちょっと金澤先生、待ってください!!」

「講堂にこんなところがあったなんて知りませんでした!」
今、俺と日野は講堂の舞台裏控え室近くの練習室にいる。少し奥まった場所にあるし、コンクール中は使用されることがなかったから、日野は知らなかったのだろう。
ピアノの前に座り、指ならしをした。
「さてと、"ジュ・トゥ・ヴ"だったな…。」
日野は頷くとピアノの近くに立った。
俺は静かにピアノを奏で始めた。"ジュ・トゥ・ヴ"、日本語で言えば"あなたなしでは居られない"…。
曲の通り俺は、日野が欲しい、お前さんなしではいられないんだと言う気持ちを乗せてピアノを弾き続けた。
最後の音まで日野を思い、心を込めて弾きあげた。演奏が終わると、日野は夢中でといった様子で拍手してくれた。
「すごいです。ピアノの演奏技術もすごいけれど、金澤先生の解釈が、人の心に響かせることのできる演奏がすごいです。」
必死になって言葉を探して言ってくれてるのがわかって子どものように素直に嬉しかった。
「ありがとうな。これが俺の"ジュ・トゥ・ヴ"の解釈だ。」
日野と出会うまで俺にはこの曲で再びこんな解釈はできなかった。
日野と出会うまで、こんな演奏はできなかった。日野と出会うまでもう二度と誰かなしでは生きられないなんて思うことはないと思ってた。
「金澤先生、伴奏頼んでも良いですか…?」
俺の解釈で何かを掴めたようだ。
「ああっ、一回くらいなら付き合ってやるよ。」
「ありがとうございます!!」
そう言うと、日野はヴァイオリンの準備を始めた。調弦も済み、お互い準備が整い演奏を始めた。
日野は、俺の演奏が人の心に響かせることのできるって言っていたが、自覚はないのだろうか?
伴奏している俺の心をどんどん惹きつけていく。心へ音色を響かせる演奏ができるのは日野の方なのだ。
聴いていて切なくなるような、それでいて情熱的で、誰かに焦がれてやまない気持ちがひしひしと伝わってくる。
この気持ちが俺に向いているものであれば良かったのに…っと願わずにはいられない。けど、日野のこの気持ちは吉羅に向かっているものだ…。
胸が切なく苦しく痛み始めた。
もう二度と人を愛することなんてないだろうと思っていたのに、愛してしまった。
だが、愛してしまった相手には恋焦がれる相手がいる。
俺にはその恋が実って、彼女が幸せになってくれることを祈るしかできない。
自分がどんなに苦しかろうと、辛かろうと、この身を引き裂かれる思いをしても、笑顔で彼女を応援してやることしかできない。
道化だな…。
昔の俺なら、彼女を掻っ攫ってでも、俺の方に向かせようとしただろうな。誰が傷つこうとも…。
自分がどうなろうと、彼女に幸せであってほしい…こんな風に思えるのも彼女だからなのだろう。
そんなことを思っていたら、あっという間に日野との演奏が終わってしまった。
「わたしの思い描いていた通りに演奏できました。金澤先生ありがとうございます!!」
「自分の解釈に確信が持てたみたいだな。音も堂々としていたし、良かったぞ。」
「金澤先生のおかげです。ありがとうございます!!」
「俺は何もしていないさ。全部お前さんの実力だ。」
俺は日野のために何もしてやれない。してやれることと言ったら、音楽教師としてアドバイスやらしてやるだけだ…。
「そんなことないです、金澤先生のおかげでこの解釈を弾くことができたんです。」
真っ直ぐな瞳で、可愛らしく微笑んでくる日野を見ていたら抱き締めて腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られた。
その衝動を必死に理性で押しとどめようとしていると、室内の電気が消えた。
「きゃっ!!」
「おっ、おいっ日野っ。」
いきなり暗闇になってしまったことに驚いたのか、日野が俺に抱きついてきた。
日野に抱きつかれて、俺はかなり動揺して、恋を初めてした少年のように心臓が早鐘をうっていた。
「ごめんなさい、先生。暗闇、苦手なんですわたし…。」
緊張しつつも、日野が落ち着くように、背中をやさしくぽんぽんと叩いた。
「警備のやつ、誰もいないだろうと思って電源落としたみたいだな。ドアの方はセキュリティが入っちまったし…。」
