先天性サラダ船長
みんなのアイドル in 白ひげ海賊団 前編


「四皇」、それは新世界に君臨する四つの海賊団のことを指して言う言葉。
「世界政府」「王下七武海」「四皇」これらがあるからこそ、今のところ海の均衡は保たれている。
その巨大勢力の一つ「四皇」の一角を担う、白ひげ海賊団。
その白ひげ海賊団の本船である、モビー・ディック号に今日も海賊船には不釣合いな高めの元気な声が響き渡っていた。

「えェ〜〜〜〜〜〜っ!!!何でだよ、親父っ!!おれ、ぜってェいやだかんなッ!!」
頬を膨らませて何かを猛抗議しているのが、この船のクルーで、"麦わらのルフィ"と名を知られている、モンキー・D・ルフィ。
「グララララララッ。まあ、そんなこと言うな、ルフィ。」
ルフィに"親父"と呼ばれているこの人が、「四皇」の一人。白ひげ海賊団の船長、白ひげことエドワード・ニューゲートである。
「行くのは全然いいけど……いやむしろ行きたいけど!!それだけはやだかんなっ!!」
ルフィが何を頑なに嫌がっているかと言えば、女物の服を着ることだ。
白ひげの庇護の下にある島の近海で最近、暴れ回っている海賊がいると言うのだ。
その海賊を追い払う、基ぶちのめして来いと言うのがルフィが言われていることの一つ。
ルフィは行くこと自体は、むしろ願ったり叶ったりで大乗り気なのだが、もう一つ、敵を油断させるために、
女らしい格好で行って来いという方を嫌がっている。
普段のルフィの格好と言えば、赤のタンクトップにデニムのショートパンツ、頭には、宝物の麦藁帽子で足元はサンダル。
出るトコ出て、締まるトコ締まっているルフィのスタイルでその格好はかなり刺激的ではあるが、
概ね女らしい格好とは言えない格好をルフィは普段からしている。
ルフィがスカートを履くことはない。理由は簡単、動きにくいからだ。
ルフィが女らしい格好をしないのを白ひげ海賊団のクルー達は非常に残念に思っていた。
そりゃ、常日頃の格好も十分に刺激的であるし、ルフィに良く似合っている。
が、せっかくの美少女なのだから、女らしい格好もさぞかし似合うだろう。是非ともしてもらいたい!!
それがクルー達の本音だ。それはもちろん白ひげも同じ。
可愛い娘の可愛い姿を見たいに決まっている。
そんな風に思っているところへ、自分の領海(シマ)の近くで暴れているという馬鹿達の話。
目撃情報からするにルフィの実力よりもかなり格下の海賊だ。
それならば、多少動きにくいと思われる格好でも、十分に勝てるだろう。
そいつらに可愛いルフィを見せたくはないが、ルフィに女らしい服を着せる良い口実ではある。
隊長達及び白ひげの間でそのように話がまとまり、その指示を白ひげがルフィに伝え、今のような状態になったというわけだ。
ちなみに、格下の相手とわかってはいるが、もちろんルフィの安全を考慮して、ルフィには内緒で、
エースとマルコが後を尾けることになっている。
「ルフィがそんなに嫌がるってんなら、実力的に厳しいかもしれねェことだ、エースでも行かせるか。」
白ひげに非常に残念そうにルフィをチラリと見ながらそう言えば、ルフィは慌てる。
「実力的に厳しいなんてことねェって!!」
女らしい格好は嫌だが、絶対に行きたいルフィがそう言えば、白ひげがそれに答える。
「けどなァ、油断させてこそお前の実力でなんとかなる相手だと俺は思ってんだ。
ルフィが女らしい格好が嫌だってんならお前を行かせるわけには行かねェなァ。」
至極残念そうに白ひげがそう言うと、ルフィはう〜〜〜〜〜〜っと呻った末に、腹を括って言う。
「……本当は絶対ェいやだけど……、でも親父がそう言うなら女らしい格好するから、おれに行かせてくれっ!!」
その様子を影から見守っていた、1〜5番隊の隊長達は"よしっ!!"とガッツポーズで喜ぶ。もちろん表情には出していないが、
白ひげも内心してやったりとニヤリッと笑った。
「そうかァ。そうと決まれば、おいお前ェ等、この辺りでデケェ、デパートのある島へ行くぞ。」
白ひげの指示でモビー・ディック号の針路があっという間に変えられた。
突然の進路変更にわけがわからないルフィは、どうしていきなり!?っと言わんばかりに大きな瞳を真ん丸くして驚いた。

