ONE PIECE 先天性サラダ船長
火が焦がれる太陽


「おいっ!!みんな見てくれ!!」
手に何か紙切れを持ったエースがドタドタと食堂へと走り込んで来て、集まって酒を呑んでいた隊長達に声をかける。
エースの言葉に隊長達の中でも特にエースと仲が良いマルコとサッチが反応する。
「いったい何をだよい。」
「どうしたエース、何か嬉しそうだな。」
元より喜怒哀楽の表情の豊かなエースがかつてない程、心底嬉しそうな満面の笑みを浮かべてやって来たものだから、
白ひげ海賊団の一番末っ子の弟のその様子に隊長達も自然と頬を緩めながら聞く体勢を取った。
自分の言葉にきちんと反応し、隊長達が皆聞く体勢になってくれたことに満足してより一層嬉しそうに笑うと、手に持っていた紙切れを見せてくる。
「これだ!!」
エースの差し出した紙切れに視線が注がれる。

・・・・・・

「手配書だねい。」
「手配書だな。……賞金額は3千万ベリー、か……。」
エースが見せてきたのは、海軍の手配書。
"麦わらのルフィ"。賞金額3千万ベリーは最弱の海"東の海(イーストブルー)"としても、初めての手配額としても破格の金額だが、
四皇の一角である白ひげ海賊団の隊長達としては別段騒ぐ程もない海賊だろうという見解だった。
なので、エースが急いでわざわざこの手配書を持ってきた意図が読めず、この手配書がいったいどうしたと言うのか、
そんな風に皆一様に疑問に思っているとエースが口を開いた。
「コイツは。ルフィは、俺がココに来る前からの唯一の"家族"なんだ。俺とルフィは三つ離れてるから俺は、ルフィより三年早く海に出た。
ルフィを一人残して行くのが心配だからよ、海に出るのを遅らせてアイツが17になって海に出るまで待っていようかと思ったんだが、
俺には俺の冒険があるんだから行って来いって背中押して言ってくれたんだ。」
そう話し、手配書を嬉しそうに愛おしげに眺め、指でなぞりながら続ける。
「海に出てからは連絡なんて一切取ってなかった。まあ、俺の手配書とか見て、ルフィは俺の事少しは知ってただろうけどな。
……俺からルフィのことを知る手立てはなかった。けど…、ついにアイツも賞金首か……。」
久しぶりに見る自分の大切な"家族"に、嬉しいと思うけれども、その反面、心配に思いもする。
そんな複雑な感情を抱きながらエースはふっと苦笑した。
「まあ、俺の自慢の"家族"をみんなに見せたかったから手配書を持ってきたわけなんだよ!!」
そう言うと頬を指でかき照れ臭そうにした後、エースは嬉しそうに皆に向き直った。

エースは、このモビー・ディック号に乗ってからよく笑うようになった。
もちろん、スペード海賊団をやっていた時だって笑ってはいた。
でも、今思えばあれは本当に心の底から笑っていたとは言えない気がする。
スペード海賊団はきっとエースじゃなくても、エースがいなくても続いていける。
だからエースは自分の出生を明かすことはしなかったし、クルーの方も特に気にしなかったし、知ろうともしなかった。
けれど、白ひげ海賊団の船長、白ひげことエドワード・ニューゲートは全てを知ってなおエースを息子と呼び、必要としてくれた。
エースを"家族"だと言ってくれた。
今まで、エースの全てを知ってそれでも必要だと言ってくれたのは義兄弟のサボとルフィだけだった。
サボとルフィの前でだけ、エースは心を許して心の底から笑えた。
モビー・ディック号に乗って、白ひげ(親父)のシンボルを背負うようになってから、心を許せる人間が増えた。
サボとルフィの前だけでなく、白ひげ海賊団の皆の前でも心の底から笑えるようになった。

今、ルフィのことを皆に言って嬉しそうに笑うエースの笑顔は紛れも無く心の底からの笑顔。
上辺だけの体裁を整えたようなものではなく、心底嬉しいとき、楽しいときに浮かべる笑顔だ。
この船に乗る家族(隊長達)の中で一番弟のエース。
そのエースの笑顔に、その場の面々は嬉しく思った。
そして、エースをこれだけ嬉しそうにさせる"麦わらのルフィ"とはどんな奴なのかと興味を持った。

