ハロウィンパーティー〜緋色の欠片の場合〜
当代の玉依姫である春日珠紀が鬼斬丸を完全に封印してから一年の月日が流れた。
今日も守護五家のメンバーと珠紀、そして再び学校へ通えるようになった美鶴は、いつもの定位置である屋上にて昼休みを過ごしていた。
「ハロウィンパーティー……ですか、珠紀様?」
「そうっ!!ハロウィンパーティー♪」
お弁当を食べながら楽しげに話しこんでいたところに、珠紀が思い出したように美鶴へと言った。
珠紀は季封村へ来るまでは、毎年10月31日はハロウィンパーティーと称して、友人達と遊んでご飯を食べたりして楽しんでいたのだが、
去年は突然の両親の転勤によってここ、季封村の祖母の下へ来ることになり、
来てすぐに自分は当代の"玉依姫"だと告げられ、世界の命運をかけた戦いの渦の中心へと自分の意思なんか関係なく巻き込まれていった。
鬼斬丸やロゴス……、怒涛の如く押し寄せてくる出来事とこの村と玉依姫に守護五家の真実。
だから、当然だがそんなことをする暇もなかったし、むしろハロウィンなんてもの自体を忘れていた。
今年は、秋祭りの準備があり忙しくないとは言い切れないが、去年に比べれば何てことはない。
季封村の暮らしにもかなり慣れた珠紀は、今年は忘れることなくハロウィンが近いことを思い出し、
例年通りパーティーをやりたいと美鶴へ相談したのだ。
「祐一先輩はさすがに参加できないと思うけど、皆でやりたいな〜って思って。駄目……かな?」
当然準備は珠紀も手伝うつもりなのだが、パーティーとなると料理の準備やら美鶴への負担が大きくなる。
しかも、するなら宇賀谷家、珠紀の家で行うことになるのだからまずは美鶴に許可を取るのが筋だろう。
珠紀に"ハロウィンパーティーやりたいの美鶴ちゃん、お願い!!"っと言わんばかりに上目遣いで両手を合わせてお伺いを立てられれば、
美鶴がノーと言えるはずがない。美鶴は、何よりも珠紀のお願いに弱いのだから……。
「もう……、珠紀様ったら。わたしはかまいませんよ、最近は皆さんで集まることもありませんでしたし、
久しぶりに、にぎやかに過ごすのも楽しそうですから。」
にっこりと微笑んで美鶴が言うと、珠紀の表情はみるみる内に、花が綻んだような笑顔になっていく。
嬉しさを隠し切れないと言った表情で、
「ありがとう、美鶴ちゃん!!もちろんわたしも準備手伝うから!!」
と言えば、その笑顔に美鶴は悩殺され、一人、どうして珠紀様はこんなに可愛らしいのでしょう……っとほぅっと溜息をつくのであった。
二人のやり取りに聞き耳を立てていた守護五家の面々は、ハロウィンパーティーをやる方向で
話がまとまったことを見るや否や、珠紀へと話かける。
「ハロウィンパーティー、僕も参加していいですか、珠紀先輩?」
珠紀と美鶴と共に、お弁当に箸をつけていた慎司が珠紀に尋ねてくる。
「もちろんっ!!むしろ、参加してくださいってお願いするよ。」
にっこりと微笑む珠紀に慎司は頬を赤らめる。
「……僕も、料理の準備手伝いますね!!」
料理の得意な慎司がそう言うと、珠紀はますます嬉しそうに笑って、"ありがとう、お願いするね。"っと言った。
珠紀に自覚はないがその言葉と表情は慎司の頬をますます紅潮させるのに十分な効力を発揮した。
「俺も、参加してやってもいいぜ。」
ちらりと珠紀の方へ視線をやりながら、顔はそっぽ向いて真弘が言う。
「真弘先輩も参加してくれるんですか?ふふふっ、ありがとうございます。」
真弘の素直じゃない言い方に珠紀は笑みを零す。
「ふ、ふんっ。当たり前だろっ!」
照れ隠しからなのかますます素直じゃない態度の真弘に、珠紀は微笑む。
「仕方ねぇから……、俺も参加してやるよ。」
クロスワードの本に視線を落として必死にパズルを解いていたはずの拓磨もぽつりと、だが顔はしっかり珠紀の方を向いて言う。
「ありがと、拓磨。」
嬉しそうに笑ってお礼を言う珠紀の顔を見て、顔が熱くなるのを感じた拓磨は、瞬間ぱっと顔をパズルの本へと向けて、
