勝者は誰だ!?


この年は報道部としてはネタに困らなかったな〜っと、撮影した写真の出来上がりを確認してる最中にふと思った。
春は学内コンクールがあったし、
秋からは学内コンクール出場者のアンサンブルコンサートがあった、
12月には、あの憎っくき理事長のせいで学院が普通科と音楽科がばらばらになってしまう!?なんて出来事があったし…。
うんうん、今年は報道部のネタに困らなくて良かった!!
それもこれも、香穂のおかげだな〜なんてぼ〜っと思ってたら、おっと、まずい!!もうすぐ下校時刻!!
写真を片付けて、帰るために校門へと向かった。
「菜美〜っ!!」
後ろから呼ばれたので振り返ると、香穂がぶんぶん手をふりながら走ってわたしの方へやってきた。
「お〜、香穂っ、どうしたのさ?」
「菜美が歩いてるのが見えたから、一緒に帰ろうと思って。」
「じゃあさっ、ちょっとお茶でもして帰らない?」
「いいねっ、あっ、買いたい物があるんだけど、付き合ってくれる?」
「もっちろん!!」
そんなことをしゃべりながら香穂と校門へ向かって歩き出した。

「まさか、買いたい物ってのが、バレンタインのプレゼントだったとはね〜。」
「えへへ。付き合ってくれてありがと、菜美。」
お茶する前に、香穂の買いたい物ってのを買いに行ったのだけど、まさかバレンタインのプレゼントだとは思っていなかった。
さすがのわたしももうすぐバレンタインであることは覚えていた。
報道部のネタとしては皆が興味を持つ題材でもあるので、バレンタインに関する記事を書こうとも思っていたし…。
香穂には色恋沙汰の話題が多いが、あくまでもそれは噂程度のもので、実際のところそのような事実はないと本人から聞いていた。
「それにしても、香穂ったらいつの間にいい人見つけたのさ〜。」
「えへへ、バレンタインがうまくいったら菜美には一番に報告するから、今はまだ勘弁して?」
「報告楽しみにしてる、頑張りなよ〜、香穂!!」
さて、香穂の思い人は一体誰なんだろう?
春のコンクール参加者なのか、それともそれ以外の人間なのか…。
わたしの見る限りコンクール参加者は全員、香穂に好意を寄せていると思って間違いない。
そのコンクールに秋から相次いでアンサンブルコンサートを開いたことにより、
香穂のファンは大勢いる。音楽科の柚木先輩と肩を並べるようなファンクラブまでできているほどだ。
更に、現在は有名バイオリニストになった王崎先輩、
コンクール担当だった金やん、
容姿端麗、才色兼備の転校生の加地くん、
あの性格が恐ろしく悪いうちの学院の吉羅理事長、
さらにその理事長の従弟の衛藤桐也までもが香穂に好意を寄せている。
香穂が誰か1人にバレンタインのプレゼントを渡すとなると、どんだけの男が泣くのだろうかと思う。
当の本人は全くそのことに気付いていないみたいだけど…。