後に彼等は、そう思ったことを後悔するほど"麦わらのルフィ"の話をエースに度々、延々と聞かされることになる……。

「それでな、ルフィの奴おれに言うんだよ。」
「「……。」」
エースと酒を呑んでいたマルコとサッチは、酔っ払っているエースからもう、何度目だろうかと言えるくらい、
酒を呑むたびに聞かされてきたエースの"ルフィ"の話を再び聞かされてうんざりしていた。
もう、返事をするのも億劫になっており返事をしないでいると……、
「……ちゃんと聞いてるか?マルコ!!サッチ!!おれの可愛い可愛いルフィの話をっ!!」
酔っ払っていながらもそれに気が付いたエースが聞け!!っと言わんばかりに言ってくる。
「はぁっ……。ちゃんと聞いてるよい!!」
「で、ルフィがどうしたんだよ、エース?」
マルコは深く溜息をついた後やけっぱちな感じで、サッチは苦笑しながらエースの機嫌を損ねないよう聞く体勢をとって答えた。
その二人の様子に満足げにエースは頷くと、ルフィの話を続ける。
エースの様子にマルコとサッチは少しだけ顔を見合わせ、やれやれといった様子で苦笑した。
「ルフィがなあの可愛らしい顔で言うんだよ!!"エースがいないとおれは嫌だ!!"って。
あ〜、何でルフィはあんなに可愛いんだろうな〜……。」
いっそ清々しいほど気持ち悪い、でれでれした様子で酔っ払ったエースがそう言う。
白ひげの二番隊長であるエースは強い。
それに、顔はなかなかもって整った精悍な顔つきをしているし、体は鍛え上げられており、
その引き締まった体躯はメラメラの実の能力ゆえに惜しげもなく曝されている。
白ひげ専属のナース達にもエースファンはいて、間違いなくカッコイイ部類なのだが……、
酔っ払って"麦わらのルフィ"のことを緩みきった顔で可愛いと言っているサマを見ると果たしてカッコイイのか?と疑問が湧いてくる。
「ああっ、ルフィ元気にやってんのかなァ……。やっぱりアイツを一人で海に出すなんてことするんじゃなかった……。」
机に突っ伏してエースがなおもぼやき続ける。
「ルフィが何と言おうと海へ出るのを三年遅らせておれと一緒に連れてくれば良かった……。」
うじうじと机にのの字を書きながら言うエースにマルコとサッチはあきれるしかない。
もう、完璧な酔っ払いだ。
この酔っ払いをどのようにして部屋に戻して寝かしつけるか……。
まあ、このままココに放っておいても良いのだが、そうした場合翌日に噛み付かれるのが面倒だ。
お互い口には出さないものの、マルコとサッチの考えていることは同じであった。
とりあえず、エースのルフィ話を終わらせるべくマルコは口を開いた。
「お前のルフィ贔屓はもう十分わかったよい。とにかく酔っ払いはさっさと寝ろよい。」
マルコが言うと、エースは机に突っ伏していた体をがばッと起こすと、マルコに向かって言う。
「何だとぅ!!?おれのどこが酔っ払いだ!!あ〜……ルフィ、会いてェなぁ〜……。
ルフィだったらもしおれが酔っててもこんな冷たい扱いなんてしねェのになぁ……。」
エースのその言葉に、マルコとサッチは心底メンドくせェ!!と思った。
が、まあ何とかその言葉を口にすることだけは耐え、エースを部屋に戻らせることに専念しようとする。
「あ〜、そうだな。エースは酔っ払ってねェよな?けどな、そろそろ夜も更けるしさ、お開きにしないか?」
サッチが言うと、エースはサッチの方を向いて答える。
「サッチ……。おれ達は何だ?海賊だろ?海賊は自由だ!!!何にも縛られることなく自由に生きるのが海賊だ!!!
そんな海賊が時間に縛られてどうすんだよ!!!まだまだ夜は長ェんだ、寝るには早ェよ。」
そう言って、持っていたコップから酒を飲み干してドンッと机に置いた。
マルコとサッチは、ああ、これはもう何を言ってもエースは聞かない……と諦めに似た気持ちで思う。
エースがダウンするまでひたすらエースからルフィ話を聞かされ、逃亡は認められない。
マルコはそっと溜息をつき、小声でぼやいた。
「エースがこんなにブラコンだとは思わなかったよい……。」
マルコは通常の人間であれば聞き取れないような本当に小声で言ったのだが、身体能力が人並はずれているエースの耳にその言葉はしっかりと届いていた。
「ブラ、コン……?」
エースが疑問系で言うと、マルコは聞こえてたのかっと少しバツの悪そうな表情を浮かべる。
「お前がだよい、エース。」
聞こえてしまったなら仕方ないと言うように、軽く開き直ったようにマルコが言うと、エースは首を傾げる。
「おれが、ブラコン?」
エースが再び疑問系で言うので、マルコは頷いた。
自分がブラコンであるという自覚がないのか、コイツは……。重症だよいとマルコは心の中で独りごちる。
マルコの肯定の意を示す行動にエースは、ん〜?っと疑問に思いながら言う。
「あれ?おれサボの話、お前等にしたっけか?」
エースのこの言葉に、今度はマルコとサッチが首を傾げる番だった。
"サボ"というのはいったい誰のことなのか……。今まで、麦わらのルフィのことを話していたはずなのに、
なぜ"サボ"という名前が出てきたのか。マルコとサッチには意味がわからなかった。
いきなり出てきた名前に頭がついていっていないマルコとサッチが思わず無言になっていると、
エースは続けて疑問を口にした。
「サボのこと話してたとしても、おれそんなサボのこと話してねェと思うんだけど……、そんなに話してたか?」
あれ?っと疑問に首を傾げるエース。
"サボ"というのは誰なのか、また何でブラコンという話から"サボ"という人物の話が出てきたのか、わからなくなってきたマルコとサッチ。
「ちょっ、ちょっと待てよい。」
一旦頭を整理したいマルコがそう言ってエースを制止する。
「エース、お前麦わらのルフィ以外に家族がいるのか?」
恐る恐るといった感じでサッチが尋ねると、エースはすぐさま「ああっ。」と答えた。
"ブラコン"っと言ったら、今まで麦わらのルフィの話をしていたのに、突然"サボ"というエースのもう一人の家族の話がでてきた。
まあ、"ブラコン"と言われて出てきたのだから、エースの兄弟なのだろう。
"ブラコン"="サボ"……じゃあ、麦わらのルフィは?
マルコとサッチはどうやら同じ答えに辿り着いたらしく、お互い顔を見合わせる。
そして、マルコが恐る恐るエースに問いかけた。
「なあ、エース。」
「何だよマルコ、変な顔して?」
「変な顔なんかしてねェよい!!」
しっかりエースの失礼な発言にツッコミを入れると、次の言葉を発する前にマルコは唾をゴクンッと飲み込んだ。そして口を開く。
「"麦わらのルフィ"ってのは、お前の"妹"なのかよい?」
マルコはそう言うと、サッチと共に固唾を呑んでエースの返答を待つ。
「今更何言ってんだよ。おれのルフィは可愛い可愛い"妹"に決まってんだろっ!!」
どーーーーーーんっ!!!
っと効果音がつきそうな程エースは胸を張って言い放った。
たしかに、男にしては可愛すぎるとは思っていた。
しかし、エースに聞かされてきたルフィとの思い出話の数々を聞いていると決して、ルフィが"妹"であるとは思えなかった。
そう、エースの話から"妹"だと思えるハズがないのだ……。
「その可愛い妹と、一緒に風呂入ったり、一緒に寝たりしてたって言うのかよい!!?」
今までエースがルフィの話をする度に聞いていた話。
ルフィが"弟"であるのならばそれはまあ、例え行き過ぎだろうとも"ブラコン"という言葉で許されるが、ルフィが"妹"であるとなると……。
「可愛い妹に、"エース一緒に風呂入ろっ!!"、"エース一緒に寝よっ?"って言われて断れるハズがねェだろっ!!」
どどーーーーーーんっ!!!
またしても、そんな効果音がつきそうな程、エースは胸を張って言い放つ。
エースとマルコのやりとりにサッチはただただ苦笑するしかない。
マルコはエースの言葉に頭が痛くなってくる。もちろん、エースの"シスコン"っぷりと言うか、もはや"変態"っぷりに。
「はぁっ、頭が痛くなってきたよい……。」
マルコのぼやきは、夜空に吸い込まれて消えていった。