顔が熱いのを誤魔化すように早口で言葉を返す。
「ばっ、ばーか。そんくらいで礼なんか言ってんじゃねぇよっ。」
「そんな奴に礼なんか言ってやる必要はないぜ、珠紀。俺ももちろん行くからな、ちゃんと待っとけよ。」
チラリと拓磨を見て、ニヤリと口の端をあげて笑いながら遼が言うと、拓磨はヒクッと顔を引き攣らせてパズル本から顔を上げる。
「遼がこういうイベント事に参加してくれるなんて珍しいね!!ありがと、遼っ!」
拓磨の顔が引き攣っていることに気づかない珠紀は、遼が参加すると言ったことを無邪気に喜んだ。
「礼ならそんな言葉より、違う物の方が良いんだがなっ……。」
そう言いながら少し離れた位置に座っていた遼が、珠紀の方へ歩み寄る。
そして、珠紀の前までやってきて目の前にしゃがむと、珠紀を顎を掴んで上向かせ、遼と珠紀の唇が触れ合いそうになったとき……、
「"止まれ"。」
「"静止"。」
っと、美鶴と慎司の二人の声が不思議な音で響き、拓磨のパズル本が遼と珠紀の間に割り込み、
珠紀の口元を真弘の手が覆っていた。
突然の出来事に驚き、目を瞬かせていた珠紀だが、遼の顔が有り得ないくらい近くにあることに気付くとみるみる顔を赤くした。
"ちっ"と遼は盛大に舌打ちをし、御言葉使いの兄妹は"ほっ"と息をつき、拓磨、真弘は"はぁ〜"っと嘆息し、遼を睨み付けた。
御言葉使い二人の言霊によって動けなくなっている遼から、珠紀を安全な場所まで引き離すと、拓磨が不機嫌そうに口を開く。
「っつか、真弘先輩。」
「何だよ。」
「いつまで珠紀の口塞いでるつもりっすか。いい加減離してもいいと思うんすけど。」
「……///!!?」
拓磨に言われるまで、珠紀の口を塞いでいたことを忘れていた真弘は、焦って珠紀から離れる。
「わっ、ワリぃ!珠紀……///。」
顔を真っ赤にして、わたわたと慌てながら真弘が珠紀に謝る。
真弘から口を塞がれていることに気が付いたときから耳まで真っ赤になっていた顔は、未だ赤いままで、
聞き取るのがぎりぎりという程小さな声で珠紀は「いえっ……。」と言った。
屋上が微妙な雰囲気になってしまったのだが、その時天の助けとばかりに昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。
「とっ、とりあえず!ハロウィンパーティーの話は今日の放課後にまた話そっか。」
空になったお弁当箱を包みそれを手に取りながら珠紀が言うと、他の面々は頷いて各々の教室へ、真弘は図書室へ向かい屋上を後にした。
……ただ一人、言霊で動けない遼を残して……。
学校が終わり、珠紀、美鶴、慎司、拓磨、真弘、遼は一緒に帰っていた。
途中、夕食の用意がある美鶴のみ別れ、他の面々は大蛇邸へと向かった。もちろん、昼間に出たハロウィンパーティーの相談のために。
卓は自分の収集しているお茶の中から選んだお茶を淹れて皆の前に出しながら言った。
「それは楽しそうですね、良いんじゃないですか?もちろん私も喜んで参加させていただきますよ。」
卓の賛成の意に珠紀は顔を綻ばせる。
「ありがとうございます、卓さん!ふふふっ、良かった〜。」
どこか安心したように息を吐いて笑い、卓の淹れたお茶を飲む珠紀に卓は問いかける。
「"良かった"って、何がですか?」
こくりっとお茶を飲むと珠紀は口を開いた。
「だって、ハロウィンパーティーなんて子供っぽいかなって思って。そんな子供みたいなことに、
卓さんは参加してくれないかな〜って心配してたんです。
けど、卓さんが参加するって言ってくれたので、安心したのと嬉しかったので、良かった〜なんです♪」
にっこりと笑ってそう言う珠紀に、卓は一瞬瞠目した後、表情を和らげて微笑み返して言う。
「珠紀さんの提案に"否"なんて言いませんよ。貴女の仰せのままにわたしは動きます。」