「明日まで、このままですか…?」
不安そうに日野が俺に聞いてきた。
「いや、見回りにきて確認してから入り口の施錠をするはずだ。心配するな、明日までこのままってことはないさ。それにしても、悪かったな、日野。」
何を謝っているのかわからないという感じで日野は首をかしげた。
「こんなとこに閉じ込められるなんてことになってさ、すまなかったな。」
「そんな、金澤先生が謝る必要ありません。わたしが、金澤先生の解釈を聞いてみたいなんてお願いしたから…。」
「お前さんはホント、優しいな。」
日野の頭をぽんぽんっと叩いた。
「クシュンっ。」
「おいおい、お前さん大丈夫か?寒いんじゃないのか?」
「大丈夫ですよ。ちょっとくしゃみが出ただけですから。」
日野はそう言ったが、今は1月だ。それに、下校時間前ならまだしも、電源を落とされ、暖房も切れてしまっている。
考えるまでもなく、いつも着ている白衣を脱ぐと日野にかけた。
「たばこ臭いだろうが、我慢しろよ。風邪ひくよかマシだろう。」
「だめですよ、それじゃあ、先生が風邪ひいちゃいます!!」
あまりにも真剣な顔をして、言ってくるもんだから笑いがこみ上げてきてしまった。
「ふっ、お前はコンミスになるため今頑張ってるんだろうが。そんな時に風邪引いてる暇なんかないだろ。俺は大丈夫だから、おとなしく使っていろ。」
「…そうですね。ありがたく貸してもらいます。」
心なしか、日野が元気がなくなった気がした。気のせいかもしれないが、気になった。
「お前さん、さっきまでの元気はどうした?」
日野は苦しそうに笑って言った。
「あはは…。金澤先生にとってわたしはやっぱり、一生徒でしかないんだな〜って痛感して少し、落ち込んじゃいました。」
突然のことで俺はどんな表情をすれば良いのかすらわからなくなってしまった。
自分の耳を疑った、俺は期待してもいいのか?
お前さんの見ている相手は吉羅じゃないのか?
「って、こんなこと言われても困っちゃいますよね!すみません!さっきのは聞かなかったことにしてください。」
俺は、嫌が応にも期待をしてしまう。期待なんてしても待っているのはきっと落胆だけだとわかっていても、期待をせずにはいられなかった。
「日野、言いたいことがあるんならはっきり言ってほしい。」
日野は、今にも泣き出しそうな顔をして少し考えて意を決したようにしゃべり始めた。
「金澤先生のことが好きです。」
日野のあまりにストレートな言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
これは夢なのではないだろうか、自分に都合の良いようにできている夢ではないのか?
「本当は卒業するまで見てるだけにしよう。卒業するときには駄目で元々、先生にこの気持ちを伝えようって思ってたんです。
こんなこといきなり言われても困りますよね。いきなり一生徒にそんなこと言われたら困っちゃいますよね。
ごめんなさい。今の忘れてください…。」
一気にまくしたてたようにしゃべる日野の言葉で我に返った。忘れられるはずがない、忘れたくない。
思わず今まで我慢してきたものが一気に溢れ出た。気付いたときには日野を自分の腕の中に閉じ込めてしまっていた。
「金澤先生…?」
「お前さんは、吉羅のことが好きだったんじゃないのか?」
日野の言葉で忘れていたが、いつだって、日野は吉羅を目で追っていた。そのことを思い出し、苦しい気持ちで日野に投げかけた。
「えっ!?何でそんな話になるんですか!?わたしが理事長を好きだなんて有り得ません!!わたしは金澤先生のことが好きなんです。」
そこまで言って顔をゆでだこのように真っ赤にしてうつむいてしまった。そしてぽつりと言った。
「自分の好きな人に他の人が好きだと思われるのって悲しいです。」
「日野…。」
俺が日野のことを思っていたように、日野も俺のことを思っていてくれた事実が嬉しかった。
ただひたすら日野が愛おしくて、生徒と教師という禁忌な関係であることも忘れてしまい、日野の唇に唇を重ねてしまいそうになった瞬間…
カツーン、カツーン――――――
戸締りにきた警備員の足音が聞こえてきて、俺は理性を取り戻すことができた。