ルフィが状況を把握できないままモビー・ディック号が針路を変えて小一時間程で、船はとある島へ寄港した。
「おい、ルフィッ!!」
白ひげがルフィのことを呼ぶ。
「何か用か〜?親父?」
白ひげの声にルフィがやって来る。ルフィの姿を確認するとニヤリと笑いながら白ひげは言った。
「お前は、女らしい服なんか持ってねェだろうが。だから、ここで買って来い。」
その言葉にルフィは一瞬固まって、すぐさま"えェ〜〜〜〜〜〜〜〜!!?"っと叫んだ。
ルフィの想像通りの反応に白ひげは楽しそうに笑って続ける。
「グララララッ。ついでだから、女らしい服を最低20着は買って来い。金のことは気にするんじゃねェぞ。
いいか?これは、命令だからな!!絶対に買って来い。」
楽しげに笑う白ひげとは対照的にルフィは"命令"と言う言葉にがっくりと肩を落とした。
そのための針路変更だったのかと今更ながらにようやくルフィは気が付いた。
「あァッ、忘れるところだった。誰か一人は絶対に連れてけよ、ルフィ。誰を連れてくかはお前に任せるがな、グラララララッ。」
ルフィは強いが、ルフィは間違いなく可愛い。性格は概ね女らしいとはお世辞にも言えないが、ぱっと見れば美少女だ。
それに白ひげ海賊団のクルーの中でも有数の名の知れた賞金首だ。
人攫いにでもあったら困る、だからボディガードとして誰か連れてくようにと白ひげは言った。
当のルフィはボディガードとして連れて行けという白ひげの思いなど知るはずもなく、
誰かって言われてもな〜……っとよく遊んでくれるクルーを一人一人頭に思い浮かべて考えてみる。
そもそも皆、女物の服なんか買いに行くのに付き合わされるのもめんどうなんじゃないか?
そう考えが及ぶと、ルフィは早々に考えるのをやめて次に会った奴にでも頼むか〜っと決めた。
「わかった。船下りるまでに次会った奴連れてく。じゃあ、親父いってきます!!」
白ひげとルフィの会話を盗み聞きしていた隊長達は、その話を聞いて我先にとルフィの前へと飛び出した。
いきなり、現れた隊長達にルフィは吃驚する。
そして、これまた我先にと隊長達は一気に口を開く。
「ルフィ、どこか行くのかよぃ?どっか行くんなら一緒にいってやるよぃ。」
「よォ、ルフィ。兄ちゃんと出かけないか?ウマイもん食わせてやるぞ!!」
「あー、ルフィ。その、なァ……。買い物行くならお前が迷惑じゃなけりゃ荷物持ちしてやろうか?」
「どっか行くのかルフィ?良かったらおれと一緒に出かけないか?」
「ルフィ、もしよけりゃおれと一緒に出かけないかい?」
五人に同時に言われ、ルフィは瞳を真ん丸にしてその後、コテンっと首を傾げた。
……皆そんなに出かけたいのだろうか?
皆、"自分と出かけたい"のだと気付くはずもないルフィは、ただ単純に皆どこかへ出かけたいんだっと判断して言う。
「悪いな、おれ親父に言われた買い物があんだ。だから、どっか行きてェんなら皆は一緒に出かけたらいんじゃねェか?」
皆出かけたいと思ってるなら、皆が一緒に出かければいいんだ!!っと名案を思いついたかのようにニコニコ顔でルフィがそう言うと、
5人は、"えっ!?"と一瞬固まった。そして、思考が回復するまでの間に運悪く彼等の後ろをイゾウが通りすぎようとした。
イゾウの存在に目敏く気付いたルフィは、5人に声をかける。
「最初に会った奴に頼もうと思ってたけど、みんなどっか出かけたいみてェだし、おれの買い物に付き合わせるのも悪いから、
他の奴に頼んでみるな!!皆、楽しんで来いよ?じゃあな!!」
ルフィはそう言うと、"イゾウ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!"っとイゾウの名前を呼びながら走り去って行った。
残された5人はいったい何が起こったのだ?という様子で呆然とそこに立ち尽くす。
その様子をしっかりと見ていた白ひげは、
「グララララララッ。お前ェ等、見事にルフィに振られたなァッ。」
そう笑いながら言った。5人はそれが聞こえているのか聞こえていないのか、そのまま灰になってしまいそうな程、
真っ白になって呆然と立ち尽くしていた。
その呆然とした様子の5人から少し離れた場所では、ルフィがイゾウを捕まえて、一緒に行ってくれないかと頼んでいるところだ。