女性のように美しい顔をしている卓に柔らかな表情でそんな風に言われれば、珠紀は顔が赤くなるのを止めることができない。
「あっ、えとっ、その……。」
「どうかしましたか?」
「ま、間違ってるときには"否"と言って欲しいです……。」
卓のあまりに優しい眼差しと言葉に、珠紀は気恥ずかしくて声が尻すぼみに小さくなっていく。
珠紀のその言葉に、本当に素直で可愛らしい守るべき相手だと思い卓は、自然と口元が綻んだ。
「ええっ、わかっています。貴女が道を間違えそうなときには必ず止めてあげますよ。
ああ、でも珠紀さんと一緒なら道を間違えるのも良いかもしれないと思いますけどね。」
悪戯っぽくそう言う卓に、"もうっ!!からかわないで下さいっ!!"と珠紀が抗議する様子を無言で見守っていた四人……、
真弘、拓磨、遼、慎司は、俺(僕)達に対する態度と全然違うな……っと、軽くじと目で卓に視線を送った。
「そう言えば、この事は狐邑くんには?」
四人の視線なんてものともせず、卓は今ここにいない珠紀のもう一人の守護者のことを尋ねる。
「祐一先輩には言ってないです。さすがについこの間向こうへ戻ったばかりだし、秋祭りには絶対に戻って来てもらわないといけないので、
あんまり無理は言っちゃいけないだろうと思って。」
珠紀は苦笑しながらそう言う。決して戻って来て欲しくないなんてことはないけれど、優しい祐一のことだから、
珠紀が言えば無理をしてでも、季封村に戻ってきそうなので珠紀は言うに言えなかった。
「例えそうだとしても、狐邑くんなら逆に気を遣って言ってくれなかったことを悲しむと思いますよ、私は。」
卓の言葉に珠紀は、"あっ……"と言ってからしばらく逡巡した後に口を開いた。
「……家に戻ったら、祐一先輩には連絡してみます。」
珠紀の言葉ににっこりと笑って卓は言う。
「それが良いでしょうね。」
「ハロウィンパーティーって言うからには、やっぱり仮装は外せないだろ!!」
真弘が楽しそうに言う。
「まあ、めんどくさいっすけどそうっすね。」
口では面倒だと言いながらも拓磨もけっこう乗り気な様子なのか顔は笑っている。
「後、ジャック・オ・ランタンもあった方が雰囲気でますよね。」
にこにこと笑顔で慎司が提案する。
「けど、この村であんな馬鹿デカいカボチャ用意できんのか?」
作るのが面倒だ……と言わんばかりに遼が言う。
「まあ、まだハロウィンまで少しばかり時間がありますから、ネット通販で購入すれば何とかなると思いますよ。」
文明の利器を使いこなす卓がそう言えば、カボチャが手に入らなければやらなくて良いと思っていた作業なので、
遼はその手があったか……と"ちっ"と舌打ちした。
珠紀はと言うと、微妙に皆の会話を聞きながら内心焦っていた。
なぜなら、季封村へ来る前までやっていた珠紀の言うところのハロウィンパーティーとは、
ただ、ハロウィンに託けて皆で集まって、ハロウィン限定スイーツを食べたり、皆でご飯を食べたりという程度のことだった。
そのことを伝えていなかった為、気が付けば本家本元のハロウィンのように仮装やらジャック・オ・ランタンやらの話が飛び交っている。
本当のことを話すべきか……と悩みつつも、珠紀は皆が楽しそうにいろいろ考える姿を嬉しく思った。
今まで、守護五家である皆はいつ死ぬかもわからない状況に生きてきた。常に死という恐怖と隣り合わせの人生は、生きた心地がしなかったはずだ。
鬼斬丸が無くなり、やっと守護五家の皆も自分の為に生きることができるようになった。
ずっと……、わたしがここへ来る何年も前からずっと苦しんできた皆が今は心の底から楽しそうに笑っている。
珠紀にはそれがとても嬉しかった。
"きっとハロウィンを楽しむなんて初めてだよね?わたしも今回のようなパーティーは初めてだけど、
せっかくだからこんなハロウィンも有りかなっ!楽しまなきゃ損?だよねっ!"と珠紀は考えて、皆と本格的ハロウィンパーティーの計画を練り始めた。
