あなたがわかってくれればそれでいい
「はぁはぁっ、悪い、遅くなった……。」
司郎は走って来たらしく、息を切らせていた。
「ううん、全然待ってないから大丈夫っ。」
待ち合わせ場所に早く着きすぎたかなでは、司郎を待っている間、次のオケで合わせる楽譜の譜読みをしていた。
そのため、司郎に話しかけられるまで下を向いていたのだが、司郎に答えるべく、そのとき初めて司郎の姿を目に映した。
司郎の姿を目にした途端、かなでは真ん丸な瞳をさらに見開いて口をぱくぱくさせた。
「ん?どうした?」
あまりの驚きに声がなかなか出ない。ようやく発したのはたった一言。
「髪っ……。」
かなでのその言葉に司郎は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「……やっぱ、俺には似合わねぇだろ、こんな髪型……。」
かなでとの待ち合わせ前まで、司郎は吹奏楽部の練習に参加していたのだが、練習の後、かなでとデートだとバレたのが運の尽きだった。
同じ吹奏楽部で一つ下の水嶋が、"火積先輩その格好で行くんですか〜?"
っとか言い出して、俺の髪型を勝手にいじくりまわしだした。
そして、うん、この方が恐くないし、かなでちゃんもきっと喜びますよ〜っとか言いやがるからそのままで来たが……
水嶋の言葉を信用した俺が馬鹿だったと、早くも司郎は後悔をしていた。
が、その後聞こえたかなでの言葉に司郎は驚いた。
「そんなことない!!……すごく似合ってて、かっこいいよ……。」
言っている途中で恥ずかしくなったのか頬を朱に染めながらかなでが言った。
司郎は普段髪型はオールバックにしており、額にある大きな傷とその風貌のためか、周りからよく恐がられる。
しかし、今日の髪型はオールバックではなく、いつもは後ろに流している前髪を下ろしていた。
いつもと雰囲気が違う司郎に頬を染めながらもかなでは見惚れた。
かなでの言葉に司郎も何だか恥ずかしくなり、頬が赤くなっている。
それを隠すようにそっぽを向きながらぶっきらぼうに、かなでに礼を言った。
「……ありがとなっ……。」
しばし、二人共赤くなり沈黙していたが、ふと時計が目に入りかなでが焦ったように声をあげた。
「わっ、もうすぐコンサート始まっちゃう!!行こうっ、司郎くんっ。」
向日葵のような笑顔で司郎に言うと、司郎も普段は見せない微笑を浮かべて答えた。
「行くかっ。」
「素敵な演奏だったな〜。ね、そう思うよね??」
振り返りながら上機嫌にかなでが司郎に問いかけた。
「まあな。チャリティーコンサートにあれだけ豪華な顔ぶれなら当然だろう。」
「それはそうだけど。でも、本当にすごかった〜……。」
司郎の答えに対してちょっぴり拗ねながらも、先程聴いた演奏を思い出したのか、ほうっとかなでは感嘆の声を洩らした。
そして、上機嫌に先程演奏された曲を鼻歌で歌い始めた。
鼻歌を歌いながら楽しそうに歩いているのはいいのだが、注意力散漫でこけやしないか司郎は内心はらはらしていた。
「わたしもあんな演奏できるようになりたいな〜。ねっ、なれるかな〜?」
司郎に聞こうと振り返ったのだが勢いがつきすぎたのか、かなでは途端よろけた。
こける!!手だけは……っとかなでは地面にぶつかるのを覚悟して目を瞑り身を固くして衝撃を待ち構えたのだが、
いつまでたっても自分の身体に衝撃がない。何で?っと思い、おそるおそる目を開けると、
目を瞑る前と地面への距離は同じ。どうして?っと考えていると、頭上から盛大な溜息が聞こえた。
「はぁっ……頼むから、少しは注意して歩け。」
かなではそこでようやく自分のお腹辺りに司郎の力強い腕が回されて、こけないよう支えてくれていることに気が付いた。
未だに手はお腹の辺りに回されたままで、かなでは顔に熱が集まるのを感じた。
「ごめんね……。ありがとう、司郎くん。」
恥ずかしさと、情けなさからかなでは俯いてしまう。
そんなかなでの様子を見て司郎は、かなでを立たせて、頭をくしゃりと撫でた。
「いや、かなでに怪我がないならいいっ。」
さりげない司郎の優しさにかなでは、ああっ、やっぱり司郎くんは優しいなっと頬が緩むのを感じた。
「あれっ?小日向さん?」