「イゾウ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
ルフィの声にイゾウは振り返る。こちらにルフィが走り寄って来ていたので、イゾウはその場で足を止めてルフィを待った。
すぐにルフィは追いついてくる。
「どうした、ルフィ?」
イゾウが尋ねると、ルフィは少し伺うように無意識の上目遣いで質問を投げかける。
「イゾウ、今から何か用事あったりするか?」
そのルフィの可愛らしい聞き方にイゾウは頬を綻ばせ答える。
「いや、特段用事はないが、それがどうかしたのか?」
イゾウの答えにルフィは「ホントかっ!?」と嬉しそうにして続ける。
「お願いがあんだ!!おれと一緒に買い物行ってくれねェか!!?」
頼みでもあるのだろうと思っていたが、買い物に付き合って欲しいとは珍しいこともある。
どんな無理難題な頼みだろうと、可愛いルフィの頼みなのだ断るという選択肢は存在しない。
「ああっ、いいぞ。付き合ってやるよ。」
イゾウの答えにルフィは満面の笑みを浮かべて「ホントか〜!?ありがとう、イゾウッ!!」と喜んだ。
ルフィのその声にようやく、マルコ、エース、ジョズ、サッチ、ビスタの5人はこちらの世界へ戻ってきた。
そして、ルフィの様子とそこにイゾウがいることからイゾウがルフィと一緒に買い物に行く美味しい……、
美味しすぎる役を獲得したのだと悟り、イゾウへ向けて殺気を迸らせる。
イゾウはその殺気にすぐに気が付いたが、ルフィと二人で買い物に行けるなんて美味しい話を逃すつもりはない。
無視を決め込み、ルフィと2人買い物へと出かけた。

かなり大きな港町で、中心部へ近付くほど賑わいを見せている。
そのメインストリートをイゾウとルフィは連れ立って歩いていた。
「聞くのを忘れてたが、何を買うんだ?」
ルフィのお願いなので、無条件に受けたためルフィが何の買い物をするのか聞いていなかったとイゾウは尋ねる。
「ん〜〜〜〜〜……。……親父が、女らしい服を買って来いって。それも最低20着も!!」
眉尻を下げ、情けない顔をしながらルフィはがっくりと肩を落とす。
イゾウはその話を聞いて、親父いい仕事してんなとルフィに気付かれないようほくそ笑んだ。
ルフィとしては、御免被りたいことかも知れないが白ひげ海賊団のクルーにとっては、全くもって嬉しい限りのことだ。
可愛いルフィには、可愛い格好が似合うと常々クルー達は思っていたのだが、当のルフィが、
そういうものを嫌っているためそういう姿のルフィを見る機会には恵まれなかった。
だが、ついに可愛い格好をしたルフィを拝める機会が巡ってきたのだ。嬉しくないはずがない。
しかも、イゾウは運よくルフィの買い物のお供として選ばれた。うまくやれば、自分の好みの格好をルフィにさせれるのだ。
そこまで考えが至ると、イゾウはルフィにどんな服が似合うだろうか……、いやルフィに似合わない服なんてないが、
どんな格好が良いだろう……と考え始めた。
イゾウのそんな様子に全く気付くことのないルフィは、落ち込む気持ちを奮い立たせるように、
これは、親父の命令なんだから仕方ないと自分を納得させて、イゾウへ声をかける。
「とりあえず、デパート行ってみっか!!」

そんな2人の様子を影から見守る……いや、そんなイゾウの様子を恨めしげに殺気を放って5人は見ていた。
ルフィと2人きりで買い物だなんて、うらやましすぎる……5人の思っていることは珍しくも同じであった。
ルフィとイゾウが移動すれば、5人も見失わないようすかさず後を尾けて行く。
「クソッ、イゾウの奴おれの可愛いルフィとあんな楽しげに買い物なんかしやがって。」
楽しげに服を見て回る2人を見て、エースがイライラを我慢できず身体から炎を出した。
「うおっ、熱いじゃねェかよぃ、エース!!!それに、お前のルフィじゃないよぃ!!!」
「何ィッ!!?ルフィは可愛いおれの妹なんだから、おれのルフィで間違いねェだろっ!!!」
「全然違うよぃっ!!!」
「エース!!マルコ!!あんまうるせェとルフィに見つかっちまう!!」
いろんな店を覗いて服を選ぶルフィとイゾウの様子にマルコも苛立ちがピークだったためか、
エースとケンカをおっ始めようとするのでサッチが急いで止めに入った。
そんなことお構いなしに、ジョズはじっとルフィを見つめて言う。
「それにしても……、ルフィ、本当に何着ても似合うな……。」
「全くだ。いつもの格好も似合ってるが、ああいう格好のルフィも良いな……。」
ジョズの言葉にビスタも同意する。
こんな風に時折、物陰でケンカをしながらも、また別の店へと移動するルフィとイゾウに気付いてハッとしたように黙り込んで尾けて行っては、
また物陰から2人の様子を伺う5人は、どう見ても不審そのもので……。
「ああっ、ルフィ……。お前のことはおれが一番よく分かってんだ。おれの選んだ服を着て欲しかった……。」
そんな風にぼやくエースの肩がぽんぽんっと叩かれた。
「ああ”っ!!?何だよマルコ!!!」
可愛いルフィを見ながら物思いに耽っているところを肩を叩かれ邪魔されたので、苛立ちを隠そうともせずエースは後ろを振り返る。
先程まで自分の後ろにいたのはマルコだったので、当然邪魔をしたのもマルコだと思っていたのだが、
そこには、ニッコリと黒い笑顔を浮かべた……
「行動が怪しい人間がいるって通報があってね。ちょっと話を聞かせてもらえるかな?」
おまわりさんがいた……。

 

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