「では、ジャック・オ・ランタンのためのカボチャの注文は私がしておきます。仮装の衣装については、
私のところでネット注文するもよし、典薬寮に許可を取ってどこかへ直接買いに行くも良し、自分で作るも良し。
各自での準備ということでお願いしますね。当日の段取り等はまた後日、詰めていきましょう。」
ハロウィン当日までに何の準備が必要かを洗いだして相談し、この日はお開きとなった。
卓の家を後にして、宇賀谷の家へ向かう道すがら話す内容はもちろんハロウィンパーティーの仮装について。
拓磨と真弘がやれこうだと話していてだんだんと喧嘩腰になってくると、慎司が仲裁に入るのだが、
落ち着いた頃に遼がまた拓磨の神経を逆撫でるようなことを言うので、あわや乱闘といった様子を繰り返し、珠紀は終始苦笑していた。
宇賀谷家まで送ってもらい、三人と別れて慎司と珠紀が家に入るとすぐに美鶴が"おかえりなさいませ、珠紀様、お兄さん"っと笑顔で出迎えた。
それから珠紀、美鶴、慎司の三人で食卓を囲んで卓の家で話したことを美鶴にも伝える。
食事が終わると、美鶴と慎司が片付けに立ったので珠紀は先にお風呂をいただくことにして、上がると自室へ戻った。
そして、タオルで髪を拭きつつ珠紀は自室に置いてあるコードレスと睨めっこをする……。
祐一に何て電話をしようと悩み、なかなか受話器を手に取ることができない。う〜ん……と悩みこんでいると、
まるで電話がしびれを切らしたのかのように、鳴り始めた。
タイミングを計ったかのように鳴り始めた電話に、驚き心臓がバクバクしているが、出ないわけにもいかず、珠紀は通話ボタンを押した。
「はい、宇賀谷です。」
「……っ!……珠紀かっ?」
「……。祐一先輩っ!?」
電話の主は図らずも珠紀が電話をかけようとしていた相手で、珠紀は先程よりも鼓動が速くなるのを感じた。
「今、少し話しても大丈夫か?」
「あっ、はい!大丈夫です///」
驚きの連続で珠紀は緊張してきて顔が熱くなっていった。
「クスッ、そうか。良かった。特に用があったわけではないんだが、珠紀の声が聞きたくなってな。」
祐一の言葉にますます珠紀の顔に熱が集まる。
「えっ!?え、えっと///そうだ!!わたしちょうど祐一先輩に連絡しようと思ってたんです!!」
「俺に?どうかしたのか?」
「えっと……、10月31日に皆で集まって、家でハロウィンパーティーをしようと思ってて。
もし、帰って来れそうなら、祐一先輩も参加しないかなぁ……っと思いまして……///」
「ハロウィンか……。知識として知ってはいるがどんなことをする予定なんだ?」
今日決めたこと、最初はここまで本格的なハロウィンパーティーのつもりではなかったこと、
話している内にハロウィンパーティー以外のことも話し始めて、気が付けば一時間程経っていた。
「わっ、もうこんな時間っ!?ごめんなさい長々と話し込んでしまって……。」
ついつい楽しくて珠紀は祐一の都合も考えず話し込んでしまったことを謝った。
「いや、謝らなくていい。少し離れていただけなのに、こんなにも知らないことがあるのだな……。
ハロウィンはそちらに戻れるから、パーティーには参加させてもらおう。」
祐一は少し寂しげに言った後、珠紀にそれを悟られないよう普通であるように努めて、ハロウィンには戻ることを告げた。
「本当ですか!?良かった〜。じゃあ、ハロウィンを楽しみにしておいてくださいね♪
あっ、仮装の準備も忘れずにお願いします!」
祐一の努力の甲斐あって、珠紀は祐一がハロウィンパーティーに参加してくれることを素直に喜んだ。
「ああ、わかった。」
「それじゃあ、長々とごめんなさい。おやすみなさい、先輩。」
機嫌良く嬉しそうにおやすみなさいと言う珠紀に名残惜しさを感じつつも、ずっと電話をしている訳にもいかないので、言葉を返す。
「俺の方こそ電話に付き合わせてすまない。ハロウィン、楽しみにしている。じゃあ、おやすみ。」
「はい、おやすみなさい!」
そう言って電話は切れた。