警備員にドアの施錠を解除してもらい、申請を出さずに使用していたことについては謝り、下校時間はとうに過ぎていたし、このまま日野と別れることがどうしてもできず、
結局、学校から徒歩圏内に住んでいる日野を送っていくことにした。
お互い無言のまま並んで歩いていた。
沈黙を破ったのは日野だった。
「…金澤先生は、どうしてわたしが吉羅理事のことを好きだなんて思ったんですか?」
さっきは思わず生徒と教師であることを忘れてしまったが、今は違う。
そのことを忘れてはいないが、俺には、日野の問いへの答えをはぐらかすことはできなかった。
いや、正確に言えば"できない"ではない、したくなかった。
「…お前さん、いっつも吉羅のことを見ていたじゃないか?最近のお前さんの演奏には艶がでてきた。音に表情がでてきた。
だから、吉羅に惚れてるから、演奏に幅が出てきたと思った。」
答えをはぐらかすこともできなかったが、素直に答えることも難しくて、ふてくされている子どものような答え方になってしまった。
「…、ぷっ…あははははははっ…。」
人がフィルタをかけず、本音を言ったというのに…。
「お前さん、俺が恥を忍んで言った本音を笑うって。」
「あははははっ、ああっ、苦しい…。わたしはいつも吉羅理事の先輩で、よく吉羅理事と一緒にいる人を見てましたよ。金澤先生だけをいつも目で追ってました。」
女に、しかも一回り以上も離れている奴にここまで言わせておいてもなお、
どうしても今日吉羅の背中を寂しそうに見ていた日野の姿が頭から離れず、つい聞いてしまった。
「お前さん、でも、今日は、明らかに吉羅の去っていく様を寂しそうにずっと見てたぞ?」
「あの時は…。聞いても絶対笑わないでくださいよ!!」
一瞬言葉に詰まったのがどうしようもなく不安を掻き立てる。けど、笑うなっていうのはどうゆう事だ?とりあえず、日野の念押しに頷いて返事をした。
「あのときはすごいお腹空いててですね、吉羅理事は今日もパーティーとかに出るのかな〜、おしいご飯いっぱい食べれるんだろうな〜っとか思って、
ぼ〜っと吉羅理事を見てました…。」
日野の言ったことを反芻して…、最大級の笑いがこみ上げてきた。
「ぶっ、くくくくくっ…。」
「あ〜、絶対に笑わないでくださいって言ったのに!!」
自分の間抜けさに笑えた。恋する切なさと、お腹が空いての切なさの見分けもつかないのかって。
けど、そんなこともわからないくらいに俺は日野のことを好きになっていたんだと思った。
「先生、笑いすぎです!!」
日野の事が愛しすぎて、教師と生徒だからとかいう考えは頭からとんでしまった。
笑いすぎだと怒る日野の手を引っ張って、よろめいた彼女を抱きすくめて、耳元で囁いた。
「お前さんのことがどうしようもなく好きだ。」
「…、本当ですか?」
日野は目に涙をいっぱい溜めて、俺の方を見ながら聞いてきた。
「こんな嘘を言ってどうするんだよ。」
涙をこぼしながら、でも、今までで最高の笑顔を浮かべて、最高に綺麗な顔で言った。
「何だか夢みたいです。こんなに幸せで良いのかなってくらいに…。」
「俺も、夢みたいだ。」
そう言って俺は日野の唇に自分の唇を重ねた。


二度と人を愛することなんてないと思っていた俺が再びあの情熱に身を焼かれるような恋愛をすることになるとはな。
しかも、一回以上も離れている奴に。
お前さんが卒業するまで、この禁忌な関係のせいで何度辛い思いをさせてしまうかわからない。
それでも、お前さんから俺は離れられない。
こんな俺をお前さんは見捨てないでいてくれるだろうか?
そんなことを言えばお前さんは怒りそうだな。
絶対に幸せにしてやるから俺から離れてくれるなよ?

 

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