かなではきょろきょろと自分の名前を呼んだ人の姿を探す。
そして、見知ったクラスメイトの姿を見つけた。
「こんなところでどうしたの?」
「ちょっと、買い物をね。小日向さんこそどうしたの?」
「学院の近くの教会でチャリティーコンサートがあったからそれを彼と聴きに行ってたの。」
にっこりと嬉しそうに微笑みながらかなでが答えると、そのクラスメイトは、かなでの耳の近くで小声で言った。
「一緒にいるのって、至誠館高校の吹奏楽部の人よね?一緒にいたりして大丈夫なの?去年、吹奏楽部が出場停止になったのって、彼が事件を起こしたからなんでしょ?」
かなでの顔色が変わる。普段ふわふわしているかなでからは想像できないくらい怒っている。
「……司郎くんのことよく知りもしないのに、そんな風に言わないで。」
学院にいてもこのように怒ることのないかなでが怒っている様子に、驚いたが開き直ったそのクラスメイトが言った。
「なあに、心配して言ってあげたのに、好きにすれば?じゃあねっ。」
機嫌を損ねたようにそう言うと、クラスメイトの子は去って行った。
かなでは司郎が誤解されているのが悔しくて堪らなかった。しかし、ここで自分が泣くのは筋違いというものだ。
だからかなでは泣かないよう、口を結んで必死に耐えていた。
「……悪いな。また俺のことで何か言われたんだろ。」
かなでの知り合いがいたので、自分と一緒にいることでかなでまで何か言われるのではないかと思い、
司郎は少し離れた場所にいたのだが、かなでの知り合いは怒ったように去っていき、かなでは俯いてしまっている。
ああ、やっぱり俺のことを何か言われたのかと思い、司郎はかなでに謝罪した。
司郎は自分がどんな風に言われているかくらいは知っている。
この風貌に、吹奏楽部の出場停止の話。言われても仕方がないこともわかっている。
かなでは司郎の謝罪と呟きに対して、俯いたまま首を横に振った。
「俺なんかと一緒にいるせいで、本当にすまねぇ。」
司郎の言葉にかなではまた大きく首を横に振った。
そして、涙声で耳をすまさなければ聞こえない程小さな声で言った。
「何で、わかってくれないんだろう……。司郎くんはこんなにも優しい人なのに……。」
かなでは、自分が何か言われたのではなく、知り合いに司郎を悪く言われたから泣いていたのだ。
かなでの言葉で、そのことに気が付いた司郎は、知らず顔が微笑みを形作っていた。
「俺は、かなでがそう思ってくれるんなら、他の奴が何て言おうがかまわねぇよ。」
司郎はそう言うと、かなでの頭をぽんぽんとやさしく撫でた。
かなでは司郎が撫でるのを心地良さそうにしながら言った。
「……ほら、こんなに優しくて、こんなに優しい顔をする人なのに。」
司郎を見上げる瞳に涙を溜めたまま、少し怒ったように言うかなでの頭を再びくしゃりと撫でると、司郎はかなでに聞こえないくらいの声で呟いた。
「ありがとうなっ……。」
あなたがわかってくれればそれでいい……
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金色のコルダ3、フライング二次創作させてもらいました!!
わたしがよく読ませていただいている二次創作サイト様がコルダ3のフライングSSを書かれているのを拝見して、
わたしの脳内妄想が始まり、そこから生まれたブログ用SSSに追記・修正を行って短いですがSSを書かせていただきました。
あくまでもわたしの脳内での、かなでと火積っちなので、実際のキャラとはかなり違うと思われます。。。
ブログにも書いたのですが、わたしの中で火積っちは、"桜蘭高校ホスト部"のボサノバくんのイメージなのですよ。
なので火積っちは、見た目恐いけど中身はピュアで優しいイメージなんです。。。
LaLa
specialでのコルダ3マンガ化で、火積っちが前髪おろしたコマに萌えてしまい、こんなん書いてしまいました。
あっ、補足ですが星奏学院の近くの教会でのチャリティーコンサート、もちろん出演したのは、香穂子達です!!
あの、豪華コンクール及びアンサンブルメンバーは今はそれぞれ音楽の世界で活躍してる有名人!!ってことで!!
ここまで読んでくださって、ありがとうございますm(__)m