いろんなことを学んでおいた方が、いずれは季封村のため、ひいては玉依姫である珠紀のためになれるだろうと、
村の外の大学へと進学することを決めたが、卓、真弘、拓磨、慎司、遼はいつも珠紀と共にいて、
彼女のことを見つめることができるが俺は一人だけ……と改めて感じ、祐一は一人物思いに沈んだ。
一方の珠紀は、祐一が参加できるという事実が嬉しくて電話を握り締めて喜んでいた。
各々、仮装の準備やらを行っている間に、あっという間にハロウィンパーティーの日はやって来た。
ハロウィンが週末ということもあり、珠紀、美鶴と守護五家の面々は朝から慌しく夜のパーティーの準備を行っていた。
祐一も前日の講義は昼のみだったため、昨日の夜の内に季封村へ戻ってきたので準備を手伝っている。
祐一、真弘、拓磨、遼の四人は、卓がネット通販で購入したでかいカボチャで"ジャック・オ・ランタン"作りを庭で行っている。
最初は、祐一以外の三人で製作する予定だったのだが、このメンバーだとどうにもすぐ喧嘩に発展してしまい、
作業が進まなくなる恐れがあったというか、作業を始めたばかりからその状態であったために祐一の投入を余儀なくされた。
珠紀と卓は最初、部屋の飾りつけを行っていたのだが、昼頃には終わってしまったために、
美鶴と慎司の料理の準備を手伝うことになり、今は美鶴と卓がメインの料理の準備を行い、
珠紀と慎司でかぼちゃを使ったスイーツの準備を行っていた。
パンプキンプリンに、パンプキンパイ、パンプキンケーキにかぼちゃを練り込んだクッキーやら、
ありとあらゆるスイーツにかぼちゃを使ってみた!!と言わんばかりの種類のスイーツを作り上げた。
午後3時を回り、ぶっ通しで必死に作業を行っていたし、ちょうど良い具合にスイーツもある。
珠紀と慎司の作ったスイーツの内の一品とお茶を淹れ、皆で一旦休憩をとることにする。
「ほとんど準備は整いましたね、珠紀様。」
「うん、朝から頑張った甲斐があったね♪」
嬉しそうに微笑みあう二人の姿に、今までの疲れが癒されたような気がする六人。特に珠紀の嬉しそうな笑顔の威力はすさまじい。
死にそうな程疲れていたとしても、ここにいる面々の誰もが珠紀の笑顔のために頑張ろうと思えるようになる。
「料理の方は後は、揚げ物系を揚げればおしまいですね。」
「スイーツはかぼちゃ全部使いきりましたからおしまいです。」
卓と慎司がそう言うと、祐一がランタンの方の進み具合を教えてくれた。
「こちらも、最後のカボチャの顔をくり抜けば終わりだ。」
「良かった、じゃあ、パーティー始めるまでに各々の着替えとかの時間もちゃんと取れますね。
食べ終わったらもう一頑張りです!!」
出された手作りスイーツをつまみながら、卓が厳選して収集していた茶葉で淹れたお茶を飲んで30分程休憩をとると、
各々作業へと戻り、ラストスパートをかけた。
「終わった〜!!!!!」
庭でジャック・オ・ランタンを作っていた真弘が叫んだ。
「……。」
「はぁっ……。」
「ふんっ……。」
祐一は疲れているはずなのに、その様子を見せず涼しい顔で座っていて、拓磨は真弘の元気さに失笑しながら両手両足を投げ出して座り込んで、
遼は一つのことをやり遂げた達成感を感じつつもそれを隠すように不機嫌そうにしていた。
「もう、ほんっと疲れたぜ〜。す〜ぐ拓磨と狗谷は喧嘩おっ始めようとするしよ。」
真弘が愚痴っぽく言うと、冷静なツッコミが入る。
「お前と拓磨もだろう。むしろ、お前と拓磨が喧嘩しようとしたのが最初だ。」
祐一の的確なツッコミに真弘は"う〜〜〜〜っ"と呻って返す言葉がない。
「お疲れ様です!!わぁ〜すごいっ!!」
真弘の声を聞きつけて珠紀が庭へとやってきて、出来上がったランタンを見て感嘆の声を上げる。
そこには、イラストやテレビの中でだけ見たことのある"ジャック・オ・ランタン"が数個転がっていた。
珠紀は、その中で一つだけ他のランタンに隠すように置かれているランタンを手に取る。