翌日、いつものように交差点で信号待ちしていると、仲良さそうに一緒に登校している普通科の生徒二人がいる。
1人はもちろん香穂。一緒に歩いているのは、
あの濃緑色の髪にタッパのある身体つきは、香穂に思いを寄せるコンクール参加者の1人、土浦梁太郎だ。
まあまあ〜、普段の仏頂面からは想像できないほど甘い笑顔。普段からあれくらい愛想良ければ良いのにね〜なんて考えてたら、
「菜美、おはよ〜!!」
香穂がいつの間にやらわたしに気が付いて声をかけてきた。
「おはよ〜、香穂。」
っと言いつつ、横に視線を滑らせてみると見事なまでの仏頂面。
「菜美も一緒に行こう?」
香穂の発言を受けての土浦くんからの視線が痛い…。お前断れよ、っていう視線が…。
「香穂ちゃ〜ん!!」
っという香穂を呼ぶ声と共にダッシュしてくるのは、火原先輩だ。
「おはようございます、火原先輩。」
「おはよう、香穂ちゃん!!あっ、天羽ちゃんと土浦もおはよう!!」
"も"って、ついでですか…しかもようやく気付いた感じで…。いや〜、でも朝からちょっとおもしろくなってきた。香穂争奪戦が始まりそう!!
「香穂さん、おはよう。朝から香穂さんに会えるなんて今日は良い日になりそうだな。」
「あっ、加地くん、おはよう。」
おっと、今度は加地くんが参戦。加地くんは2学期になってあの有名な国立高校から香穂に会うために転校してきたんだよね〜。
「香穂子、おはよう。今日は早いな。」
「おはよう、月森くん。そうかな〜?いつもと同じだよ?」
あ〜んな、自分以外の人間寄せ付けない感じだった月森くんが、こ〜んなやさしい笑顔で異性に挨拶するなんてコンクール当初では考えられない!!
これで月森くんも参戦っと。
「おはようございます、香穂先輩。」
「うわっ!!びっくりした〜、志水くんおはよう!」
志水くんも参戦…、理事長と衛藤桐也と王崎先輩、金やんはさすがに参戦は無理だろうから〜、後はあの王子様だけか〜っと思っていたら、
香穂争奪戦勃発の現場の横に黒塗りのベンツが停車して、窓がゆっくり開いた。
「おはよう、香穂子。」
「おはようございます、柚木先輩。」
出たよ!!親衛隊まである柚木様!!(笑)
「歩いて行くから今日はここで降りるよ。」
運転手にそう伝えて、柚木様は優雅に降り立った。これで春のコンクール参加者+加地くんという面々は揃った!!朝からこ〜んなおもしろそうな現場に立ち会えるなんて、
わたしってばツイてる!!
お互いがお互いを牽制し合ってる感がたまらなくおもしろい!!
「香穂さん、今日の放課後僕と一緒に練習してもらえないかな?」
「今日の放課後は…」
香穂が言いかけたとき、上からかぶせるように加地に答えを返す者がいた。
「今日の放課後は香穂は俺と練習する予定なんだよ、悪いな加地。」
「そうゆうことなの、ごめんね加地くん。」
土浦は勝ち誇ったように、香穂は申し訳なさそうに言った。
「香穂ちゃん、今日お昼一緒に食べれないかな〜?」
「ごめんなさい、火原先輩。今練習中の曲を見てもらおうと思って、月森くんと約束してるんです。」
「そっか〜…。また今度一緒食べようね!!」
元気に振る舞ってはいるものの、尻尾がたれた子犬のようになってしまっている。
「香穂先輩、今日一緒に帰れますか?」
「ごめんね、志水くん。今日は金澤先生と、吉羅理事長と約束があって…。」
「そうですか…。」
「ごめんね。」
ここにいないメンバーの約束がすでにあるとは、わたしも思わなかった。それにしても、金やんも、吉羅理事もものすごい牽制しあってそう!!
うわ〜見た〜い!!
「香穂子、今度の土曜日一緒に練習できないかな?」
「すみません、柚木先輩。その日は衛藤くんと約束があるんですよ。」
「先約があるのなら仕方がないね。」
あの柚木様の誘いを断るなんて!!って、柚木親衛隊が聞いたら、確実に言われるだろうな〜。
ってか、それにしても衛藤桐也、ちゃっかり約束とりつけてるなんてやるな〜。
「今度の日曜日は空いているだろうか?良かったら、一緒に練習しないか?」
「月森君、ごめん。日曜日は王崎先輩と約束してるんだ。だから、ごめんね?」
「そうか、残念だ。いや、気にしないでくれ。また他の日に一緒に練習しよう。」
あの王崎先輩までちゃっかりと約束を!?あの、王崎先輩がね〜…。
さっき、断られた面々もあきらめず来週、再来週と香穂に約束を取りつけている。
それにしても、ここまでみんなのアプローチがすごいのに、香穂全く気付いてないみたい…。
憐れ男共…、なーんてわたしは1人ほくそ笑んでいた。