翌日、あっという間に白ひげ海賊団のクルー全員に"麦わらのルフィ"はエースの"妹"だという話は広まった。
つまり、エースの"シスコン"っぷり、もとい"変態"っぷりも広まった。
そして、そのエースの"変態"っぷりは、ルフィとエースの再会により麦わら海賊団のクルー達にも知られることとなる。

〜おまけ〜
「へェ〜、たしかに男にしとくのはもったいないくらい可愛いとは思ってたけど、まさか本当に女だったとはな〜。」
「女ってわかると、おれちょっと好みのタイプなんだよな〜……。」
「まあ、たしかにおれもそれはわかるなっ。けど、あの手配書みる限りじゃ胸はないよな……。」
「いや、それはわかんねェぞ?さらしとか巻いてんのかもしれねェじゃないかっ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
「"火拳"!!」
ゴウッ
「「「「うわぁっ!!エース隊長ッ!!?」」」」
「お前等、何おれのルフィを勝手に妄想してんだ!!おれのルフィを不埒な目で見る奴は生かしちゃおかねェぞ!!」
「そっ、そっそんな妄想とかしたりしてませんよっ。」
「そっ、そうですよ!!」
「本当か……?嘘ついたらただじゃおかねェから、覚悟しとけよ。」
「「「「ははっ、はいっ!!」
「一言言っておく!!可愛いおれのルフィの妄想してもいいのは兄であるおれだけだ!!」
どーーーーーーーーーんっ!!!


○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。 ○o.。
何だかエースがただの変態になって終わってしまいました(苦笑
エース追悼のつもりでエースの幸せな話を書きたいと思って書いた結果がコレっていう。。。
59巻は本当に涙と鼻水なしには読めませんでした。やっぱり、エース大好きです。
いつものことなのですが、最初は前半部分は手配書の話にして、後半部分はアラバスタのときを書きたかったんですけど、
気が付けばこんなことに。。。いったいわたしの脳内で何が起こったのでしょうかね。。。??
しかも、1ヶ月ぶりくらいの更新作品がコレって。。。何だか読んでくださった方すみませんm(__)m
リクエストをいただいたので久しぶりに"薄桜鬼"の方で書こうかと思ってるんですが、ワンピの妄想が尽きてくれません(爆
ここまで読んでくださってありがとうございますm(__)m

 

 

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