「何か、これだけいびつって言うか……。」
そのランタンは何だか他のランタンと違ってどこかがおかしい。珠紀はどこがおかしいのか探るようにじ〜っとそのランタンを見つめた。
「あっ、わかった!目が丸いんだっ!!」
他のは、目が三角だったり三日月型だったりで笑っている目元なのに、この一つだけ、目が丸くどこか間の抜けた表情をしている。
「ああっ、それは拓磨の奴が一番最初に作ったやつだぜ♪間抜けな顔してるよなぁ〜。」
真弘がそう言いながら拓磨を見てにやにやと笑うと、拓磨は少し頬を紅潮させて言い返す。
「うるさいっす、真弘先輩っ!!」
そして、小声で愚痴るように"だいたい祐一先輩が作業に参加するまで真弘先輩だってどんなのかわかってなかったくせに……"っと呟いた。
「ああ”っ!?何か言ったか、拓磨!?」
拓磨の呟きが聞こえたらしい真弘がそう言うと、「何でもないっすよ。」っと拓磨はふてくされたように答える。
拓磨と真弘の間にそんなやり取りが起きていることにも気づかず、そのランタンをまじまじとみていた珠紀が口を開いた。
「でも、ジャック・オ・ランタンってちょっと不気味な感じだけど、これは何だか愛嬌があって可愛いよね。」
珠紀がそう言って笑うと、拓磨は珠紀から目を逸らして"じゃあ、それはお前にやるよ。"っと照れているのを隠してぶっきらぼうに言った。
「本当に!?ありがとう、拓磨♪」
珠紀が嬉しそうに笑うと拓磨は、ますます珠紀から目を逸らして顔を赤くした。
鈍い珠紀はそんな拓磨の様子に全く気づかず、ここへ来た理由を思い出して口を開く。
「ハロウィンパーティーは19時から始めようと思うので、それまでは各自何をしててもかまわないです。
休むなり、仮装の着替えをするなり、自由に過ごして下さい♪あっ、いつも泊まり時に使ってる部屋も使っていいですよ!」
珠紀はそれだけ伝えると、拓磨の作ったジャック・オ・ランタンを嬉しそうに抱えて戻って行った。
十月も最後になると随分日が暮れるのも早くなり、19時になる頃にはすでに辺りは闇に包まれていた。
いつもは電気のついて明るい宇賀谷家の居間も、今はランタンの中の蝋燭の灯りだけの明るさしかない。
皆、仮装して蝋燭の灯りだけの暗がりの部屋に集まってテーブルを囲んでいる姿は傍から見れば異様な光景だろう。
「んっ、うんんっ。」
喉の調子を珠紀が整える。
「えっと、では、第一回ハロウィンパーティーを開催致します!!皆さんグラスを手にとってくださ〜い。」
言われずともそこにいる面々はすでにグラスを手に持っていた。その様子を確認すると、言葉を続ける。
「じゃあ……、HAPPY
HALLOWEEN♪かんぱ〜いっ!!」
珠紀の乾杯の音頭で皆、グラスを合わせる。
そして、目の前に用意された料理を食べ始めた。
「これは俺が最初から目をつけてた肉っすよ。」
「俺はこの席に座ったときから目つけてた肉だ。」
まだまだ量があるのにも関わらず、一つのデカいから揚げを巡って睨み合いをしているのは、
ミイラ男の格好をした真弘と、吸血鬼(ヴァンパイア)の格好をした拓磨。
「……。」
真弘の隣にいながらまったく我関せずに無心でもくもくとおいなりさんを食べ続けるのは、
血塗れの白衣を身に纏ったフランケンシュタイン博士の格好をした祐一。
(珠紀の横じゃねぇのが癪だが、後で……。)
未成年なのに勝手に酒を呑んでほろ酔い気分で顔を赤くしながらよからぬことを考えつつ、から揚げを食べているのは、狼男の格好をした遼。
「あはは、ははっ……。」
真弘と拓磨のやり取りを苦笑しながら見つつも今日は止める気のなさそうなのは、死神の格好をした慎司。
(鴉取くんと、鬼崎くん、それに狗谷くんは後で説教ですかね……。)
真弘と拓磨、遼の様子を見つつ煮物や巻き寿司をゆっくりと味わいながら食べているのは、魔法使いの格好をした卓。
(こんな可愛らしい格好をした珠紀様の横は誰にも譲りません!!)