翌週の月曜日、わたしはいつも通り登校していると、交差点の向こう側に香穂を見つけた。
「香〜穂っ!!おはよう!!」
「おはよう、菜美。」
何だか心なしか元気ない?
「どうしたの?何か元気ないよ〜?」
「聞いてよ菜美〜!!土曜日は衛藤くんと約束してたから、臨海公園でいつものように指導してもらってたんだけど、
練習が終わった後でね、どこか行かないか?ってことになったんだけど、
何かものすごく機嫌の悪い吉羅理事長に会って、衛藤くんと理事長は一触即発な感じで…、そしたらなぜか、金澤先生とかアンサンブルのみんなと会って、何だかみんな機嫌悪くてすごい険悪なムードで…。」
ああっ、ものすごいその現場が想像できる…。そして、香穂が慌てふためいている姿も…。
「日曜日は王崎先輩に練習見てもらって、どこか行こうかってなったらみんなに会って…、やっぱり何か険悪なムードで…すごく疲れた…。」
く〜、香穂には悪いけれど、その現場すごく見たかった!!
絶対、傍観者でいる分にはめっちゃ見てておもしろかったハズ!!
あ〜、わたしもその辺にはりこんでれば良かったかも…。
「まあまあ、元気だしなよ!!今日おいしいケーキでもご馳走してあげるから!」
「本当に!?」
あ〜あ〜、目輝かせちゃって。
「ホントホント。おいしいケーキ屋さん見つけたんだ〜。冬海ちゃんも誘って3人で行こっ。」
「3人でケーキ食べに行くの!?いいな〜、俺も行っちゃだめ?」
いきなりわたし達の会話に入ってきた主は火原先輩だった。
「わっ、びっくりした〜。火原先輩いきなり驚かさないでくださいよ!!」
「ごめんごめん。ねえ、俺も行っちゃだめ?」
「う〜ん…。」
これは香穂、絶対断りきれないだろうな〜。ここは一肌脱いでやるか。
「火原先輩、今日は駄目です。女の子同士の積もる話があるんで、本日は男子禁制です!」
「残念だな〜、俺もおいしいケーキ食べたかったな〜。」
「ごめんなさい、火原先輩。また今度みんなで食べに行きましょう?」
「うん、そうだね香穂ちゃん!!楽しみにしてるね!!」
あ〜、子犬が尻尾をぶんぶん振ってる姿が見える。

ちょっと用事があって、香穂を探してみると、常に誰かしらが必ずいた。
休憩時間に教科書借りようと思って行くと加地くんは当然なんだけど、土浦くんが一緒にいたり、
昼休み用事があって探してみると、月森くんとご飯食べてたり、
放課後、志水くんの膝枕になっていたり、火原先輩と練習してたり、
帰るときには、柚木先輩の車に乗っていたり、吉羅理事長の車に乗っていたり、
休みの日には、金やんにクレープおごってもらってたり、
王崎先輩とコンサート見に行ってたり、
衛藤くんからヴァイオリンの指導してもらっていたり…。
そんなこんなで気が付けば明日はバレンタインデーって日になっていた。

「香穂っ!!どうよ明日の準備は万全?」
バレンタインの準備は万全か聞いてみた。
「ううん、今日帰ってからが勝負!!成功すると良いんだけどな〜、心配。」
「大丈夫だって、成功するよ!!」
「ありがと、菜美。今から帰って頑張るね!!じゃあね、また明日!!」
「頑張れ、香穂!!」
香穂がこっちに手を振りながら帰って行った。果たして香穂の思い人って誰なんだろ?
バレンタインのプレゼントを買いに行ったとき一緒にいたけど、全く誰へのプレゼントか想像つかなかったんだよね…。

「菜美っ!!」
「うわっ、びっくりした〜、どうしたの香穂?」
眠いっと思いながらぼ〜っとしてたところにいきなり耳元で呼ばれ、驚いた。
「バレンタイン、うまくいったの!!」
「…うそっ!?ホントに!?おめでと、香穂!!で、誰なのさ??」
バレンタイン翌日の昼休みのビッグニュースにわたしは興味津々だ。
真っ赤になってうつむきながら小声で香穂が答えた。
「…陽樹さん。」
陽樹さん…?どっかで聞き覚えのある名前なのだが、思い出せない。誰だっけ?っと必死に考えてみるけれども、思い出せない。
「火原陽樹さん。火原先輩のお兄さんなんだけどね…」
香穂が言葉を続けようとしていたところでようやく情報が頭の中で結びついた。
「ええっ!!??」
「学内コンクールのとき、森林公園にヴァイオリンの練習に行ったらね、火原先輩と陽樹さんがバスケやってて。そのときに一目惚れだったの。
何回か、会ったことあるくらいで、駄目元だったんだけどOKもらえたの!!」
情報が結びついたものの、予想の範疇を遥かに越えていた話にうまく頭が回らない。
「かっ香穂、その指に光るのは…。」
「陽樹さんがお返しにってくれたの。」
香穂の左手の薬指には花をモチーフにしているピンクの石のついた可愛らしい指輪。明らかに虫除け…。
この日、香穂の指輪を見た、香穂に好意を寄せる男共の悲鳴がそこかしこから絶え間なく聞こえてきた。

こうして、香穂争奪戦は幕を閉じた。
勝者が意外すぎる人であるという結末で…。

 

 

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