珠紀の隣の席をしっかりと陣取って、更にしっかりといろんな物を食べ味わっているのは、雪女の格好をした美鶴。
(みんな楽しそうにしてくれてる、良かった〜。)
そして、皆の様子を嬉しそうに笑いながら見ているのは、キャットガールの格好をした珠紀。
珠紀は暢気に考えていたが、珠紀がそんな風に暢気にしていられるのは、言わずもがな、美鶴のおかげである。
美鶴が、珠紀の横をしっかりと陣取って睨みをきかせているので、守護五家の面々は何も行動を起こせずにいた。
黒猫をモチーフにしているのであろう珠紀のキャットガールの格好は、犯罪級の可愛さだ。
裾や襟、袖部分には黒のファーがついているタイトミニのワンピース。頭にはファーで作られている猫耳のカチューシャで、
タイトミニのワンピースのお尻の部分にはこれまたファーの尻尾。そして、足元は黒のニイハイ……。
そんな珠紀を間近で見たい、独占したいと思うのは珠紀に惚れている男なら当然のことで……。
まあ、珠紀のこの姿を見ればどんな男でもそう思わずにいられないだろうが……。
だが、その珠紀に近寄る為には鉄壁の防御である美鶴を越えなければならない。
鬼斬丸の一件以来、美鶴は珠紀に心酔している。そのため常日頃から、守護五家だけでなく、
珠紀のことを狙っている男から完璧なまでに守り通している。
普段の美鶴は大和撫子という言葉が良く似合う完璧なまでの美少女だが、珠紀のことが絡むと、見事なまでにその姿は消え失せる。
守護五家の面々はその般若のようになる様を何度か目にしているため、美鶴だけは怒らせてはいけないことを知っているのだ。
ではなぜ、美鶴とは逆側から攻めないのかって?
美鶴とは逆隣は、人型をとっているオサキ狐がちゃっかりと陣取っているのだ。
「たまき〜。」
オサキ狐は珠紀の横で嬉しそうに珠紀に話しかけた。
「なぁに、おーちゃん?」
「あのね、あのね!!皆でご飯食べて楽しいね〜、おいしいね〜♪」
にこにこと笑顔で楽しくてたまらないといった様子で珠紀に話しかけるオサキ狐。
「そうだね、わたしも楽しいよ、おーちゃん♪」
オサキ狐の言葉に珠紀も笑顔で答える。
珠紀にべったりと引っ付いているオサキ狐。それを笑顔で受け止める珠紀。そんな二人(?一人と一匹)の間に割って入れる隙などあるはずもないし、
割って入ろうとしたなら、きっとオサキ狐は怒って泣き喚くだろうし、何よりきっとオサキ狐を泣かせた事を珠紀に非難されるだろう……。
美鶴の鉄壁の防御は破れるハズもなく、だからと言ってオサキ狐と珠紀の間に割って入れるはずもなく……。
守護五家の面々は美味しいご飯を食べつつ、ただひたすらにどうすれば珠紀の隣へ行けるか頭を悩ませていた。
そんな誰もが動けないでいる状況の中……、オサキ狐を抱き上げ、自分の膝の上に乗せた人物がいた。
「あ〜っ!ゆういち〜♪ゆういちも楽しい〜?」
オサキ狐を眷属とする祐一だ。
オサキ狐に人間への変化を教えたのも祐一で、眷属でもある為かオサキ狐は祐一によく懐いている。
もちろん、他の守護五家にも懐いてはいるが、祐一だけは珠紀と同じくらいオサキ狐が懐いていた。
自分とオサキ狐で珠紀の両隣を死守すれば、大丈夫だろうと思っていた美鶴は予想外の状況に、くやしそうな表情を浮かべ、
そして、珠紀に気付かれないよう祐一のことをキッと睨んだが、祐一は飄々としてそれを受け流しオサキ狐に答える。
「ああっ、俺も楽しい。」
「ゆういちも〜?楽しいね〜♪」
祐一の答えに満足したオサキ狐は、膝の上でにこにこと笑顔でおいなりさんにかぶりつく。
そんなオサキ狐の頭を撫でながら、祐一が珠紀の方を向いて言う。
「珠紀、連絡してくれてありがとうっ。」
祐一に微笑みながらそう言われると、女なら誰だって顔に熱が集まるのを止められるはずが無い。
例に漏れず、珠紀も顔が熱くなってくるのを感じ、焦ってわたわたとしながら答える。
「いえっ、そんなっ……///。お礼言われるようなことしてないですし……///、祐一先輩にも参加して欲しかったので……///」
そんな珠紀の様子を愛し気に見つめながら、再度「ありがとう、珠紀。」と微笑んで言うと、
珠紀は茹蛸のように真っ赤になって、俯きながら、「……どういたしまして///。」と答えた。
その様子におもしろくない守護五家の面々。
ぎりぎりと歯軋りしそうな勢いでくやしそうな表情を浮かべる美鶴。
祐一の笑顔にノックアウトされて真っ赤になってうろたえる珠紀。
上機嫌なのは、何も知らないオサキ狐と祐一のみ。
こうして、ハロウィンの夜は更けていく……。
〜おまけ〜
「珠紀、Trick or
Treat。」
「はい、祐一先輩っ。どうぞっ♪」
祐一のハロウィンお決まりの言葉に、珠紀はにっこりと笑顔でお菓子を差し出す。
「これは、マフィンか?」
差し出されたお菓子は、ラッピングが少しよれていて中には、ややオレンジ色の焼き菓子が入っている。
「そうです。ラッピングは下手だし、マフィンの形も少し悪いんですけど生地にカボチャを練りこんで、
煮込んだカボチャのブロック状の物を混ぜて作ってみたんです。見た目は悪いですけど、味は美鶴ちゃんのお墨付きですから!」
焦ったように、珠紀が付け加えて言う。その様子が可愛らしくて祐一はくすっと笑って答える。
「そうかっ、ありがとう。大切に食べる。」
「えっ、いやなるべく早く食べて下さい///。」
そんな大したものではないのだからと、苦笑しながら珠紀が言った。
「じゃあ、祐一先輩っ!Trick
or
Treat!!♪」
珠紀がお返しとばかりに決まり文句を言うと、祐一は少し困ったような表情を浮かべる。
「珠紀、すまない。俺はお菓子を持ってないんだ。」
申し訳なさそうな顔で祐一が言うので、そんな困らせるつもりはなかったのにと珠紀は慌てた。
「そっ、そうですよね。気にしないでください!」
焦ってそう言う珠紀に祐一は、
「そういう訳にもいかないだろう。お菓子をあげれないのだから、珠紀のいたずらを甘んじて受けよう。」
っと、にっこりと微笑んで言った。
どこか含みを持つような祐一の笑顔と言葉に、珠紀はますます慌てる。
"そんなつもりじゃなかったのにぃ〜っ。"っという、珠紀の心の叫びが祐一には手に取るようにわかったが、
そんなこと気付いていませんという表情で続ける。
「いたずらしてくれて構わないぞ、珠紀。」
にっこりと、それはそれは綺麗な顔で微笑まれては、珠紀は何も言い返すことができず、
「う〜〜〜〜〜〜っ。」っと困ったように可愛らしく呻って苦悩するのだった。
○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o.。○o。○o.。○o.。
○o.。
サイト一周年記念、第二作目は宣言通りに"緋色の欠片"で書いてみました(汗
書いていたら予想外に長くなっていき、"あっ、終わらねぇ。。。"っと焦りましたよorz
久しぶりに緋色でSSを書き始めたものの、久しぶりすぎて皆の口調が曖昧。。。
けれど、わたし緋色はストーリーブック持ってないんですよorz
調べるのにゲームを引っ張りだすのも。。。っと思い、以前書いた奴やらを参考にしつつ書いたものの、
何か変!!ってとこがちらほら。。。申し訳ありません〜〜〜〜!!!!!m(__)m
薄桜鬼でも予想外の人間が出張ってしまって、緋色でも予想外の人が出張ってしまいました(苦笑
薄桜鬼はホントは、烝さん辺りを出張らせてCPは烝さん×千鶴風味でいきたかったんですが、気付けば沖田さんが出張る、出張る。。。
緋色もホントは、拓磨×珠紀でいきたかったんです。。。気付けば祐一先輩が出張ってました(汗
どうしたというのでしょうねぇ。。。?
さて、次は何で書こうか悩んでいます。コルダ3とヒイロは果たして書けるのだろうかわたし。。。っとかなり不安なので、
とりあえず、遙かかコルダ無印にしようかなと思います(汗
いつもながらの駄文、ここまで読んでくださってありがとうございますm(__)m